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悪役令嬢という面倒くさい役割、もう捨ててもいいですか?~辺境ルート? 是非、お願いします!  作者: トロ猫


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第16話

 少ししてドアがノックされる。ヘーズ夫人だ。


「どうぞ」


 返事をすると、配膳のカートと共にヘーズ夫人が一人で執務室へと入ってきた。

 髪はひとつまとめだが、覚えているよりも雰囲気が若い。きっと、《《私》》視線で見ているからだろう。

 ヘーズ夫人には、公爵は執務をしているようにしか見えないだろう。カルヴァンには、時が来るまで見つからない場所に隠れてもらった。

 ヘーズ夫人が公爵の前で見せる猫なで声で喋る。


「紅茶をお持ちいたしました」


 公爵の机のカップ専用置き場に紅茶が配膳される。私の前にも紅茶が置かれたが、お茶の色が明らかにおかしい。

 ヘーズ夫人がニタァと公爵に見えないように私を嘲笑う。

 こいつ、今日は自らこんな幼稚な事を……。


(ディーネ、この紅茶には何が入っているのか分かる?)

(人族なら眩暈を起こす毒が入ってるよ~)


 死には至らないが、量が多ければ気絶してしまう可能性のある毒だという。オリビアには、死ななければ何をしてもいいって根性が凄いんだけど。

 オリビアの記憶によると、ヘーズ夫人もどこかの貴族の者のはずだ……、どこかまで覚えていないけど。

 冷遇されているとはいえ、公爵家の人間にこんなことをしたら普通は命に係わる罰を受ける。長年、オリビアへの嫌がらせを咎められなかったせいでヘーズ夫人の感覚は麻痺しているのだろう。

 おかげで、ヘーズ夫人を消すことを躊躇していた良心が吹き飛んだ。私は、今、この物語の悪役令嬢なのだ。今日はそう振る舞ってあげようじゃない。

 笑っていたヘーズ夫人を見上げ、邪悪な顔を披露する。


「ヘーズ、相変わらずのようでありがたいです。でも、今日であなたとはさよならです」

「は、何を――」

「【アクア】」


 ヘーズ夫人が反論する前に、水魔法を使いソファへと押し倒し拘束をする。ディーネのおかげか、水を操ることがずいぶんと楽になっている。


(いっけぇ! オリビア)

(応援ありがとう!)


「だ、誰か――」


 隠れていたカルヴァンが、助けを叫ぼうとしたヘーズ夫人の口を塞いだ。

 ヘーズ夫人は先ほど見せた勝ち誇った笑いから一転、恐怖の表情へと変わりモゴモゴと言葉にならない声を出す。


「ああ、どうしてこんなことをって思っているの? まあ、今から消えるのだし、教えてあげましょうか?」

「んーんー」


 消えるという言葉を聞いて、ヘーズ夫人の目はさらに恐怖に染まり、涙が溢れた。


「泣かれても困るのだけど。長年泣きたかったのはオリビアだから。あなたは自分がしたことが返ってきているだけですよ」

「オリビア、俺はいつでも行けるぞ」

「それじゃあ、カルヴァンよろしく。ヘーズ、さよなら」


 カルヴァンが黒い煙になりヘーズ夫人の口、鼻、耳や目から身体に入り込む。凄い光景だ。黒いけむが全てヘーズ夫人の身体に入ると、激しく痙攣しながら骨の折れるような鈍い音が続いて動かなくなる。

 これ、大丈夫なのかな……。

 ヘーズ夫人の肩に手を当てると、カッと目が見開いた。


「きゃあ」


 思わず、情けない叫び声を出してしまう。

 ヘーズ夫人の身体は、初めこそはカクカクと動きがぎこちなかった。だけど、すぐに滑らかな動きで立ち上がった。


「あ、ゴホン。あっあー。上手くいったな」


 ヘーズ夫人が咳払いをしがら男口調で言う。これはカルヴァンんあんだろうけど、どこからどう見てもヘーズ夫人にしか見えない。

 恐る恐るヘーズ夫人に声を掛ける。

 

「ほ、本当にカルヴァンなの?」

「ああ、まだ調整が少しぎこちないがすぐに慣れる」


 闇魔法。なんでもありだ。

 カルヴァンにハンカチを渡す。


「涙が出てるから、これ使って」

「本当だ。凄い濡れてる。ハンカチ、ありがとう」


 カルヴァンが無事にヘーズ夫人の身体を乗っ取ったので、もう一度毒の瓶について尋ねる。


「ヘーズ夫人の記憶にこの瓶ある?」

「ああ……あるな」

「私のために用意された物なの?」

「いや、第三皇子を毒殺するためだ。時が来たら、オリビアに罪を被せるよう顔の見えない男から金を受け取った記憶がある」


 舌打ちをする。私用ならそこまで面倒な話しではないが、クリストフェルを毒殺するつもりだったのなら話は違う。

 これは、シナリオにはないストーリーだ。だけど、たぶん犯人は分かる。これはシナリオにある……王妃の父親のシュヴァイツァー公爵のやり口だ。本筋ではクリストフェルとリリアンの前に立ちはだかるのだけれど、目障りな第三王子とランカスター公爵家を潰そうとこんな罠も仕掛けていたんだ……。

 シナリオにない話があるなんて、面倒くさい。

 でも、この家の膿ともいえる二人から得られるものもある。キラリと目を光らせてカルヴァンに尋ねる。


「それで、ヘーズ夫人と執事はいくらくらい貯め込んでいるの?」

「結構あるな……」

「いいわね。流石クズ。カルヴァン、私たちのニート生活の資金ができたわよ」


 カルヴァンにヘーズ夫人と執事のへそくりを回収してもらう間、精神傀儡を解いた公爵を動けないように拘束した。精神傀儡が完全に抜けるまで少し時間が掛かるという。


(ディーネ、公爵が起きても叫び声が聞こえないようにできるかしら?)

(ディーネに任せて!)


 ディーネが公爵を四方の水壁で囲む。カルヴァンが戻るまで公爵用に出された冷えたお茶で喉を潤す。今のところ公爵は起きる気配はしないけど、まさか精神が死んだとかって話じゃないよね?


「それにしても、この紅茶、美味しいわね。私に出されたものと雲泥の差で笑えるわ」


 どこの紅茶なのか、後でカルヴァンに聞くとするか。

 そんなことを考えていたら、カルヴァンが執務室へ戻ってきた。


「早かったわね。誰かに見られたり疑われたりしなかった?」

「大丈夫だ……扉の外で待機している騎士にも軽く精神傀儡した」


 驚くほど簡単に傀儡できたと言われたが、トーマスだから驚きはしなかった。


「それで、資金になりそうなものはあった?」

「二人が隠していたものは全部持って来たぞ」


 カルヴァンが集めてきたヘーズ夫人と執事のへそくりを闇収納から取り出した。 

 

「何、この量……」


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