第38話
試験合格を聞いてから数日が経った。
もうすでに卒業の決定している三回生は授業が免除されているという。なので、飛び級試験を受け卒業間近になる私も授業に出る必要がない。このことを一番に喜んだのは妖精たちだった。
(オリビアと一日中一緒にいれる!)
(これでワシの芋も一緒に掘れるぞ!)
芋掘りは五日後の早朝がベストタイムらしい。ダンが楽しみにしているので、芋掘りはやる予定だ。どちらにしろ、あのモンスターサイズの芋たちは、あそこに残したままにはできない。
卒業見込みが確実になったので、昨日、王国の土地関係の事務局で領主の手続きを済ませた。その際に領地に着いての解説書を受け取った。
公爵に聞いていた通り、領地の人口は三百十八人、それに加えて王国民ではない緑の民と呼ばれる人たちが約八十人いるという。この緑の民というのは旧農奴のことを示していると説明された。王国は十年前ほどに農奴の廃止をした。だが、王国民になるには条件があり、旧農奴の多くがその条件を達することができずに、緑の民と名前を変えて農地の手伝いをしながら生きているという。
シナリオではこの緑の民の話も少しだけ触れられている。飢饉の際に一番影響を受ける人々で、多くが餓死している。いくつかの領では難民が一揆を起こす話もあった。
食べ物があれば、どちらも起きないことだ。ありがたいことに新領主には次の五年、税が免除されている。その間に食事事情をこれでもかというほど豊富にしなければ……。
今日は授業に出なくていい時間を利用して、領地に持参する必需品を購入するために出掛ける。
「カルの闇収納ってどれくらいまで物が入るの?」
「ある程度入るが、限界はあるぞ」
カルも限界まで物を入れたことないので、正確な収納量の限界は分からないという。
「じゃあ、とりあえず買ってから入れて行けばいい?」
「ああ。そうだな」
結構な辺境なのである程度のものを揃えないといけない。私の領地には、領主邸はあるというが、最後に使われていたのは十年前だと受け取った領地の解説書には書いてあった。正直、期待はできないけど……水回りなどはまだ機能している可能性が高いと書いてあった。あくまで予想で誰も実際に見ていないのが怖い。
最初に寄ったのは、リロン商会という馬車を売買している商会だ。中古から新品までずらっと馬車が並ぶ。馬車は領地までの移動に必要だ。馬車があるということは、御者も雇わないといけない。辺境まできてくれる御者、いるか分からないけど。
「私が御者をやれればいいけど」
「オリビアは体力ないから無理だろ」
カルが私の細い腕を摘まみながら言う。
「くッ。筋トレは頑張っているのだけど……筋肉が付きにくいみたい」
腹筋が一回もできなかったオリビアの身体、ここ数日でようやく腹筋が三回できるようになった。
馬車は長距離用の中古を一台購入した。中古といっても製造されたのは二年前というまだ真新しい物だった。普通の馬車よりサイズが大きいので、馬車を引くのに馬は二頭、控えの馬も三頭必要だと言われた。カルの闇収納があるが、それを誰かに覚られるのはいろいろ不都合なのできちんとした長距離用馬車を購入した。
馬車は金貨三百枚した。馬車、高い……。でも新品で同サイズだと金貨五百枚近くするという。
馬車は受け取り準備ができるまで、リロン商会に預けることにした。
サムという販売担当をした男が、手を上げながら言う。
「使用人が少ないのであれば、傭兵を雇われてもいいと思います」
「傭兵?」
「はい。長旅は危険も伴いますので……」
傭兵か。確かに……。
「お気遣いありがとうございます」
その後、領地に持っていくものを買い漁った。こんなに買い物をしたのは初めてかもしれない。執事とヘーズのヘソクリがあってよかった。公爵からの支援金もあるし、王家からの賠償金はまだ入っていないが、領地に向かう前に入金されることを期待している。
「カル、収納どう?」
「家具とかはやっぱり大きいから少し詰まってきた感じはする。ごめん」
「いやいや、それだけ入れば十分だから。本当、カルがいなかったらと途方に暮れていたよ」
帰りに串焼きを買い食いしてリリの宿へと向かう。
カルが渡した串焼きを見ながら言う。
「淑女の本には立ち食いはご法度って書いてあったぞ」
「学園と社交界での話でしょ? その他はちょっとくらい誰も見てないから」
「そういうもんなのか?」
「うん。たぶん」




