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第六章:綻びの兆し

「さよ、無事だったのね――」


社の奥座敷。

柚羽ゆずはは、桜依さよを抱き寄せるようにして、その肩をそっと撫でた。


「……母様。」


桜依は、まだ胸の奥がざわめいていた。


あのとき、確かに何かが始まりかけた。

けれど、何だったのか自分でもわからない。


蒼蓮そうれん

その名も知らない、あの銀の鬼――。


 


「母様、あの人は――」


そう言いかけた瞬間、柚羽はゆっくりと首を振った。


「まだ……今は、知らない方がいい。」


 


桜依はその言葉に、唇を噛みしめた。

けれど、何も言えずただ頷くしかなかった。


 



その夜。


篠原家の洋館、奥の応接間。


尚邦なおくに芙蓉ふようが、再び密やかに言葉を交わしていた。


「……桜依が、何者かと接触した?」


「ええ。」


芙蓉は静かに微笑んだ。


「予想以上に、才が目覚めかけているのかもしれませんわ。」


 


尚邦は、煙草に火をつけながら考え込んだ。


「――使えるものなら、何でも使う。」


 


芙蓉は、その言葉にわずかに目を細めた。


(私の思い通りになればいいけれど――)


彼女の胸の奥には、おさへの執着と、ゆずはへの消えない妬みがまだ静かに燃えていた。


 


篠原家とあやかしの世界。

ふたつの世界の境界線は、少しずつ綻び始めていた。


その綻びの兆しは――誰もまだ、気づいていなかった。


 


 


――第六章、了。

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