うなぎちゃんとカチューシャ2
入って来たお客さんは大人の女性で、みうなより背が高く落ち着いた感じの人だった。
みうなはそのお客さんに声を掛ける。
「お一人様ですか~」
その女性はみうなに答える。
「ええ」
「こちらのお席へどうぞ~」
お客さんを席へ案内し、すかさずお水を出す。
「注文はお決まりですか~」
慣れた感じで笑顔で注文を聞くみうな。
「そうね」
女性はメニューを見ずにみうなを見つめて答える。
「うな重を一つ頂けるかしら」
みうなはそれに答える形で聞き返す。
「うな重は並と上と特上がありますが、どれにいたしましょ~」
その女性は静かに返事をする。
「……上 」
みうなは一瞬戸惑うもののすぐに聞き返す。
「うえ、うな重の上 ですか~?」
すると女性は意外な返答をする。
「いえ、うえのうな重を一つ」
少々の間があり、再び女性が口を開く。
「その頭の上のうな重を頂けるかしら」
静かに微笑みながら女性はさらに続ける。
「ねぇ、姫様」
予想外の答えにみうなは一瞬戸惑い、自分の頭の上に居る鰻、
うな重の方を見る。
「ぇと、」
みうなが戸惑っていると頭の上のカチューシャ鰻が震え出す。
「……。」
頭の上のうな重は黙ったまま、震えが大きくなる。
「ぇ、どうしたのうな重?」
みうながそう言った瞬間、カチューシャ鰻がみうなの頭から飛び上がり外れた。
「ぅああああっ、じぇじぇじぇ~!」
お店の中なので静かに頭に乗っていたはずのうな重が叫び声をあげながら飛び外れ、
カチューシャを足のように器用に着地すると、表の扉から外に飛び出していった。
驚いたみうなとは対照的にその女性客は静かに席を立ち、ぼそりと喋る。
「お転婆は、相変わらずですね姫様」
そう言って扉に向かい外に飛び出していったうな重を、追いかける様に歩いていった。
「……ぇと」
呆気にとられていたみうなは、着けていたエプロンを外し母親に渡して叫ぶ。
「お母さん、これお願い!」
そう言って飛び出していったうな重と、女性の後をバタバタと追いかけていった。
「あらあら、何時も慌ただしい子ね」
「みうならしいわ」
みうなのお母さんは慌ただししさに慣れているのか、さほど驚いた様子もなく頬に手を当てて微笑む。
周りの常連のお客さんは、
「鰻屋の鰻はやっぱり活きがいいねぇ」
などと言って飛び出していったうな重と、みうなちゃんを見送った。
詳しい経緯はわからないが、その一部始終を見ていた私は直ぐに家を飛び出し、みうなを追いかけた。
「いや、見ていたのはただの偶然ですよ」
と、私こと西尾一色は独り言のようにどこかの誰かに向かってつぶやく。




