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第8話

 授業は、オリビアの記憶のおかげで問題なく理解できた。オリビアはこんなに賢いのに、学年の試験の成績はというと十五位らしい。どうやらクリストフェルより目立たないように、オリビアは試験の点数を調整していたようだ。本当、賢いのかお馬鹿なのか分からない。

 昼休憩になり教室を出ると、すぐにクリストフェルに声を掛けられた。


「オリビア!」

「第三王子殿下にご挨拶を申し上げます」

「か、髪を切ったのだ。オリビアの顔を見るのは、その、久しぶりだな……だが、昨日から何かいつものオリビアではない。一体、どうしたのだ?」


 クリストフェルの態度がやけに堅苦しい。普段だったら、オリビアに命令しかしないのに。


「殿下。どうした、とはどのような意味でしょうか?」

「まずはそれだ。以前はクリス様と愛称で呼んでいたではないか?」


 以前のオリビアなら、クリストフェルを付け回しながら『クリス様、クリス様』とご主人様大好き従順ワンコのように懐いていた。オリビアなら普通だろうこの記憶が私には拷問でしかない。穴があったら、誰か今すぐそこに埋めてくれ!

 黒歴史を脳内の記憶からブロックしながら、クリストフェルに微笑む。


「殿下とは婚約破棄の予定でございます。わたくしがいつまでも殿下を愛称で呼ぶわけにはまいりません。それよりも、婚約破棄の手筈はいかがでしょうか?」

「それは……まだ、父上に話しをしていない」

「まぁ。大変ですわ。陛下にも一刻も早くお伝えしなければいけません。わたくしは、すでに父に知らせの手紙を送りましたのよ」

「何! いつ送ったのだ?」


 クリストフェルがやや動揺しながら問うので、清々しい笑顔で返事をする。


「本日、朝一番にですわ」

「そ、そんなに早く!」


 クリストフェルが慌てながら言う。

 この坊やは何を焦っているの? 自分から婚約破棄したいと言ってきたくせに……。

 まさか、今さら気が変わったとか……そんなのはやめてよね。

 それとも、ランカスター公爵家の後押しがなくなることで焦っているのか? いや、それなら始めから婚約破棄の話はだしていないよね?

 現在、この国は王太子の座をかけて三人の王子が争っている。ランカスター公爵家には、オリビアしか令嬢はいない。第三王子がランカスター公爵家の後押しを得るには、オリビアと婚姻を結ぶのが手っ取り早く確実なのだ。きっと公爵家にオリビア以外の娘がいたら、そちらが選ばれていただろう。

 でも、クリストフェルはそんな事実は始めから分かり切っている……はずよね? 私は王太子妃の座とか興味ない。私が王妃とか……ナイナイ。公務、お茶会に舞踏会……絶対に面倒くさそうなイベントが盛りだくさんだ。正直、本来のオリビアが王妃になるというストーリーラインがあったとしても、オリビアもそんな器じゃないと思う。申し訳ないと思いつつも……記憶を巡ってもオリビアが国母になれる要素は少なかった。

 静かになったクリストフェルに尋ねる。


「何か問題でもございましたか?」

「いや。ただ、こんなに早く話が進むと思っていなかっただけだ」


 ああ、こいつ……一か月後の卒業のパーティで盛大に私を振って、公爵家とのこれからの関係を自分優勢にしたかったのか。オリビアと結婚しなくても、何かしらランカスター公爵家から支援を受けれるようにとか……?

 うん。今、覚った。この世界で生きて行くことを強要されるのなら……私の目標は、オリビアの記憶の中にある面倒な人たち全てから離れて暮らすことだ。慎ましく暮らし、可能なら不労所得があるニート生活でも目標にしよう。そのためにも王子の都合での婚約続行などは断固拒否したい。一日も早く婚約破棄を希望する!

 今すぐにでも、クリストフェルの無害そうなこの童顔を殴りたいが……そんなことをしたら、王族の護衛の騎士に掴まって即効で地下牢行きだろう。


「殿下。わたくしは、これから昼食に向かわせていただきます。陛下に婚約破棄の件をきちんとお伝え頂くよう、切にお願いいたしますわ」


 笑顔でクリストフェルに念押しをすると、食堂へと足を運んだ。

 

 今日の昼食は、貴族の面倒ごとを避けるために再び平民の食堂で取る。平民のクラスメートには悪いと思っているけど、貴族の食堂は堅苦しそうなだけではなく、記憶では油物が多い。貴族の食堂に行ったらフォアグラ養殖場並みの肝臓イジメにあってしまう。

 平民の食堂では、また不躾に視線を送られるが特に気にしない。

 一人で昼食を食べていると、隣から声をかけられる。


「なぁ、あんた公爵家のお嬢様だよな?」

「はい、一応」


 声を掛けてきた平民の制服を着た青年は、青髪で健康的な身体、肉付きも良い。この人もオリビアの記憶にはいない。この世界、本当に派手な髪色が多いよね。


「なんでこっちで飯を食うんだ?」

「うーん……健康的で美味しいからですかね?」

「なんだそれ? それより、そんな少量の飯で足りるのか?」


 オリビアは少食の痩せ型だ。別に体質では無い。ランカスター公爵家の屋敷でも使用人に意地悪をされて食事ができない日もあった。そんな生活をしていたら、少食になっただけだ。最終的な目標はニート生活だけど、この痩せ過ぎたオリビアの身体もどうにかしたい。この体、筋肉つくのかな? モリモリの筋肉娘を目指すのも悪くない。


