42話
今日は、シュヴァイツァー公爵の卒業式祝い兼狩りのイベントに招待された日だ。
何を着ていけば分からなかったが、一番豪華な一張羅のドレスを着て、公爵邸への迎えを待った。
送迎によこしてくれた馬車は、結構豪華な作りだ。全員に迎えを出しているわけではないと思う。
子爵になって数日の私を気遣ったのか、それとも自分の陣に取り込もうと媚を売っているのか……分からないけど、迎えの馬車にはありがたく乗る。
(オリビア、今日はどこにいくの?)
(公爵の狩りのイベント)
(なんの狩り?)
それは聞いていなかった。動物の狩りだと勝手に思っていたけど、この世界には魔物もいる。魔物の狩りかもしれない。
(獲物は分からないけど、私の狩りたい人がいるらしいから)
(オリビアは、人間狩りをするの?)
人間狩りと実際に言葉に出すと物騒だよね……けれど、ディーネの言う通りの人間狩りで間違いない。あの家庭教師をどう調理するか……今から考えただけで顔がニヤついてしまう。
カルが苦笑いしながら言う。
「オリビア、また悪い顔をしてるぞ」
「これは、正義の微笑みよ」
「絶対に違うと思う……」
シュヴァイツァー公爵邸に到着する。到着といっても、門から邸宅には少し時間がかかる。
馬車から整備された庭を見ながら笑う。
「どれだけお金があるんだろうね」
オリビアの元実家も金のある邸宅だったけど、シュヴァイツァー公爵家はそれ以上に金がある。この家に女児さえ産まれていれば、クリストフェルの婚約者は間違いなくその娘に決まっていただろう。
女の養子を侯爵家や伯爵家から取ればいいと思うけど……まぁ、その辺はいろいろあるようだ。
シュヴァイツァー公爵は、三人の息子がいると聞いた。長男と次男はすでに公爵の持つ爵位を受け継ぎ、領地を経営しているらしい。歳の離れた三男はまだ学園に行く年齢ではないらしい。でも、私の獲物である家庭教師は、この三男についているという。
馬車が邸宅の前に停まる。
ほとんど馬車が停車していないことから、どうやら私は少し早く着くように仕組まれたようだ。
馬車を降りると、待機していた侍女が挨拶をする。
「ルナヴィル子爵、本日は狩猟の会にお越しいただき感謝いたします。狩猟の衣装を準備しておりますので、こちらに」
「……ありがとうございます」
やけに準備がいい。狩猟の衣装など持っていなかったから感謝するけど……何か計画されているような匂いがプンプンとする。
侍女に案内された部屋へ向かうと、狩猟用の衣装がいくつか準備されていた。サイズはまばらなので、狩猟衣装を持たない他の貴族にも貸し出しをしているのかもしれない。
一番、小さい衣装を着てみるが……どう見ても大きすぎる。
「オリビア様は華奢でありますから……少々お待ちください」
そういって侍女が部屋を出たので、ソファに座るとカルが小声で尋ねる。
「それで、今日はどんな狩りの計画をしているんだ?」
「まず、標的を見つけないとね……」
シュヴァイツァー公爵の末の息子は、まだこういった会に出る年齢ではない。なので、共にいるだろう家庭教師も狩猟の会には顔を出さないかもしれない。
それでも、この邸宅に住んでいるからチャンスは訪れるはずだ。どこにいるかさえ分かれば楽なのに……。
(それならディーネが見つけてくる!)
(見つけられそう? 会ったことのない人だよ)
(大丈夫よ! ディーネ、オリビアの言っていた家庭教師の話、ちゃんと聞いていたから!)
(分かった。でも、見つけても、何もしちゃダメよ。報告が先よ)
(分かった!! 行ってくる!)
そう言ってディーネが壁をすり抜けていった。
本当に見つけられるかは分からないけど、ディーネのように透明人間できないので、私よりも役に立ちそうではある。
妖精が家庭教師を探しにいったことをカルに伝えると、心配された。
「大丈夫なのか?」
「問題があったとしても、ディーネは見えないんだし、何も処罰できないんじゃない?」
「確かにそうだな」
侍女が戻ってくると、明らかに少年用の狩猟の衣装に着替えさせられる。サイズ的にこれしかなかったのだろうけど、少し屈辱だ。見た目はいいけどね……。
侍女も何かやり切った感というか、満足そうな顔をしている。
「それでは、公爵様がお待ちです」
「……今からですか?」
「公爵様が面会されたいとのことですので、お急ぎください」
そんな話、事前には全く知らされていなかった。だけど、なんとなくそうなるのではないかと頭にはあった。
シュヴァイツァー公爵は一体、私にどんな話をするのだろうか……。




