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第三章:密やかな契約

洋館の奥――

外の光も届かぬ、重厚な扉の向こう。


そこには、外界から遮断された応接間があった。


革張りの椅子に深く腰かけ、

篠原しのはら 尚邦なおくには静かに煙草に火をつけた。


白い煙が、闇に溶けていく。


 


「……どういうことだ、芙蓉ふよう

 本当に、あやかしどもの世界に、まだ“力”は残っているのか?」


 


その問いかけに、芙蓉は紫煙しえんの中で紅い唇に微笑を浮かべた。


「ええ、確かに。

 昔のように、目に見える繁栄は難しいでしょうけれど……

 “力”は確かに、まだ存在していますわ。」


 


艶やかな声で、彼女は囁く。


「あなたのお望みどおり、この家の名を再び世に知らしめることも不可能ではありません。

 ……ただし、正しい“鍵”が必要です。」


 


「鍵……?」


尚邦は眉をひそめた。


「そう、あなたが疎んじている、あの娘。

 桜依さよこそが、失われた“門”を開く存在なのですよ。」


 


「……才も現れぬ、役立たずだぞ。

 あの娘に何の価値がある。」


 


「愚かなこと。」


芙蓉は静かに微笑む。


「彼女の才は、まだ眠っているだけ。

 それを目覚めさせる方法――

 それが、あなたが欲している“力”を手に入れる最短の道。」


 


尚邦は煙草を灰皿に押し付け、しばらく黙って考え込んだ。


「……桜依の才が目覚めれば、お前が言う“力”も、この手にできるのか。」


 


「ええ。

 そして、あなたの家は再び、この国の――いえ、人の世の頂点に立つでしょう。」


 


静かに手を伸ばした芙蓉の指先が、尚邦の手に触れる。


「どうか……信じて。

 私は、あなたの願いを叶えたいだけ。」


 


尚邦はその言葉にわずかに表情を緩め、やがて静かに頷いた。


「……いいだろう。」


 


「だが、もし桜依が役に立たぬとわかった時は――」


 


「――その時は、必要ないものとして扱いましょう。

 この家に必要なのは、“力”だけですもの。」


 


冷たい微笑とともに、芙蓉の声は静かに空気に溶けていった。


 


 


――第三章、了。



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