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藍の輝きもう一度  作者: シャボン玉
第三章  甲子園と告白

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3章3話 告白 前編

 監督に無理を言って、俺は一人抜け出して実家近くに帰っていた。

 『ここ』に来て数分、一通りの用事は済ませていた。

 昼過ぎのこんなところに誰も来ないだろうと思っていたが、ザッザッと砂利を踏み鳴らして誰かが近づく音がした。

 心地よいその音は高揚した俺を鎮めてくれるようで嫌な感じはしなかった。

 もし、誰かが『ここ』に来るとしたら・・・。思い当たるのは一人しかいなかった。

 ザッザッと心地よいリズムは俺の背後で止んだ。

 おもむろに振り返り、思い当たるその人物に声をかけようとした。

 だが、足元から見上げたそこには、良く知る人物が佇んでいた。

 思い当たる人物とは違い、濃紺色の日傘をさした女子高生が一人。

「・・・藍川さん」

 混乱する俺は辛うじて言葉を続けた。

「どうして、ここに?」


 不動高校の最寄駅から高校に向かう道の途中にやや大きめの墓地があった。

「知ってたの」

 何を?俺は背後の墓石をちらっと見た。

「知ってたの。保泉ほずみ・・まこと君のこと」

 そんな・・・・。彼女の口からその名前が出るはずがない。

 そして、彼女はゆっくりと日傘を折り畳むと、静かに言葉を続けた。

「ずっと・・・・この日が来るのを待ってたの」

 漏れた言葉は力強く、まるで映画の主演女優のようなセリフだった。

「保泉さん家はうちのお得意で良く配達してたんだ」

 配達?果物屋の配達か?たしかに市跨いで配達ぐらいあるだろう。田舎は横の繋がりが強い。

「お父さんの運転する配達の車に乗って、何度もお家にお邪魔してたの。誠君とはすぐに仲良くなって・・まこっちゃんって呼ぶようになった」

 まこっちゃん・・。そんな呼び方して『た』やつは・・クラスの女子入れてもいなかった。

 発見だった、あいつのことで。古い記憶のページが更新され、胸の奥がズキンと痛む。

「少年野球の試合にも観に行くようになったの。お父さんに連れてもらって。遠くから観てただけだったけどね。そのとき、矢上君のことは・・・・気付かなかった」

 俺は初めて口を挟んだ。

「俺は補欠だったから」

 うんっと無言で頷いた。

「まこっちゃんは本当にすごかった。高学年のバッターがみんな三振。バットにかすりもしないの。かっこよかった。お父さんの影響で野球好きだったわたしのね、遅い初恋だった」

 だった・・・・また胸が痛んだ。

「配達の時にね、わたしがプロ野球の話をすると目を輝かせて、興奮して聞いてくれたの。埼玉ドーム行った話は特に。わたしも話していてすごく楽しかった」

「あいつも・・レオネスファンだからな」

 うんっとまた頷いた。

「配達の日が楽しみで仕方なくて・・・子どもだったけど、まこっちゃんもわたしも、お互い好きだったと思う。それで、ある時にね、約束したんだ。将来大人になったら、わたしがまこっちゃんのヒーローインタビューをするって」

