シアン・サルベリア
シアンが通うヘヴン・オペレーター養成学校は、エリトリア公国の南に位置するエーレにある。ここでは、二年間をかけてヘヴン・オペレーターになるための基礎をみっちりと教え込まれる。卒業後は、各地に存在するヘヴン・オペレーターの事務所で働くことになる。シアンは学校に入学して二年目、クラスでの成績はぶっちぎりの最下位だった。
「シアン! シアン・サルベリア!」と、女教師がシアンを呼ぶ。
クラスの視線が一気にシアンに集まる。
シアンは、視線を窓の外から女教師に移した。
「ヘヴン・オペレーターの仕事について答えなさい!」
「……分かりません」
シアンが答えると、教室のあちこちからクスクスと笑い声が聞こえてきた。
「あなた今年で卒業なんですよ? そんなんで将来どうするんですか、まったく」と言いながら女教師は呆れ顔をした。
「では、リリー・シャトルーズさん、代わりに答えてもらえますか?」
「はい」
リリーが立ち上がると、クラスの視線は一気にシアンから彼女へ移った。
長い金髪に、不純物を一切取り除いた宝石のような翠色の眼、非の打ちどころのないほど端正な顔立ち。。おまけに成績も優秀で、性格も良い。出会った誰もが一度は彼女に恋をすると言われ、学外にファンクラブもある。卒業後は、王都にあるヘヴン・オペレーター最大手事務所の『レリシアH.C.』での採用が約束されているとの噂。リリーは「完璧」の代名詞のような存在だった。
「ヘヴン・オペレーターは、天国との電話交換手とも呼ばれ、現世とあの世を繋ぐ存在です。ヘヴン・オペレーターの仕事は、死んだ人間にもう一度会いたいと想う人の願いを叶える仕事です」
「はい、その通りです。では、ヘヴン・オペレーターとしての才能を開花させる条件は何ですか?」
「ヘヴン・オペレーターになるには幼少期の体験が鍵となります」
「その体験とは?」と女教師が続ける。
リリーの眼が一瞬曇った。
「最愛の人を亡くした体験です……」
先ほどまでとは打って変わってクラスは静まり返っていた。
「その通りです。ここにいる皆さんは、全員最愛の人を亡くすという辛い体験をしています。だから、ヘヴン・オペレーターは最も悲しい仕事、なんて言われてたりもします。ただ、だからこそ皆さんは、その才能を生かして、人々の役に立つことが出来るんです。一人を除いてですが――」
女教師はシアンに目をやり言った。
シアンは再びクラスメートの嘲笑の的となった。