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エピローグ:春、ふたたび
あやかしの社には、再び春が訪れていた。
桜は今年も変わらず咲き誇り、風に舞う花びらが静かに降り注いでいる。
桜依は、社の庭先で静かにその景色を見つめていた。
隣には蒼蓮が立ち、ふたりは言葉少なに、けれど穏やかな時を過ごしていた。
「春、だね。」
桜依がぽつりと呟く。
「……ああ。」
蒼蓮もまた、柔らかく答えた。
桜依は静かに目を閉じ、胸の奥でそっと手を重ねる。
――もう迷いはない。
ここが、自分の生きる場所。
ふと、微かな気配を感じて振り返る。
そこには、茉莉がいた。
以前よりも少しだけ大人びた表情で、遠くから静かにこちらを見つめている。
茉莉は何も言わず、ただ短く頭を下げた。
桜依もまた、それに静かに応える。
「……ありがとう。」
その言葉は、声にならなくても確かに届いていた。
茉莉は再び、桜吹雪の中へと姿を消していった。
桜依はほんの少しだけ微笑む。
「春、ふたたび――」
その声とともに、桜色の花びらがひとひら、ふわりと舞い落ちた。
――桜ノ依 ―春、ふたたび― 完。