八話『一年I組』
一年I組。それが俺達に割り振られたクラスだった。
どうやらこの学校にはA〜Zまでの二十六クラス存在しているらしい。クラス多過ぎだろと思ったが、一クラス三十人前後と考えると妥当な数ではある。
Iクラスがあるのは校舎六階で。W〜Zが一階。S〜Vが二階。P〜Rが三。M〜Oが四。J〜Lが五。G〜Iが六。D〜Fが七。A〜Cが八階にあるらしい。
全校生徒が八百人もいる上、階数も多いので当然、エレベーターで移動する者が多くなる。それを見越してなのかこの学校にはエレベーターの数が多い。ザッと見た感じ二十ほど存在した。
利用者のほとんどが上階のクラスの者達で、学と冥も六階と上の方なのでエレベーターを利用してクラスへと向かった。
「ここがIクラスか……」
冥と共に教室に入る。すると、もう既に殆どの生徒が集まっていたようで近くの席の者と会話をしたりしていた。自分の席は事前にデジタル生徒手帳(スマホ化した生徒手帳みたいなモノ)に送られて来ていた為、確認して自分の席に座る。窓際の後ろから二番目の席。隣は奉城さんの席だ。他の生徒達を見るにどうやらボディガードは隣の席になるようになっているみたいだ。まぁ、当然といえば当然か。
席に座り周りの生徒達を観察する。
「……みんな俺達より歳上っぽいな」
「十五歳以上が入学条件ですから。当然かと」
ザッと見た感じ殆どが二十代前半。若そうなのでも十八か七って感じだ。見れば六十代くらいの爺さんもいる。
そして、今更ながら気付いたが……制服を着ているのは十代組だけでそれ以外は着ていない。生徒手帳で校則を確認するとどうやら制服の着用は義務ではないらしい。
まぁ、いい歳した大人が制服を着ている姿は絵面的にちょっとアレなのでコレはコレでいいと思う。
「しっかし、歳上だらけのクラスかぁ、息が詰まりそうだな」
「チョイチョイ、ちゃんと同い年もいるっつーの」
「ん?」
ツンツンと背中を突かれる感覚と共にそんな声が背後から聞こえてくる。
ほぼ反射的に振り向く。するとそこに居たのは———、
「真!?」
「よっすぅ〜、マブマブ。おっひさぁ〜」
———制服の上に白衣を纏った茶髪の少女。
理真。
俺の幼馴染の少女がそこにはいた。
「真……お前も王選校に入学してたのか?」
「まぁねぇ〜、私の家も一応貴族だしぃ〜」
理家。俺の家と同じ三位の貴族。
白衣を着ていることからも想像出来る通り、彼女は科学者で、主に人間の『才能』に関する研究をしており、理家はその分野の研究で成り上がった貴族なのである。
「学様。お久しぶりです」
「真白さんも久しぶり」
真の隣の席に座る彼女のボディガード。
理真の専属侍女である髪を左右で白黒に分かれている少女。
黒川真白。彼女とも古い付き合いでもう一人の幼馴染とも言える存在だ。
理真。科学の才人。
黒川真白。侍女の才人兼護衛の才人。
と、言ったところだろうか?
「あの、ご主人様。この方達は?」
「まぁ、俺の幼馴染……ってところかな」
「そそ、マブマブの幼馴染で〜す」
「はい。学様の幼馴染です」
「ま、マブマブ……?」
「マナブだからマブマブ」
「はい。学様はマブマブです」
(このメイド主人の肯定しかしねぇな。全肯定ボットかよ)
「ところでアナタは〜?薬師寺家のメイドさんじゃないよね?」
「……申し遅れました。私、この度学様の護衛役として薬師寺家に雇われました。奉城冥と申します。どうぞ宜しくお願いいたします」
「ふ〜ん。奉城冥さんね………………ん、奉城?……奉城!?そ、それって、あの奉城家!?」
真がそう叫ぶと同時に先程まで話し込んでいたクラスメイト達が一気に静まり返る。
そして、それと同時に大量の視線が学に集まる。
「奉城家だと……何故、そんな大物が」
「あの隣にいる男が主人か?」
「あの奉城家を侍女に持つとは……どこの家だ?」
ザワザワ、ガヤガヤと騒ぎ出すクラスメイト達。
……うん。なんでこんな冴えない男が奉城家の侍女をってなるよな。
俺も逆の立場だったらそういう反応になるし。
しかし、奉城さんはそういう反応を受けるのに慣れているのか、毅然とした態度で居続けていた。
「はい。あの奉城家です」
「ほ、ほへ〜、す、すごいなぁ……マブマブの家、奉城家と繋がりあったの?」
「……さぁ、俺も親父がどうやって奉城さんを雇ったのか気になってるところだよ」
「ふーん、まぁ、それはさておき私は理真。コッチは侍女の黒川真白」
「……どうも。黒川です」
「私達、マブマブの幼馴染なの。よろしくね。メイメイ」
「め、メイメイ?」
「冥ちゃんだからメイメイね」
「よろしくお願いいたします。メイメイ様」
(……あだ名、というヤツだろうか?そんな風に呼ばれたの初めてだな)
「ねぇ〜、メイメイ。連絡先交換しよ」
「連絡先、ですか……すみません。私、携帯電話というモノを持っていなくて」
「ええ〜、そうなの?」
「はい。今まで必要と感じたことがなかったモノで……」
(連絡なら通信機で事足りるし)
「今時珍しい〜」
「そうだな。奉城さん。スマホ持ってなかったのか?」
「スマホ?……………ああ、スマートフォンの略称ですか」
(((そのレベル!?)))
何というか、浦島太郎みたいな人だなと思う一同だった。
自分達と同い年なのに老人を相手しているような、そんな感覚。
実際、冥の世間知らずっぷりは九十代の爺さん婆さんレベルであり、彼女が今まで同年代の者達と関わってこなかったが故の弊害でもある。
「じゃあさ〜、今日この後みんなで奉城さんの携帯買いに行こ〜、今日は簡単なガイダンスをしたら終わりみたいだし〜」
「お、いいなそれ」
「ご主人様……いいんですか?彼女はその……幼馴染と言えど、王座を競う敵なのでは……」
「まぁ、最終的にはそうなるだろうけど……だからって仲良くしちゃいけない理由にはならないだろ」
「そうそ〜、仲良くしましょ〜」
「仲良くしましょ〜、です」
「……」
(仲良く……か。そんなこと言われたの初めてだな)
いや、そもそもとして同い年の女の子と話すこと自体初めてだ。
……会話なんてただ情報交換をするだけのモノと思っていたけど。
(意外と……悪くないわね。くだらない話をするのも)
「……そう、ですね。不束者ですが、仲良くしていただければ……真様。真白様」
「カタいカタい〜、私のことはマコマコでいいよ〜」
「では、私はシロシロで」
「いえ、それは……流石に」
「距離詰めすぎだ馬鹿ども。奉城さん。コイツらのことは適当に呼び易い呼び方でいいから」
「……では、真さんと真白さんで」
「うん。よろしくメイメイ」
「よろしくです。メイメイさん」
(人生初の……友達、ってことでいいのかしら)
もしかしたら表の世界で生きる人にとっては特別なことでもなんでもないのかもしれないけれど……親しく話せる友人という存在が出来たことに私は珍しく口元が緩むのを感じていた。