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第12話

「ねぇねぇね。起きて起きて起きて」


 何度も突かれる感覚がして、顔に触れると水がついていた。

 ガバッと起き上がると、私の顔を嬉しそうに覗き込む可愛い女の子の妖精がいた。あれは、夢ではなかったのか……。


「やっと起きた!」

「てんとう虫、私に何をしたの?」


 あの苦しさは一体なんだったの? 


「てんとう虫じゃないわよ! それより、早く名前を付けてよ!」

「名前? もう名前は付いているでしょ? あのらーれるーらーなんちゃらって……あれ? なんで言えないの?」


 先ほどの契約で言った妖精の名前を口にしようとしたが、上手く言えない。


「あれは、あたしの真名だから契約の時にしか言えないよ。だ・か・ら、早く付けて、名前」

「あの苦しさはなんだったの? 聞いてないのだけど」

「あー、あれ? オリビアの魔力がミジンコレベルだから、私の魔力を分けてあげたの」


 妖精の魔力は膨大らしく、その一部を私に譲渡したという。それがあの痛みだったらしい。嬉しいことだが、複雑な気持ちだ。あの痛み、本当に死ぬかと思った。

 ため息を吐きながら妖精にお願いをする


「今度から、やる前に相談をしてね」

「わかった! じゃあ、早くあたしに名前を付けてよ」


 名前か……名付けは得意ではない。飼い兎に付けたポン太でさえ、数日悩んで付けた名前だった。

 ウンディーネから生まれた妖精か。それなら――


「うんちゃん、はどう?」

「……嫌よ。そんな名前。うんこみたいじゃない!」

「ええ。可愛いと思ったけど……じゃあ、ディーネはどう? ウンディーネのディーネ」

「素晴らしいわ! ディーネね! ありがとう! 今日から、あたしはディーネよ!」


 黄色い星の光がディーネの周りをクルクルと舞うと、小さな身体に吸収された。

 どうやら名前は受理されたようだ。いろいろとディーネに問い詰めたいことはあるけれど、今は疲れたので少し休みたい。

 ベッドに横になり枕に顔を埋める。


「じゃあ、疲れたから寝るね」

「オリビア、また寝るの? もう夕方よ?」


 は? 窓の外を見ると夕日がすでに沈みかけていた。本当に夕方になっている……。

 えーと……あの羽根を吸収してから九時間くらい気絶していたの?

 今日も夕食を逃したら餓死してしまう。急いで準備すれば、夕食には間に合うはずだ。洗面所へと向かう。


「【アクア】」


 昨日と同じ感覚で水魔法を唱えると、ドバっと大量の水が溢れ洗面所から床に溢れた。へ? 一体、何が起こったの?


「オリビア~。魔力量が増えたんだから、気をつけないと」


 ディーネが人差し指を揺らしながらドヤ顔をする。そういえば、アクアを使った後も魔力の消費を全く感じなかった……昨日は魔法を使った後の体力の消費のようなものを感じていた。でも、同じ水魔法を使ってここまで差があるなんて……。

 飛び回るディーネを捕まえて尋ねる。


「そんなに増やしたの? 普通のアクアはどうやって出すの?」

「普通って?」

「この洗面器で使えるくらいの水よ」

「それなら、ディーネが出してあげる!」


 張り切ったディーネは、私が出したより遥かに多くの水で洗面器を溢れさせた。おかげで床も壁にも水浸しだ。


「ディーネさん。服まで水浸しなんだけど……」

「あれ~? なんで~?」

「うん。分かったから。とりあえず着替える。早く行かないと食堂がしまってしまう」

「それなら任せて!」


 待って、と言う前にディーネは私の服から水滴を全て吸収させ、服を完全に乾かした。濡れていた髪も服も綺麗に乾燥している。成功したから良いものを……。


「ディーネ……やる前に声を掛けてくれると嬉しいな」

「ごめんなさい……」

「でも、おかげで夕食には間に合いそう。ありがとう、ディーネ」

「やったぁ!」


 嬉しそうに飛び回るディーネ、妖精って意外に単純なのかもしれないけど可愛いとは思う。


「私は食事に行くけど……ディーネは他に人に見えると大変だから、部屋で待っていてね」

「大丈夫だよ。ディーネは他の人に見えないから」


 あ、そうなの? それなら何も問題はない。私はどうやら女神関係で妖精が見えているようだ。これはもしかして女神から授かった幸運のおかげかもしれない。ディーネと会えたのは幸運……うん、幸運だ。


「ディーネは私のラッキーチャームってことかな」

「ディーネはディーネだよ」

「そうだね」


 私の前を飛ぶディーネと共に食堂へと向かう。

 ディーネの羽は透き通った色で青く光っている。喋らなければ、実に神秘的な妖精だ。口を開くと神秘力がゼロになるけど。


「じゃあ、食堂についたけど大人しくしていてね。急に魔法を使うのもやめてね」

「うんうん。大人しくする!」


 平民用の食堂で、本日のディナープレートを食べる。鶏肉と穀物のスープ、パン、それから温野菜が今日のメニューだ。

 食堂は、ピークを過ぎたのか利用している生徒は疎らだ。

 この時間の食堂を利用するのは当たりかも。周りの目を気にせず食事ができる。スープを食べようと手を伸ばすと、中にディーネが浮いていた。


「ディーネ、何をしているの?」

「水遊びよ!」

「食べ物の中に入るのはやめて。汚いでしょ」

「オリビア、大丈夫よ。妖精が水浴びした後の汁は魔力があるのよ」


 汁って……余計食欲なくなるワード選びはやめて!

 ディーネをスプーンでスープから追い出す。躊躇したが、食べ物を捨てるのはもったいない。それに、今はめちゃくちゃお腹が空いている。躊躇しながらも、スープを口に運ぶ。うん。美味しい。味に変化は特にないで、モグモグと全てを平らげてごちそうさまをする。

 寮の部屋に戻れば、ドアの前にはトーマスが立っていた。


「今日はもう出かけませんから、トーマスもお帰りください」

「オリビア様。公爵様から手紙を預かっております。明日は必ず公爵邸へ来るようにとの事です」


 手紙の封を破りトーマスの前で読む。

 内容は――ふっ。公爵様は相当お怒りのようだ。

 明日は必ず帰らないと、二度と公爵家の一員として認めないとのことだった。今までも認めていなかったくせに。思わず笑いがこぼれてしまう。


「オリビア様。何がおかしいのでしょうか?」

「ああ。明日帰らないと二度と公爵家の一員として認めないそうです。こちらとしてもそのほうが嬉しいので、明日は行かなくても良いかなと思い、思わず嬉しくて笑ってしまったのです」

「へ? な、何をおっしゃられているのですか」


 トーマスが戸惑いながら言う。


「冗談ですよ。お父様は、どんな顔で怒っていらしたのかしら?」

「手紙は執事から受け取ったので、直接お顔を拝見しておりません」

「報告した時は?」

「報告も執事にしております」

「へぇ」


 トーマスは長い間、公爵とは対面していないという。それは、普通なのだろうか、何か違和感がする。

 寂しい犬の顔をしながらトーマスが言う。


「オリビア様、私はまた何か間違えましたか?」

「いいえ。明日は約束通り、午後に王都の公爵邸に向かいます。なので、そんな間抜け面をせずに明日は迎えをよこすように伝えてください」

「そ、それでは、明日、迎えに参ります」


 ついに明日か。王子様、上手くやってくれよ。


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