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悪役令嬢という面倒くさい役割、もう捨ててもいいですか?~辺境ルート? 是非、お願いします!  作者: トロ猫


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第28話

 カルが私たちを闇収納から出すと、公爵邸のゲストルームへと無事に戻っていた。

 早朝から外出していたこと、リリを連れて帰ったことがこの邸の誰かに露見することはいろいろとめんどくさかった。なので、公爵邸にはリリと共にカルの闇魔法に収納されて戻ってきた。

 まだ気絶をしていたリリをベッドに寝かせながら、カルに尋ねる。


「誰にも見つからなかった?」

「ああ、大丈夫だ。出掛けたことは誰にも気づかれていない」

「よかった。それにしても全身ベトベトで汚いわね」


 ディーネが手を上げながら言う。


(はいはーい。ディーネが綺麗にできる!)

「分かったわ。ディーネ、三人とも綺麗にしてくれるかしら」

(ディーネに任せて!)


 ディーネが水の魔法で私たち三人の身体をすみずみまで綺麗にして、ついでに水分を吸収して乾燥までやってくれた。

 カルは妖精の魔法に少し目を見開いたが、ディーネたちに少しは慣れてきたようだ。丁寧に見えないディーネに礼を言っていた。

 着替えようと、下着姿になるとカルが変な声を出す。


「うわっ」


 あ、しまった……。

 耳を赤くして視線を逸らすカルに謝罪する。


「ごめん」

「仮にも俺は男だぞ」


 オリビアの記憶から使用人の前で服を脱ぐことなんて日常だったから、ヘーズ夫人になっているカルの前でも躊躇なく脱いでしまった。


「一応、裸ではないわよ?」

「そういう――」


 カルの言葉が終わる前におもむろに壁が開き、公爵が現れた。公爵は、すぐに下着姿の私から視線を逸らす。この壁、これは公爵邸の隠し通路だけど……こいつ、なんでその壁から出てきた。


「なんですか?」

「なんだ、その恰好は、早く着替えろ」

「明らかに着替え中に侵入してきた人に言われたくはありません。普通にドアから訪問することを知らないのですか?」

「私は、誰にも見つからない方法で約束の時間に来ただけだ」


 確かに公爵には、昼頃に秘密裏に話し合うとは言っていたけど……特定の時間も場所も設けていなかった。

 公爵には壁の中に戻ってもらい、服を着替える。


「カルは寝室でリリと一緒にいてくれる? もし、途中で目覚めたら大変だから」

「ああ。オリビアはあの公爵と二人きりで大丈夫なのか?」

「問題ないわよ」


 壁をノックすると、公爵が出てきたので挨拶をする。


「お父様、どうぞお入りください」

「嫌味ったらしくお父様と呼ぶ必要はない」

「では、さっさと話を進めましょうか」


 公爵がテーブルに地図を広げ、とある場所に指を差す。


「お前にあげる領地はここだ」


 地図を確認すれば、そこはルエル地方だ。公爵にしては結構まともな選択をしてくれている。

 だが――私はこの地は絶対にいらない。

 ここはザーレ伯爵領とオヴィアン侯爵領に挟まれた領地で、税収も悪くない。だが、シナリオによると飢饉が訪れる前に侯爵と伯爵がいがみ合いながら領地戦を始めるのだ。それに巻き込まれるのがルエル地方だ。

 私が欲しい地は……うーん、ここだね。地図のとある地方を見て頷く。


「ルエル地方は確かに魅力的ですが、私はここ、エルダ地方が欲しいです」

「本気か? ここは末端の領民三百もいないド田舎だぞ」

「それが魅力なのですよ」


 王都から馬車で一ヶ月以上掛かる離れた場所で、ランカスター公爵領の領都ローゼリアからも半月掛かる場所だ。スローライフにはもってこいだ。

 それに、ここはシナリオによると後に魔法鉱物が採れる鉱山が発見される土地だ。クリストフェルとリリアンが発見する予定なのだけど、先取りさせてもらう。オリビアへの仕打ちを考えれば妥当でしょう。

 もちろん、いいことだけではない。この地方は今は税収はよろしくない……というか、税収はゼロに近い。瘦せた土地が原因だと言われているが、それの解決法は普通に土壌改良とそれをやる資金の問題だ。