 ヒーローインタビュー・・プロを目指すなんて、俺には一言も。

「まこっちゃんのほうはプロになるって約束してくれた」

 そして、彼女の口から結末が告げられた。

「だけど、五年生の時、交通事故に巻き込まれて亡くなった」


「だけど、五年生の時、交通事故に巻き込まれて亡くなった」

 もう悲しくはない。当の昔に悲しみすぎて今となってはなんの感情も沸いてこない。


 ――――「あとね・・・誰も悪くないのになって考えてた」

 ――――「なんでこんな酷いことするんだろ?って・・・・なすてなの?って」

 ――――「神様は残酷だよ、とも思った・・・」


 いつかの海緒さんの言葉がよぎった。理不尽で残酷な現実、正にそれだ。

 あいつが死んでなぜ才能の無い俺が生きてんだろうって何度も思った。

「あいつとは、同じ小学校、同じ少年野球チーム・・・・同じ『まこと』ってんで、すぐ仲良くなった」

 うんっと優しい眼差しで頷いた。

「保泉は学校で何人かいたけど、矢上って俺だけなんだ。だから俺は矢上って呼ばれて・・。あいつは・・まこやんって呼ばれてた」

「・・・・うぅ・・まこ・・やん」

 俺の話に頷いていた彼女の顔は暗転し、今にも泣き出しそうだった。藍川さんも俺と同じで、その呼び名を初めて聞いたのかも知れない。

「あいつは野球の天才だった。だけどさ、なぜかあいつ、ヘタな俺といつもキャッチボール組んでな。手加減なしで投げやがんだよ」

 俺は左手を見つめた。豪速球の軟球を受けて痺れる左手を今でも鮮明に覚えている。

「グラブしてんのにさ。左手が痺れるのなんのって。手、真っ赤になっちまって。デタラメで笑っちゃうだろ」

「ぅ・・・うっ・・・・ぅ・・・」

 両手を口元に当て、泣いている。

「まこやんは俺の親友だったんだ」

 彼女は綺麗な顔を涙で濡らしていたが、構わず俺の話を待っている。

「ヘタだった俺とまこやんの役割分担は明白だった。俺がプロ野球やネットから知識吸収して、それをあいつに伝えて、試合で実演。専門家気取りで教える俺のアドバイスをあいつは真剣に聞いて試合で簡単にやってみせる」

 俺が野球に詳しいのはこのあたりが大きい。それが幸いしてか、俺自身の練習に活きていた。

「俺はそれで十分楽しかったし、正にサポーターみたいな感じだった。だけど、あの日、あいつはさよならも言わずに突然、居なくなった。俺は何度も、保泉さん家の仏壇に線香を上げに行った。月に一回は行ってた。ここにも何度も」

