第5話
荒々しく叩かれるドアを眺め、ため息をつく。
ラナは鍵を使って開けたものの、内鍵のせいで開くことのできないドアを無理矢理にこじ開けようとしている。
ドア越しにラナの困惑した声が聞こえる。
「え? なんで開かないの?」
ドアの隙間から、奮闘しているラナに返事をする。
「そんなの内鍵を掛けているからですよ。見ればわかるでしょう」
「おま、お嬢様。冗談はやめて下さいよ。さっさと開けないと、困るのはお嬢様ですよ」
早くドアを開けるように求め、眉を顰めるラナの顔が隙間から見える。少し思考を整え、ニッコリと微笑みながら尋ねる。
「そうでしょうか? 私がどのように困るのかご説明ください」
「私は、公爵様の命でお嬢様の面倒を見ているのですよ。誰もやりたくない仕事やってやってるのに――あんた、何を笑っているの?」
公爵の命ではなく、侍女頭の命だろうと予想する。だが、仕事をやっているとラナが言い出したところで思わず堪えきれず、声を出して笑ってしまった。
真顔になり、ラナに向かって言う。
「あなたもご冗談が言えるのだと……それがただただ可笑しくて。《《仕事》》とは、あなたの得意な男漁りのことでしょうか? あなたの仕事である私の部屋は、ずいぶんと長く掃除をされていませんでしたが、あなたは一体どのようなお仕事をされているのでしょうかねぇ」
「は? いつもは何も言わないくせに!」
「仕事をサボって男に会いに行っていることですか? それとも、こっそりと盗みを働いていることですか?」
「お嬢様、どうしたんですか? トーマスも何か言って!」
え? トーマス、まだ外にいたの? ラナはトーマスに擦り寄り、上目遣いでお願いを始めた。嫌だな、この二人そういう関係なの?
「男に縋っても、何も解決しませんよ」
「は?」
なんだかラナの相手をするのが、段々と面倒くさくなってきた。こちらは今、いろいろと自分のことを考えるので忙しい。ラナに構う時間はない。
ラナには要点だけ述べる。
「ラナ、あなたにはメイドをやめてもらいます」
「はぁ? それは、公爵様が決めることです」
自信満々にラナが口角を上げ言う。公爵の名前を出せば、オリビアが引っ込むと思っているようだ。情けなくて、笑いがこみ上げてくる。
「ふふ。そうですか。では、直接公爵様にこのことをご報告しましょう。そうですね……使用人に泥棒がいると。公爵様は確かに私のことは嫌っていますが、それよりも嫌っていることは何かご存知ですか?」
「え?」
公爵の名前を出しても引かないオリビアに、ラナは驚きを隠せないようだ。
そんなラナを見下ろしながら言う。
「自分から盗む者です。この部屋にある全てが公爵家の物ですよ。あなたはそれを盗んだのですよ。もしかして、ご存じありませんでしたか?」
「そ、そんな。誰もあんたの言うことなんて信じない!」
「試してみますか? 無断で公爵の物を売っていたことが見つかった場合、あなたもご家族も地獄ですよ。私は寛大にもあなたが今すぐここを出て行けば、盗みは不問にすると言っているのですよ。どうしますか?」
ラナは確か……どこかの商家の人間だ。実家は公爵家と繋がり作るため、それから良い縁談を結ぶためにラナを奉公に出したとオリビアが他のメイドから盗み聞いた記憶がある。
オリビアに実家での信用がないのは確かだけれど、ラナは家族まで巻き沿いになるリスクは取らないと見込んでいる。
そもそも、なんでラナは始めから真面目に働かなかったのだろうか? オリビアの初期の記憶では、元は気が弱く、ここまで羽目を外すような人間には見えなかった。考えられるのは、公爵家の侍女頭が余計な入れ知恵でもしたのだろう。まぁ、これはラナ自身が選んだ結果だ。
それにしても侍女頭か……掃除をしないといけない面倒な問題が増えた。
ラナは、しばらく俯きながら静かになったが、少しして小さく返事をする。
「……分かりました。出て行きます」
「そうですか。賢い判断、感謝いたします。それでは、どうぞ出ていって下さい」
「でも、私の荷物が……」
「何を言っているのですか? 先ほどもお伝えしましたよね? この部屋の全てが公爵家の物なのです」
しばらくしても扉の前から去らないラナに対してため息をつき、声を上げる。
「そこに突っ立っている騎士もどき! 役に立ちたいのなら、ラナを門の外へきちんとエスコートしてあげてください。ああ、それから、今着ている服とここの鍵も公爵家のものです。お返しくださいね」
「え? そんな……」
「トーマス! 目障りなのを早く片付けてください。それから、きちんとラナの着ている服もあなたが回収してくださいね。それじゃあ、おやすみなさい」
床に膝を付きすすり泣くラナを見下ろし、ドアを閉めたのち鍵を掛ける。
ラナに同情はしない。ラナはオリビアの服やアクセサリーを盗んだだけではなく、オリビアに精神的苦痛を毎日のように与えていた。身一つで追い出されることだけで済んだことに感謝してほしい。
さて、寝ようかな。