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悪役令嬢という面倒くさい役割、もう捨ててもいいですか?~辺境ルート? 是非、お願いします!  作者: トロ猫


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第45話

 ディーネに案内され、カルと共に静かに公爵邸の中を移動する。


(あ! 騎士が来る! オリビア、こっちの部屋に入って)


 入った部屋は客室のようだ。扉の隙間から外を見れば、見張りの騎士たちが遠ざかるのが見えた。

 安堵のため息をつく。まるで、泥棒になったかのような気分だ。

 部屋から出ようとすれば、今度はメイドたちの話し声が聞こえた。急いでカルと部屋にあるクローゼットへと隠れる。

 どうやらメイドたちは、部屋のシーツの交換にきたようだ。

 そんなメイドたちが声を抑えながら話しを始めた。


「ねぇねぇ、二番目の公子様の話を聞いた?」

「またやらかしたの?」

「せっかく旦那様がいいお相手と縁談をまとめようとしたのに、大事なところを痛めて会えなかったらしいよ」

「ええ? 本当に?」

「侍女たちが噂しているのを聞いたから本当よ」


 これ、私の話のような気がする……


「何をして痛めたのかしら?」

「いつもの怪しげな遊びじゃない? この前は娼婦を連れてきて叱られていたしね」

「これで破談したのは何人目?」

「五人とか六人?」

「女癖が悪いのはもう病気ね」


 シーツの回収が終わったメイドたちがクスクスと笑いながら部屋を退出した。

 私を見ながらジャムを舐めていた公爵の息子は、やはりロクデナシの変態だったようだ。シュヴァイツァー公爵もそんな息子を私に押し付けるのは、やめてほしい。


(オリビア、ターゲットが移動したみたい。外にいるから窓から外に出て)


 ディーネの道案内はなんだか適当な感じがする。ここ一応、二階なのだけど。

 窓の外から下を確認する。以前の身体だったら、これくらいの高さだったら楽に下りられそうだったけど……今の身体では無理だ。

 カルが窓から下を覗きながら尋ねる。


「ここから飛び降りるのか?」

「家庭教師が外に移動したらしいのよ」

「これくらいなら、任せろ」


 カルにひょいとお姫様抱っこをされたと思ったら、窓の外に飛び出した。


「ちょ、ちょっと!」

「【闇黒蜘蛛の糸】」 


 カルの足元を見れば、黒い糸のようなものに乗りながら静かに地面へと到着した。聞けば、闇魔法の一種で黒い強度のある蜘蛛糸を生成できるらしい。


「カルって最近魔法が開花したわりには、いろいろ使えるのね」

「俺は、闇魔法を使える母さんの魔法を見ていたからな」


 魔族の血が入った者は高確率で闇魔法属性になるという。


「私も水と土魔法をもっと使えるようにならないと……」

(それならディーネと訓練しよ! オリビア!)

(土魔法が先じゃ! オリビアどんは土魔法ほとんど使えんじゃろが!)

(水が先なの!)


 ディーネが水球をダンにぶつける。


(この小童がぁ!)


 ディーネとダンが、互いに水球と土球をぶつけ合いながら喧嘩を始めたのを呆れながら止める。


(どっちとも練習するから、喧嘩はやめて。今はそれより重要な目的があるでしょ!)


 カルが心配そうに尋ねる。


「魔法が漏れているが、妖精が揉めているのか?」

「些細なことで揉めているのよ」

「大変だな」


 妖精の仲裁が終わり、ようやく目的の家庭教師のいる場所付近まで到着する。

 お茶会が開催されているのとは別の庭園だ。こちらは、公爵家の私的な庭園なのだろう。


「でも、奴はいないわね」

(オリビア、あの奥だよ)


 ディーネが、奥にある林を指差す。

 外に出ているというから、庭園で紅茶でも啜って優雅に過ごしているのかと思ったけど……あそこは人の目から離れた林の中だ。なんでこんな場所に? 嫌な予感がしながら、静かに忍び足で林に入るとすぐに大きな声が聞こえてきた。


「公子! よろしいですか? これは、あなたへの罰なのですよ」


 身体が硬直するのが分かった。

 男なのに甲高く耳障りな声……この声はオリビアの記憶に刻印されたかのように鮮明に記憶している。ジェラルド・アルト……私の獲物だ。

 軽く息を吐き、オリビアの恐怖の感情を「私」の怒りの感情に塗り替える。

 ジェラルドの前にいるのは、シュヴァイツァー公爵令息だろう。まだ十歳ほどの少年だが、シュヴァイツァー公爵と同じ髪色だ。

 二人の間には蹲る同じ年の少年、それから何か動物の死体がある。どういう状況なの?

 鈍い音が聞こえると、ジェラルドの足元で蹲っていた少年から苦痛の声が漏れ出る。

 鞭を持ったジェラルドが笑う。


「下品な声を出しやがって。お前は蛙なのか?」


 少年の腹を蹴り、再び笑うジェラルド……相変わらずグズのようだ。

 カルが強く拳を握るのが見えた。カルの拳を触り、飛び出そうとするのを止める。まずは状況を掴みたい。

 再び鞭を振り上げたジェラルドを公子が止める。


「アルト様、おやめください! エリアスが死んでしまいます」

「公子様は何度教えれば分かるのでしょうか? これは、あなたのお友達ではない。下僕だ。下僕が主人の代わりに罰を受けるのは常識なのですよ」


 私の時は、余裕で私自身に鞭を打ってきたけどね……こいつは。

 これは公子への精神的支配に近い。エリアスという少年を助けたい公子は従順になるしかない。

 小声で呟く。


「変わらずクズで助かる……」

「オリビア、これ……どうすんだ? あいつを再起できないまで殴るか?」


 隣にいたカルは険悪を浮かべた顔でいう。


「ボコボコにしてもいいけど……あいつはプライドの塊だからそれよりも――ああ、いいこと思いついた」

「オリビア、また悪い顔をしているぞ」


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