 俺は墓石の足元にある白く役目を終えた灰を見つめた。

 彼女はすっと墓石に近づいて屈むと、スクールバッグから白い箱を取りだし、そこからお線香の束を一つ掴んだ。

 ゆっくりとした動作で「借りるね」と呟き、簡易ライターで火を点け、手で仰いだ。

 白い煙がもくもくと出たのを見てから、白い灰に突き立て、両手を合わせ祈った。

 あいつの墓石には桃が二つに扇形に切られたスイカ一切れのお供え物があった。日陰とはいえ、灼熱の気温や蟻たちによって形は原型を留めていなかった。

 そっか、この果物はあいつのおばさんではなく、藍川さんなのかもな。

 そして、お供え物と藍川さん、まこやんが繋がってあいつの記憶が一つだけ蘇った。物理でやった加速度のように、どんどん忘れてる中で、一つ増えるのは奇跡的に思えた。


 ――――『やっぱ、夏っていったらスイカだよな。夏・・そうだ』

 ――――『なつっていうお前に負けねぇくらい野球詳しいのがいるんだ。今度一緒に遊ぼうぜ』

 ――――『ナツ~~?そんな、かっこつけた名前のやつ、俺らの学校にいなくね?』

 ――――『まぁ、会ってからの楽しみっつうことで!お前と話、ぜってぇ合うと思うぜ』


 俺は話を続けた。

「始めは、クラスみんなが泣いてて、線香を上げに行っていた。だけど、それが一人二人と減っていった」

 彼女はゆっくり立ち上がり、墓石から離れると優しい眼差しで俺を見つめた。

「六年になったころには、俺と数人の先生ぐらいしか来てないって、あいつのおばさんに聞いたんだ」

 ここにくる人はもっと減っているだろう。

「一人二人と減っていくのが、どうしようもなく嫌だった。世の中ってこんなものなんかなって。いつまでも忘れないって・・あって良いのになって」

 ころころと彼女は表情を変え、今はハンカチを瞳に当てている。

「それを証明したかったんだと思う。俺があいつの代わりに・・甲子園目指したのはそんな単純な意地みたいもの」

「やっぱり、そうだったんだね」

 そっか、知っていたのか。


「わたしはあの日、まこっちゃんを奪われて、ずっと泣き続けて涙が枯れてた。大好きな子にもう会えないなんて・・耐えられるわけなかった」

 悲しい表情で淡々と語る。

「わたしは何も考えられなくなって・・真っ白になって・・いろを失ってた」

 公式サポーターとして華やかで特別な存在である彼女。そんな過去があったなんて、誰が想像できるだろうか。

「抜け殻のようになったわたしは、ぎりぎり学校に通ってた。帰宅したらずっと野球を眺めてた。何時間も何も考えなくて良いからって理由で。でもね、話す相手がいないと不思議。レオネスが勝っても嬉しくないんだ。逆に、ヒーローインタビューで思い出して泣いていた。観るのも赦してくれないの・・」

 勝っても辛いなんて。・・・・そうか、この間の球場でもヒーローインタビュー、聞きたくなかったんだな。

「そんなとき、中学入ってすぐに、矢上君のことを知ったの。まこっちゃんのお母さんに聞いて・・。『チームメイトの同級生だった子がリトルシニアに入ったの。やがみまこと君っていうんだけどね』。まこと君って名前を聞いて、はっとしたわたしは一目見ようと頑張って観に行ったの」

 まこやんのおばさん、俺には藍川さんのことは何も・・。

「その試合も矢上君は補欠だった。どの子がその矢上君なのか分からなかった。無駄足だったなぁと試合を眺めていたら、一番声を出している人が気になったの」

 顔を上げ、まっすぐに濃藍の瞳を俺に向けた。

「ずっと目で追ってた。野次を飛ばしていたかと思うと、バットをひきにいったり、チェンジの間、外野手とキャッチボールしたり。そして、試合も終わるってときにチームメイトがその彼を呼んだの『矢上!』って」

 彼女の濃藍の瞳には、中学のころの俺が映っているんだろう。

「だけど、そのときは・・・・あぁ、この人なのかぁって冷めた気持ちで思っただけだったの。でも・・誰よりも気になってた。わたしは中学入ってからも引きこもってたけど、休日に試合を観に行くのが日課になったの」

 悲しく消沈した表情に彼女の光がほんの少し戻った。

「中学二年になって、矢上君はショートのレギュラーになってた。身体も大きくなって・・そのころかな、わたしの身長抜かれたの」

 藍川さんって結構、身長を気にするよな。

「夏の暑い日だった。試合で矢上君がファインプレー連発。目に見えない失点を何点も防いでいた。・・わたしが好きな守備での攻撃」

 試合に集中してたのもあるが、彼女はどこから観てたんだろうな。

「その試合は矢上君が決勝のホームランを打って勝った」

 にこっと俺に微笑みを向けた。

「まこっちゃんと違ってピッチャーではなかったけど・・。わたしのヒーローが急に目の前に現れたの。その日・・・・わたしはあなたに・・恋したの」


「その日・・・・わたしはあなたに・・恋したの」

 俺をまっすぐ見つめた。少しも揺るがないその表情にドキドキと高鳴った。藍川さんが?俺に?

「その日からね、目標ができたの!」

 声のトーンがいつもに彼女に戻った。

「きっと矢上君はまこっちゃんの夢を叶えようとしている。だから!わたしは矢上君のヒーローインタビューをする!あの日、そう決めたの!でもでも、何していいか分からなくて、色々調べて。アナウンサーにならないといけないと分かって、猛勉強して」

 見開いていた瞳が閉じかかる。

「そして・・矢上君に相応しい女性になれるよう努力した。なんでも頑張れた。矢上君が頑張ってるから。わたしも負けないって。矢上君は希望だったんだよ。だって・・・ちゃんと目の前にいるんだもん」

