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悪役令嬢という面倒くさい役割、もう捨ててもいいですか?~辺境ルート? 是非、お願いします!  作者: トロ猫


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第27話

 笑いながらリリの腕を握った店主の手を払い尋ねる。


「いくらですか?」

「あ? ああ、そういう趣味か。それなら話は早い。一晩なら銀貨一枚だ」

「違います。この子を買い取りたいのです。いくらですか?」

「はは! いい冗談だな。お前のような小娘に払える額じゃない」


 店主が周りの男たちと高笑いをしながら馬鹿にしてくる。

 こんな場所はもう一秒もいたくはない。


「価格を早く言ってください」

「はぁ? そこまで言うなら、そうだな金貨百、いいや二百だ。どうだ小娘、お前にはらえる額ではないだろ?」


 こいつ……本当は百枚なのに、倍の額を請求するつもりか。でも、いいよ……二百枚くらい払ってやる。別に払えない額ではない。ヘーズ夫人のへそくりだけでも金貨千枚以上あった。金貨一枚が前世の一万円ほどの価値なので、金貨二百枚は二百万くらいになる。


「金貨二百枚で構わないわよ。早くリリの契約書、持って来て」

「はん。その前に金を見せろ。どうせ持っていないのだろ?」


 店主が大笑いをしながら、手を差し出す。

 確かに私の今の装いは。どこにいる平民と同じなので疑いたくなるのは分かる。


「カル、金貨二百枚を見せてあげて」

「分かった」


 すぐにカルが金貨二百枚をテーブルに出すと、店主が驚きながら金貨に手を伸ばした。その手を払い言う。


「契約書を出すのが先」

「ふむ……金さえあれば、いいだろう」


 店主がバーの奥の部屋からリリの借金の契約書を持ってくる。契約者の移行をする間、店主がリリの貞操を奪った時の下衆な話などを始めたので……リリとカルには宿の入り口で待ってもらう。


「なんだぁ、小娘はそういう遊びには無知なのか? 小娘には俺たちみたいな鉄の棒がないからな」

「早く契約書に署名して」


 下衆な話をすべて真顔で無視し続けると、店主は面白くなさそうに契約書に署名をした。

 書類上のリリの契約主が私に移行したので、店主に金貨二百枚を払う。


「これで、終了よ」

「そうだな。確かに終わりだ」


 ニヤニヤと、店主が笑いながら答える。

 店主が下衆な顔で笑っている理由は分かっている。こいつ、一度もリリの束縛の首輪についての話はしていない。リリはブランケットを撒いていたので、すでに首輪が取れた首元は見えていないのだろう。さて、何をするつもりなのだろうか。


「では、契約書をこちらに」

「ああ、それだがな。やはり気が変わったな」

「は?」

「お前よぉ! そう、易々と逃げられると思うなよ」


 店主が笑うと、別の手下ががリリを後ろから店の外へと蹴った。

 しまった!

 途中、カルが腕を出して男を止めようとしたが、勢いで二人とも宿の外へと転がってしまう。


「リリ! カル!」


 急いで二人の元へと駆け寄る。


「あいつら……」


 カルが店主たちを睨みながら憤りのこもった声で言うと、拳に黒い炎を纏った。


「カル、ここで闇魔法はやめて頂戴」


 カルが悔しそうに拳を下げると、炎も消える。公の場で闇魔法なんかぶっ飛ばしたら、別の問題が起きそう。

 リリがもし束縛の首輪をしたままだったら、拘束の範囲外に出たことで爆発していた。あいつら、リリを殺す気だった。

 非常に腹が立つ……こちらは、倍額を払ってでも穏便に事を片付けようとしていたのに……。

 二人とも無事だが、リリは意識を失っていた。衝撃はあったけど、気絶をする程のものだったのだろうか?

 カルが小声で言う。


「心配するな。少し精神に介入して眠らせただけだ」

「なんで、そんなことをしたの?」

「いや、だって今からオリビアはあいつらに仕返しをするんだろ? そんな場面を見れば、この子がショックを受けるかなと思って」


 カルの気遣いで気絶させたのか。リリの精神が酷く疲弊していたので、闇収納は酷だと思って入れなかったけど……結局、嫌な思いをさせることになってしまった。

 リリにはこれ以上ストレスを与えるわけにはいけない。そして奴らも、これ以上リリを傷つけることはできないようにしなくてはならない。


「ありがとう、カル」

「あいつらを殺すんだよな?」

「大丈夫、ちゃんと借りは返すわよ。少しの間、リリを頼むわね、カル」


 立ち上がり、店主を真顔で見る。店主とリリを蹴った男は、首輪が爆発しなかったことに驚いているようだ。

 ディーネが、飛びながら尋ねる。


(あいつら、やっつけるの?)