「あー、聞こえているか?」


 自分の妄想に耽っていたら、心配そうに青髪の青年が私の顔を覗き込む。なんだか距離感が近いので、やめてほしい。


「今のところ、これでお腹いっぱいですわね」

「そうか。俺はアランだ」

「オリビア・ランカスターですわ」

「噂のオリビア様か」

「《《噂》》のですか?」


 どうせ碌でもない噂だろうが、一応聞いてみた。アランが言うには、私は子爵令嬢に意地悪をする悪い令嬢だと噂されているらしい。はいはい、ゲームの台本通りの悪役令嬢ですね。

 ピンク頭に意地悪をしたのは事実だから言い返せないが、取り巻きに指示してイジメたって話は事実無根です。だって、オリビアはボッチですから。意地悪の内容も飛躍され過ぎて思わずケッと口に出し、視線を逸らす。


「ふーん。そうなのですね」

「反応が薄いな。それだけか?」


 アランは私の反応を楽しんでいるようだ。なかなか趣味が悪いと思う。

 そんなアランに尋ねてみる。


「アランは私のことをどう思いますか?」

「俺か? そうだな……噂ってのは信用できないな。俺には悪い令嬢には見えないな。まず、俺がこんな感じで声を掛けても『不敬だ』とか騒がないだろう」

「へぇ、私を試していたの?」

「そんなことはないが……オリビア様は、兄貴とは違うな」


 アランがボソッと呟く。アランはどちらかの兄の知り合いなのか? 可能性が高いのは、一つ年上の下の兄だ……。

 昼食を食べ終わったので、外のベンチで一休みする。

 この身体は体力がなく、すぐに疲れる。

 なぜか食堂からついてきたアランも隣で一緒に日向ぼっこをしている。この人、なんでついて来た。悪い人ではなさそうだけど、オリビアに構う理由が不明だ。 

 今日の外は気持ちがいい。どうせなら日焼けしてくれないかな。オリビアの肌の色が白過ぎて落ち着かない。

 ベンチのある学園の中庭は、たくさんの生徒で賑わっている。

 この学園は、十五歳から十八歳までが通う高等学校だ。学園に通っている大部分が貴族で、平民は奨学金を受けた優秀な者か豪商の子息子女だ。

 貴族は魔力さえあれば誰でも入学可能なので、学力が足りないだろう貴族の者も在学していたりする。


「オリビア様、これは何をしているのだ?」


 日向ぼっこに飽きたのか、隣に座るアランが尋ねる。


「オリビアで結構です。これは、食後の休息ですよ。ボーっとして太陽を浴びて、またボーっとするのです」

「変わった趣味だ。実は俺、オリビアの兄貴と同じクラスなんだ。彼は隙がない完璧主義者だから、オリビアも同じだと思ったけど……違うな」

「私に兄はいません」


 即座に兄の存在を拒否する。兄らしいことをしてもらった記憶はオリビアの中にはないし、数は少ないが言葉を交わした際には心を抉られるようなことを言われた。


「いやいや、いるだろ。カイル様だよ」

「気持ち良い日向ぼっこを、変な名前で台無しにしないで下さい」


 アランには仲が悪いのか、すまんなと謝罪された。

 これはアランのせいではない。ただの私の八つ当たりだ。


「アラン、ごめんなさい。貴方のせいではないの」

「……貴族に謝罪されたのは、初めてだ」

「自分が悪いのなら、謝りくらいするわよ」


 リリアンにも謝罪しなければならない。オリビアが意地悪をしたのは事実なのだから。

 あの日は結局、クリストフェルの横やりのせいできちんとした謝罪ができていない。もちろん、二人からも私……というかオリビアに謝罪をしてほしい。オリビアという婚約者がいるのに、イチャコラを毎日見せつけていたのだ。謝罪くらいできるだろう。

 授業に戻る時間になったので、アランとは別れ教室へと向かう。

 教室の前で私を待ち伏せしていたトーマスが、急いで駆けてきたので舌打ちをする。


「オリビア様!」

「トーマス、なんでしょうか?」

「お伝えします。公爵様が、王都の公爵邸に今すぐ戻るようにとのことです」

「嫌です」

「お嬢様!」


 即座に断る。私はこれから午後の授業なのだ。それに、公爵がこんなに早く対応してくるとは思わなかった。

 オリビアは以前にも公爵に手紙を出したことがあったが……無視されるか、必要なら執事からの最低限の返事があるのみだった。たぶん、公爵はオリビアからの手紙など読んでいないのだろう。今回も正直、公爵宛てに出した手紙は何日も放置されると思っていた。婚約破棄の件は流石に効いたらしい。

 問題はクリストフェルが陛下に婚約破棄を伝えていない今の状態なら、またオリビアの癇癪で収められてしまうかもしれない。どうにか、クリストフェルが陛下に婚約破棄を伝えるまでは、公爵との面会まで時間稼ぎをしたい。


「学園の規則では外出許可が必要です。一週間後でしたら可能とだとお伝え下さい。トーマス、この話は以上です」


 外出許可はたぶん二日もあれば下りる。オリビアは今まで外出許可を申請したことがないので、トーマスもすぐには言い返せずに引き下がった。とことん無能だな、トーマス。

 公爵が思ったより早く反応してきたので、クリストフェルには早く婚約破棄に向けて行動してくれないと困る……揺さぶるか。



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