 公爵は今までこの地域を代官に任せていた。代官も別に仕事をしていないわけではないが、強いて努力をしようとは思わなかったのだろう。代官は一週間離れた隣の地方も任されており、普段はそちらに住んでいるという。

 問題があるとすれば、隣にある辺境伯領だ。こちらは広大で、魔族領との境にある。シナリオでは魔族との争いもあるが、これはずいぶん先の話だ。

 公爵が唸りながら尋ねる。


「お前は……一体、何を企んでいる?」

「平穏な生活です」

「そうとは思えない」

「別に公爵にどう思われようが、いいです。爵位はいつ頂けるのですか?」

「本日、この後に王に申請する予定だ。数日後、王との謁見にてお前の新しい名前が決まるだろう。その後はもう公爵家とは関係ないものとする」

「待ち遠しいですね」


 私の返答に公爵の顔が歪む。


「毒の報酬にこの金貨三百枚をやる。これで残りの学園の費用も自分でどうにかするのだな」


 公爵がテーブルの上に金貨三百枚の入った袋を置く。中身を確認しながら、公爵に伝える。


「学園へのこだわりは別にないので、すぐにでも退学する予定です」

「何を言っている。領主になるのなら学園は卒業しなければなれないぞ」

「は?」

「はっ。悪魔も間抜けなことがあるのだな」


 揚げ足を取ったのを喜び口角を上げる公爵の顔、ぶん殴りたい。

 学園を卒業をしていないと領主に就けない話は初耳だったが……これも解決法がある。クリストフェルのコバンザメの一人が早く学園を卒業する必要があり、飛び級の試験を受けるシーンがシナリオにある。私も同じことができれば、数週間後には学園を卒業できるはずだ。

 公爵に清々しく言う。


「それでは、次にお金の話をしましょう」

「は? 金? 先ほど渡したであろう」


 困惑した公爵が、眉間に皺を寄せながら金貨の入った袋を指差す。


「これは、毒の件での報酬です。え? なんですか? ド田舎の何もない領土にか弱い女性を一人投げ出すのですか?」

「どこが、か弱い女性だ! ド田舎を選んだのもお前だろ!」

「世間の目にはそうは映らないですよ」


 公爵は長い深いため息を吐いて、私を睨む。


「領地の支援金一年分を保証しよう。それでどうだ?」

「最低限ですね」


 金は多ければ多いほどいい。支援金は最低三年間はほしい。

 公爵が訝しい表情で尋ねる。


「これ以上、何がほしい」

「毒に関してとある追加情報があるのですが、支援金を五年にしてくれたら教えます」

「どんな情報か分からないものに金を払う予定はない」


 どうやら、公爵はここまできてもなお私の情報をブラフだと思っているようだ。


「私が持っている情報は、毒を送ることを指示した張本人のお名前ですよ」

「誰だ?」

「五年」

「三年」


 目標は三年だったが、これはもう少しいけそうだ。


「五年」

「四年だ!」


 心の中でニヤリと笑う。

 仕方ない……という演技をしながら、公爵の支援金四年を了承する。

 満足そうに勝ち誇った顔をする公爵から支援金の契約書を貰ったので、情報を告げる。


「毒の黒幕は、シュヴァイツァー公爵です」

「それは、真か?」


 急に顔色が変わった公爵が難しい顔をしながら尋ねた。


「はい。あちらの影を捕まえて吐かせたので」


 アランの素性を隠し、公爵に情報を知った経緯を説明する。公爵自身もシュヴァイツァー家の関与を疑っていたらしく、私の言い分をある程度信用した。


「それで影はどこだ?」

「ああ、死んでしまいました」

「そうであるか……」


 これは嘘だ。別にアランを守りたいわけではない。彼には別の用途があるかもしれないので取っておくだけだ。

 公爵との話が終わったので、学園に戻ることを告げる。


「それでは、数日後、王宮でお会いしましょう」

「待て。忘れていたが、これは例の家庭教師の現在の情報だ。なんの縁か、ここにいる」


 そうだった。あいつがまだ残っていた。

 公爵から受け取ったメモを見て笑う。


「シュヴァイツァー公爵家ですか。こいつ、始めから諜報員だったのでは? ランカスター公爵家の舵はどうなっているのですか?」

「分かっている。だが、もうお前には関係のない話だ」

「ええ。すぐに関係なくなりますから。清々します」

「減らず口の悪魔め」


 荒々しく部屋から立ち去る公爵の後ろ姿を呆れながら見送った。


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