第50話(一章完結)
シュヴァイツァー公爵での事件から数日後。情報収集のためにシナリオで主人公たちが後によく通う貴族のカフェにてカルとお茶をしながら優雅に過ごす。すると、案の定、周りから囀りが聞こえてくる。
「例の事件を起こした公爵の家庭教師、自ら生を閉じられたそうです」
「まぁ……そうですの。生家の伯爵家も社交界では肩身が狭くなりますね」
あの事件の場には数多くの貴族の目撃があった。シュヴァイツァー公爵がどんなに隠そうが噂というのは広まる。
ジェラルドは自死したと、表向きはそうなっているようだ。だが、公爵邸の地下牢を監視させていたダンによると、ジェラルドは拷問の末に死んだという。まぁ、最後まで私に対する怨嗟の声を上げていたらしけど。
口角を上げ紅茶のカップに口を付ける。
「誰にも自分の声が届かない、その悔しさをその身で感じてくれたかしら」
シュヴァイツァー公爵がジェラルドを生かしておくとは思わなかった。私にとってもジェラルドがいなくなったことは都合がいい。裁判など余計な事態になれば公爵にも私にも都合が悪いだけだった。
――公爵が手を下さなかったら、私が始末していただけだけど。
「オリビア、また悪い笑い方をしているぞ」
「朗報だから、少しくらいはいいのよ。それより、例の子の調子はどう?」
「身体は町医者のおかげでだいぶ癒えたが、まだ言葉は発していない」
「そう……」
ジェラルドに暴力を受けていたエリアス少年。町医者の話では、以前受けた骨折などの怪我の回復具合から暴行の期間は最低でも半年以上はあったということだ。町医者から処方された治癒ポーションは効き目がよく、エリアスの受けた新しい暴行の痕はほんの数日で癒えた。
確かに町医者には一番早く治る治療を施してと頼んだ……でも、この治癒ポーションは効き目がいい分、ひとつ金貨十枚もする代物だ。エリアスの怪我は、早急に治さないといけなかったので後悔はしていない。念のためにこの治癒ポーションは別口でいくつか購入した。
エリアスはこちらが質問をすれば頷きながら反応はする。筆談もしてくれるので、コミュニケーションは取れる。
筆談で教えてくれたエリアスの家名はレチャットだった。レチャット子爵の嫡男、リリアンとアランの弟だ。
正直、面倒な拾い物をしたと思ったけど……預かった子爵の子を公爵家があのような扱いをしているとは思っていなかった。
エリアスの身分が分かったとところで、家に帰すことはできないけど……。
口を閉ざしているのは精神的なことで、回復には時間を置いて待つしかないと町医者には言われた。今はリリが献身的にエリアスの看病をしている。
エリアスは現在死んだ者となっている。シュヴァイツァー公爵も子爵家に都合のいいようにそう伝えているだろう。今はエリアスの生存を伏せたほうがいいだろう。
エリアスは、状況的にも王都にこのまま置いて行くわけにはいかない。なので、辺境にともに連れて行くことにした。これは本人も了承している。
「あと必要なものは……」
「エリアスの日常品と……あの男はどうするんだ?」
「ああ、アランね……」
エリアスの兄だし、一生閉じ込めておくつもりはない。かと言って、辺境に出発する今は解放するわけにはいかない。カルが言うには、出てきた後の数日は意識が朦朧としており療養が必要かもしれないらしい。
辺境で解放するか。偶然とはいえ、こちらは弟を救ったのだ。大目に見てくれるだろう。
カフェを後にして、カルとエリアス用の服を購入する。ふと、本当のカルの姿に似合いそうな服を手に取る。
「すみません。これも下さい」
魔族は成長が遅いらしいから、カルがいつか着られればいいなという思いで服を購入した。
明日、私たちは辺境へと向かう。
いつもご愛読ありがとうございます。
一章ここにて終わりになります。
二章は辺境での物語となります。
二章もよろしくお願いいたします。




