第3通 窓からの景色
1日の大半は病室で過ごしていた悠平であったが、この時期はまだ普段と変わらずに体を動かす事が出来ていた。にも関わらず1日中そこにいたのは、悠平なりの苦悩と葛藤がある事が垣間見えている証拠であった。
地上6階にある病室からはNHKや渋谷センター街と言った都心の名物スポットが一望出来る。そこを行き交う人々を見ながら空想するのが悠平の楽しみであった。ある事無い事を頭の中で想像して、一人で楽しむのだ。
チューブで入れられる流動食は吐き気をもよおさない為、悠平にとっては良かった。ただ、ロボットの様な感じがして嫌悪感があったのも事実である。
余命2年って言われてもな。悠平の頭の中では、どうして俺なんだと言う思いばかりがつのっていた。ただ、窓からの景色が、よどんだ悠平の心の天候を明るく照らしていたのであった。
それでも我が子へメッセージを残さなければと、それだけはやり続けようと、心に誓った悠平であった。
我が子へ 其の三
東京ってこんなにも沢山の人が行き来するところだなんて、父さん入院して初めて気付いた。いつも何気なく過ごしていたけど、窓から見える景色の美しさに感動しているよ。雲一つない空も雨雲も様々な顔を見せている間を人々は、お構い無しで行き交う。父さん当たり前の事を書いているけど、笑わないで欲しい。素直にそう思ったから。まだこの美しい空を見ていたい。美代子(母さん)と話をしていたい。まだやり残した事が山ほどある。まだ死にたくない。これからも父さんはありのままをこの手紙に書いて行くよ。