第1通 自覚症状
気が付くと、そこはベットの上で周りには妻らしき人物が、着替え等を慌ただしく片付けていた。(タンスにしまい込んでいた。)
ここは東京都渋谷区の区立高度救命センター病院であった。数日間検査を受け、この病院に入院する事になった。詳しい病名は後日伝えられるらしいが、青ざめた妻美代子の様子を見た私は他ならぬただの病気では無い事を覚悟していた。美代子は医師にこう言われた。
「はっきり申し上げますと、御主人は胃ガンです。スキルス型の胃ガンで進行が早く、現時点でもうstage3です。手術をしても余命は2年程でしょう。」
美代子は目の前が真っ暗になった。それはそうであろう。まだ36歳の元気ピンピンだった夫悠平が末期ガンだなんて。美代子は、こんな時こそいつも通りに振る舞おうと努めていたが、あの手紙を続けたらどう?そう言うので精一杯であった。悠平は持て余していた時間を手紙に費やす事で気をまぎらわしていた。
私と美代子とその子へ 其の一
まだ名前も決まってないし、妊娠もしていないのに手紙を書くなんて、お前の父さんは気が早い人だよね。始めと終わりが大事な気がするけど、まぁ、色んな事を書いて行きたいと思っている。お前が大きくなった時、手紙の中身が役に立っていたなら、父さんとしては嬉しい。何が起こるか分からない、それが人生だ。なーんて説教じみた事も書いて行きたいと思っている。女か男かも分かっていない未来の子供に手紙を書こうなんて物好きは父さん位かもね。初回だしこの辺にしておくね。じゃあ。