ジッパー団6
「はい、お待ちどうさま」
出来上がったクレープを受け取って店舗横にあるイートインスペースに向かう。
と言っても屋根が伸びた軒下にちょっとしたベンチとテーブルが2席程度あるだけのこじんまりした感じのスペースである。
他のお客さんはどうやら食べ歩きして行くようで丁度私達しか居ない模様。
先程貰ったジッパー団のポイントカードを見ながら感慨に浸る。
「美味しそうだね〜」
みうなが出来上がったクレープを見つめる。
「よし、じゃあ」
そう言って私はみうなを見て
二人とも声を合わせ
「「いただきます」」
まずは一口パクリ。
「ふぉぉぉぉぁぁぉ」
程よい甘さとイチゴのほのかな酸味、それをチョコレートの苦味が引き立てていてなおかつクレープが全てを包み込む。
「ぉお〜美味しいねぇ」
みうなも一口頬張って美味しさを噛み締めている様だ。
ふと、みうなに目をやるとホッペにクリームが付いている。
よし!ここだ!と心の中で叫ぶとみうなのホッペに付いたクリームを狙う。
クレープに誘った目的のうちの一つ、ホッペクリーム。
みうなならば必ずやるだろうと思っていた。
「もうみうな~、ホッペにクリームついているよ~」
などと今気付いた風に語りかけ、さりげなく指ですくい取りみうなクリームゲットだz……。
私の指がクリームに触れる直前に何か黒い物が素早く横切った。
「へ?」
何処から出したのかと思えるような変な声を出していた。
視線をみうなの上に向ける。
先程通りすぎた黒い物体、尻尾。
そう、うな重の尻尾にクリームが付いていた。
それを、うな重がパクりと食べた。
食べてしまった……。
「うまい!」
「うまいのじゃ!」
ああ、そりゃあ美味しいだろうよ。
みうなに気付かれるのもはばからず、暗黒面に闇堕ちしそうな顔でうな重を睨み付ける。
「……」
「ワシもクレープ早く食べたいのじゃ」
うな重が悪びれもなく喋る。
「ぁ、ごめんね~」
と言ってみうなは手に持ったもう一つのクレープ、木苺ブラウニークリームをテーブルの上に差し出す。
すると、うな重がみうなの頭から飛び降りてテーブルの上に乗った。
「ハムはむ、かぷかぷ」
「うまぁいのじゃあ」
幸せそうに食べるうな重とは対比する様に憎らしいほど怨念の籠った顔でうな重を見つめる私。
みうながクレープでホッペにクリームを付ける所までは完全に計画通りだったのに、まさかうな重の行動が完全に予定外だった。
クレープを持っていない右手がコークスクリューパンチをうな重に向かって炸裂するか否かの刹那の瞬間に、
「あ、ヒロちゃんも私の食べる?」
そう言ってみうなの食べかけであるストロベリーショコラクリームを私に向かって差し出した。
その瞬間、あんなに暗黒面に染まっていた私の心が一瞬で晴れ渡った。