肉ラどん
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ドンキでゴリラのイラストが描かれた生ラーメンがふと目に入った。
(ゴリわし麺?)
うどんのような太さと蕎麦のような色に目を丸くして、思わず手に取った。
茹で時間が長い。
温かいまま食べるなら、7分。冷たくして食べるなら、10分半ほどで普通の硬さに茹で上がる――らしい。
興味はあるが、別添えの豚骨スープを買って、合わせて食べる仕様のようだが、――(でも、豚骨か…)
売り場の前で思わず唸る。
子供の頃、中華料理が好きだった。
あるとき、人気のラーメン屋が近くにできた。
前を通るたびに行列になっているのを見ては、どんなに美味しいのかとワクワクしていた。が、実際に目の前に運ばれてきたら、どんぶりに脂が垂れてギトギトとしているし、具まで真っ白に染まっている。
思わずたじろいだが、せがんで連れてきてもらった手前、食べないわけにもいかない。第一、出してもらったものを残すのは嫌いだ。
がんばって食べたが、結局、半分も食べきれなかった。
おまけに、私にしては珍しく胃がついて来ず、――それで、すっかり懲りてしまった。
以来、「あっさり」豚骨系には手が伸びても、「濃厚」や「特濃」豚骨系には手が伸びない。
その日はそのまま家に戻ったが、でもあの麺はどうにも気になる。
食べてみたい…でも、せっかく買っても持て余してしまうかも…それはもったいない…
気持ちを決めきれないまま、気になりすぎて、結局翌日もまたドンキに足を向けてしまった。
――最後の3袋か…。
袋に描かれたゴリラとしきりと目が合うが、どうしたものだろうか。
その時、ふと、昔テレビでラーメンの麺をうどんの汁で食わすというメニューを見た記憶が閃いた。
名前は…確か――ラどん、だっただろうか。
かけうどんみたいな出汁にラーメンの麺を入れたもので、具は、ネギと揚げ玉だったような…。
――なんだか、持て余さずに済みそうな気がする。
早速、買い物カゴに2袋を確保した。
でも、この極太麺にかけうどんの出汁とネギに揚げ玉ではちょっと弱すぎる気もする。
そもそも豚骨スープに合わせる麺なのだし、少し濃い目の方が良いだろう。
やっぱり扱いきれないかも…戻すべきだろうか…
どうしようかと思いながら、野菜売り場をノロノロと歩いていたら、土付き牛蒡についた「本日特売」の赤文字が目に入った。
そういえば、チルド室に牛肉を余らせていた。すき焼きをしたのは、確か2日ほど前だったから、そろそろ使わないとならない。
(あ、そうだ。芋煮風の汁ならどうだろう?)
牛蒡と白ネギを買い足して、肉ラどんだ。
いそいそと帰り、早速台所に立つ。
自分が食べてみたいものがあるときは、夕飯の支度が億劫じゃないのが助かる。
ネギと牛蒡と牛肉は確定しているが、はてさて、冷蔵庫の中にはあと何があるだろう?
萎びかけた人参が一本。使いかけの舞茸と中途半端に余った椎茸。白菜は――流石にちょっと違うか。おや、使いかけの長ネギがあったか…。ないと思って買ってきてしまった。でも、おあつらえ向きに白い部分だけ残っている。ネギは、これを使おう。
牛蒡も太いし、これくらいで中々具沢山にできそうだ。
ラどんなのだから、ラーメンみたく、具を山型に盛りたい。
牛蒡も人参も細めの乱切りにし、椎茸は軸を取って細切り、ネギも斜めの乱切り風にする。
ここまで切ったら、なんだか包丁に疲れてしまって、舞茸は手でさいてしまうことにした。
が、鍋で炒めるにはちょっと肉がでかい。半分凍ったまま手で折ろうとしたが、力不足で、仕方なくまた包丁を出してきて四つ切りにした。
…だったら舞茸も切ればよかった。
気を取り直して、肉から順番に炒めていく。すき焼き用とはいえ、ほぼサシは入っていない。ごま油をひと垂らしして、適当なところで一旦あげる。
そのまま牛蒡、人参、ネギ…と、野菜をサッと炒めて、鍋に並々と水を入れた。
熱々の鍋底で水が爆ぜ、ジャーッと景気のいい音が鳴る。
汁の味は、芋煮風に砂糖と味醂を少し多めにして、いつもより甘めにした。
肉を戻し、コトコトと煮詰める間に麺を茹でる。
(父と祖母は…まあ、大丈夫だな)問題は――、
「ねぇ、何人分茹でる?一応人数分買ってあるけど」
母に声をかけると、炬燵の中に体ごと入って寝そべったまま、
「全部茹でちゃえばいいんじゃない?」と、無責任なことを言う。
「いやさ、食べるならそれでいいけど、作っても食べないことあるじゃん」「だから一応聞いてるの」
「残ったら明日にしたら?」
「伸びたラーメン明日食べるの?本当に?」
「そんなの美味しくないわねぇ…」
「そうだろうね」
「じゃあ、今日食べるわ」
それで、全員分茹でることとなった。
祖母・母・父は熱々。私は冷熱だ。
先に、熱々から作ってしまおう。
袋から麺を出すと、途中で台所を覗きに来た父と祖母が、「田舎蕎麦?」と首を傾げる。
「ラーメンだよ」と言うと、
「え?これが…?」と信じられない様子だ。
丼を用意し、たっぷりの湯…を沸かすのが面倒で、ほどほどの湯を沸かす。
茹で始めると、茹で汁の匂いは紛うことなくラーメンだ。
湯はあっという間に白く濁り、ドロっとなったが、絶えずかき混ぜながら火を調節していれば、案外吹きこぼれないものだ。
茹で時間は、「普通」の記載のところにしたが、祖母にはもしかして固いだろうか?
心配だったので、母に「どう?」と試食してもらうと、
「大丈夫でしょう。よく噛めば」と、頷いた。
湯を切りながら丼に麺を盛り、その上に具をこんもりと盛って、それから汁をかける。
ちょっとタンパク質が少ないかな?でも、見た目はラーメン的で香りはうどん的な甘辛さで、中々良い。
さて、味はというと、これも中々高評価だった。
盛りのインパクトがあったので、ちょっと多すぎたかと心配したが、全員ペロリと平らげた。
「珍しいものを食べさせてもらったわ」
祖母が楽しそうに言った。