 ・・・・目頭が熱くなった。

「・・根っからの頑張り屋」

「そうさせたのは・・矢上君だね」

 閉じかけた瞳をゆっくりと開け、そう優しく言った。

 俺が藍川さんの希望になっていた?最近は慣れちまってたが、五月のドームでも有名人っぷりを発揮して、凄さを再認識した。

「公式サポーターは?」

「本当にたまたま。アナウンサーを調べていた時に見つけて、応募条件ぎりぎりで倍率もすごくてダメだと思ってた。でも・・いつかヒーローインタビューをしたいって語って・・合格できた」

 すげぇと前から思っていたレオネスの球団公式サポーター。埼玉一有名な高校生かもしれない。そんな彼女を生み出したのがあいつと・・俺なのか。


「矢上君は、どうして徳陽に入学しなかったの?近いのに」

 今度は彼女が空いたピースを埋めるべく訊いてきた。

「ギリまで迷ったよ。徳陽だったら、三年あれば甲子園に一回ぐらいはまず行ける。ただ、自力じゃないと意味ないって思った。だから、公立の不動高校に行ったんだ。そんなに思い入れがあったわけじゃないけど、俺とあいつの家から近かったから」

「偏差値高かったから、わたし大変だったよ」

「なんで、俺と同じ高校に?それに・・なんで今日まで隠して・・?」

「・・わたし・・ずるいんだよ」

 意外な言葉に俺はすぐに反応できなかった。

「月日が経つにつれて矢上君のことがどんどん好きになった。でも、心の奥底でまこっちゃんを見捨てて良いのかって、想い悩んだ。それに、矢上君を遠くから観てただけだから、わたしは勝手な理想を矢上君に押し付けているかもって気付いたの。だから、ほんとにわたしずるいの・・。矢上君がどんな人なのかを知りたくて、話しかけた。まこっちゃんのことも・・・矢上君を好きなことも・・隠して」

「・・・別に普通じゃねぇの。どんな性格なのかって思うの。ずっと遠くからの方が不健全つーか。・・だからずるくないって」

 俺は努めて明るく振る舞った。

「責めないんだね・・。だからかな、矢上君を知れば知るほど好きになって、どうしようもなく胸が苦しくなって・・。野球の邪魔だけは絶対ダメって思ってた。・・だけど、デート誘っちゃった。もし、県大会負けてたら・・わたし」