(うん。だけど、今回は自分でするから見守っていてね)

(オリビアどんも漢なら黙ってはおけんな)


 ダンが楽しそうに酒を飲みながら言うが……別に漢じゃないんだけど。


「【アクア】」


 水魔法の水圧で店主たちを宿に押し込む。

 酒場では数人の男たちが女性たちと飲んでいたが、構わずに唱える。


「【ウォール】」


 宿全体の扉、窓、二階に上がる階段を含む全てを土魔法で囲い、鼠一匹外に逃げられないように塞ぐ。

 店主の手下たちが襲い掛かって来たので、土魔法のウォールを応用して創った箱に一人ずつ閉じ込め収監した。


 その光景に騒ぎ始めた酒場客に忠告をする。


「静かにしていたら、あなたたちには何もしませんよ。分かりましたか?」


 コクコクと頭を上下に揺らしたので、分かってくれたようだ。

 店主とリリを蹴った男、二人に笑顔で告げる。


「さて、お話をしましょうか」

「な、なんだ! おい! なんだ、ば、化け物!」


 逃げ出そうとする店主たちに向かって魔法を唱える。


「【石化ペトリファイ】」


 全身ではなく足だけを固める。初めて使う土魔法だけど、上手く使えた。間違えて、全身を固めたらどうしようかと思っていたけど杞憂だった。

 妖精の二匹は、小躍りしながら応援してくれているのだけど……気が散るからちょっとやめてほしい。

 店主の顔を覗きながら言う。


「自分に不都合だからって逃げないで下さいよ」

「わ、分かった。ほら、契約書なら渡すから」

「ありがとう」


 契約書を受け取り確認する。問題はなさそう。

 契約書をポケットに入れると、おもむろにこん棒を創り出し、リリを蹴った店員の石化した右足を叩き割った。


「俺の足がぁぁぁ」

 

 男が金切り声を上げる。

 私も叫びたかった。手がめちゃ痛い。

 男があまりにもうるさいので土魔法で作った箱に入れ、こん棒を持ったまま店主の前に立つ。


「私、倍額を払って正規でリリを買い取りましたよね?」

「お、俺が悪かった。ほ、ほんの出来心だ」

「へぇ」


 亭主の胸元に手を入れ、先ほど受け渡しをした金貨二百枚を奪う。


「それは、俺の金だ!」

「すみませ~ん。ほんの出来心なんで許してください」

「何を!」

「いや、あなたの理屈ですよ?」


 店主が唇を噛みながら、私を睨む。

 この店主は野晴らしにしたら、リリや私をどこまでも探しに来るだろう。

 酒場にいた女性たちに声を掛ける。


「あ~。ちょっと首輪をした方たちこっちに来てもらえますか? 危害は加えませんので」


 首輪は女性全員がしているわけではない、自分の意志で働いている人たちもいるようだ。

 恐る恐る私の元にやって来た女性たちの拘束の首輪をダンが全て解除する。


「は? どうなってやがる! それが取れるはずないだろ!」


 店主は無視して床に落ちた首輪を拾い、ダンに尋ねる。


(これって再利用できる?)

(できるぞ)


 うん。彼らには自分が与えた痛みをその身で感じてもらおう。

 首輪の取れた女性たちは、私の手にある首輪を見つめながら静かに立っていた。中には目に涙を溜める女性もいた。


「他にも首輪を付けられている人がいたら、呼んで来てください。今日だけ大盤振舞いですよ」


 二階へ向かう壁を開くと、女性たちが急いで駆け上がった。


(ディーネ、問題なく他の子を連れてこられるか見てきてくれる?)

(はーい!)


 ディーネも二階へ飛んで行ったところで、バーの奥にある部屋へと向かう。


「おい! 何、勝手に入ってやがる!」


 ヒラヒラと店主に手を振り、部屋へと入る。思った通り、ここは事務室のようだ。

 金目の物を物色すると、金庫らしきものがあった。やったね。

 ダンに鍵を壊してもらい、中を開けニンマリとする。


「貯め込んでいるね」


 金貨、女性たちの契約書だろう書類、それから宝石類が入っていた。

 強盗は悪いことだとは理解している。だけど、リリは誘拐されてここに売られたのだ。犯罪者から盗むのは犯罪なのか? グレーラインということにしておこう。

 袋に金目のものを集め、引きずりながら部屋から出る。


「おい! それは俺の金だろ! お前、殺す! 絶対に殺す!」

「面白い冗談ね」


 私を追いかける暇がないくらい、忙しくしてあげる予定なんだけど。

 先ほど二階に上がった女性たちが戻って来たので、他に首輪をしていた人たちを全員解放する。

 手を上げ、みんなを集める。


「はいはい。並んでください」


 袋に手を突っ込み、金貨をぎっしりと掴み女性たちにそれぞれ渡していく。ここからはそのお金を元に生きていってほしい。

 その後、女性たちと客の男たちを宿から解放した。迷惑料という名の口止め料として男性客にもお金を渡した。

 外にいたカルが、リリをお姫様抱っこしながら宿の中を覗く。


「あいつらを出してよかったのか? 衛兵を呼ばれるぞ」

「それなら、急がないとね」


 店主たちに束縛の首輪を付ける。ダンにお願いして、男たちの首輪は全て二十センチほどのチェーンで互いを繋げてもらった。ダンの魔力で錠を閉じたので、解放されることはないだろう。

 カルと共に宿を去ろうとすれば、店主が首元のチェーンを握る。


「こんな鎖で俺たちを繋いだつもりか! 首輪が取れれば――」

「あ、言い忘れていました。チェーンを引っ張って首輪に付いたループが取れるようなことがあれば、爆発しますので気を付けてくださいね」


 そう言い残し宿を急いで去った。

 その後、公爵邸に戻る途中で結構大きな爆発音が後ろから聞こえた。


(本来、あんなに大きな爆発がする代物じゃないよね?)

(ワシが、ちょいと小細工したかもしれない)


 ダンが口角を上げながら、満足そうな顔をする。

 したかもしれない……じゃなくて確信犯でしょ。

 まぁ、これで永遠にあいつらが追いかけてくることはないだろう。


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