「でも勝てた・・・。・・そんなに自分を責めなくて良いんじゃないの。完璧なやつなんていないんだし。あっ、大谷は例外な」

「何それ、急に」

 噴き出して、彼女の笑顔が漏れた。そういや、ここ二ヵ月、俺の好きな笑顔が見れていなかった。

「俺だって、今日の試合、みんなに助けられてばっかりだった」

 彼女はうんと頷いた。

「高木がいなかったら、最後までもたなかった。九回裏はベンチに助けられて、十回に点とったのは俺じゃないしな」

「みんなで勝った最高の試合だったね」

「ああ」

「でも、矢上君が流れを変えてくれたから、みんなが頑張ることができた。わたしにはそう見えたよ」

「ほんとに勝てて良かった。二度と闘いたくねぇわ」

 ふふっ、と彼女は笑う。

 張り詰めた雰囲気がようやく溶解し、いつもの野球でできた空間に包まれる。

 彼女と野球の話をしてると、親友と話してるみたいに本当に、本当に楽しい。

 俺たちは久しぶりのこの感覚をお互い微笑みながら噛みしめている。

 県大会・・いや今日の試合だけでも、いつまでも語り合えると思う。

 そんな緩やかでゆっくりと時間が流れる空間で彼女は一歩踏み出し、真正面から俺を見つめて告白した。


「あのね。矢上君は・・」


「野球話に付き合ってくれて」


「球技大会でかっこよく助けてくれて」


「どんな人も平等に見ていて」


「それでもってすっごく優しくて」


「すっごく温かくて」


 彼女の瞳に涙が溢れている。


「子どもに夢も与えて」


「わたしにはいろを与えてくれて」


 一杯になって溢れた涙が彼女の頬を伝う。


「まこっちゃんを・・・いつまでも・・・いつまでも・・・大事にしてて」


 今度は、俺の頬に涙が零れ落ちた。


「そんな矢上 真君は・・・・世界でたった一人しかいない・・運命の人」


「あなたが好きです」


 涙が流れた。彼女が本当に幸せそうな表情で言うもんだから。不思議なんだが、その運命の人が見つかって良かったなと他人事のように思えた。

 返事はもちろん決まっている。だけど俺はまこやんに聞いてみたかった。今ならあいつの声が聴こえそうで。

「まこやん・・俺たち付き合っていいか?」

 俺は墓石に尋ねた。彼女は驚き口元を両手で押さえている。


 矢上!今まで言えなくてわりぃな。

 『なつ』がさ、秘密にしてくれって言っててな。

 『なつ』って、いつもフルーツ持ってきてくれるんだぜ。

 今日だってほら、朝一で。ありがたくいただいといたぜ。

 夏はやっぱ、スイカだよなぁ。お前んちで良く食ってたっけ。

 ああ、付き合っていいかって話か。

 まぁ、あれだ、『なつ』はさ、一途で真面目で頑張り屋なんだけど、だいぶ寂しがりだよな。

 誰かがずっと傍にいてやんないと危なっかしいわ。

 そんなわけで、俺にはなつを幸せにすることはできねぇ。

 矢上!お前、もう暇になっただろ。甲子園決まったんだしさ。

 だから次はなつをよろしく頼むぜ!

 あっ、そうそう。決勝、めっちゃ良かったぜ。マジ感動したわ。

 あんな野球があるなんてな。やっぱ野球おもしれえ!ってなったぜ、サンキューな。

 俺が投げてたらさ、つまんねー試合だったと思うぜ。カカカ。


「・・矢上君?」

 妄想にしてはリアルだったな。それにしても天才はやっぱ言うこと違うわ。大宮学院を完封するってか。それはそれとして、『なつ』か。

「なんか・・『なつ』のことよろしくって」

「えっ⁉『なつ』ってわたしが呼ばれてたのをどうして?本当に聞こえた?」

「・・どうだろう。それで、甲子園は決まったんだし、次は傍にいてやれって」

「じゃあ・・」

「俺も藍川さんが好きだよ」

 目をぱちくりさせ、何度も瞬きをした。

「ほ、ほんとに⁉矢上君はてっきり・・」

「藍川さんみたいにカッコよく言えねぇけどさ」

 せめてでもと思い、彼女に倣って背筋を伸ばし、真正面から彼女を見つめた。

「頑張り屋で野球大好きで、あいつのことずっと想っててくれた藍川さんが誰よりも好きだよ」

「やがみくん‼」

 飛びついてきた彼女を両手で受け止めた。

 彼女は俺の背中に両手を回し、俺の胸に小さな顔を埋めた。俺は左手を彼女の両肩に回し、包み込むように抱きよせ、右手は細い腰に優しく当てた。

 すぐに彼女は俺を見上げて潤んだ濃藍の瞳を見せる。瞳を震わせていて、高ぶる感情が伝わってくる。

 いつまでも慣れない綺麗で美人な顔立ち。目は赤く泣き腫れて痛々しく、今日どれだけ泣いたんだろうと思った。

「大好き!ずっと大好きだった!!」

 震える瞳に染まった頬。彼女の唇に意識し、ドキドキと鼓動が高鳴る。

 その唇にキスしたいと思ったが墓前なので踏み止まった。あいつは気にしねぇよ!って言うかも知れないが自信がなかった。

「あいつが見てるから」

 うんと素直に頷いて、真っ赤になった顔を隠すように再び顔を埋めた。

 鼓動が聴こえてしまうのを覚悟で優しく抱きしめ彼女の体温を感じた。

 暑さのピークとなる昼過ぎであったが、体温が心地よくていつまでもこうしていたいと思った。

 

毎週土曜日12時に更新しています

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