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処刑された無名の少女僵尸は道士に偏愛される  作者: 雨海月子


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第59話 彼の過ごしてきた時間

「あなた様、あなた様の過ごしてこられた五十年の話を聞かせてくださいな」


「……あんまり楽しくないと思うよ?」


 でも、と私が乞えば、彼は否やは言わないだろうとわかっていた。彼は、私に優しくしてくれる姿しか私に見せていない。私の頼みを断ったり、私に怒ったり、そういうことは一度もなかった。ふわふわにしすぎた布団の上に横になって、地に足がつかないような感覚に近いところは……正直、あるけれど。


「じゃあ、ちょっと話してみようか。僕の五十年……でも、誰かにこれを話したことはほとんどないんだ。兄上にも、おおざっぱに一言二言言っただけだし。だから、うまく話せなかったらごめんね?」


「構いません」


 彼はもしかしたら、私が断ると思ったのだろうか。困った顔をしながら、私にひとつひとつ言葉を選んだり、つっかえたりしながら話し出した。


「僕がきみを失った時……僕は、まだ道士としては修行の道半ばだった。術で動かしたりできるのは小さな生き物ばかりだったし、考えさせるようなこともできなかったんだ。僕が言うとおりに鳥やネズミを歩かせられるくらいだった、って思えば、なんとなくきみにもわかるんじゃないかな。えぇと……それで、僕は元々頑張っていた修行をもっとやることにした」


「修行、ですか。なんだか厳しそうですね……」


「山の中を渡り歩いたりしたし、乞われて人の助けもしたね。行き倒れた死体を見つけたら家に帰してやる旅をするよう師匠に言われて、それを長いこと続けていたかな。えぇと、多分、数年は最低でも。僕は西に東に、北に南に、国も超えて、海も渡って。僕のことを待っている人もいないしなって思って、異国まで行ったことも何度かあったな。他国の呪術も学んで、ここを作るのに参考にさせてももらった」


 彼は懐かしいものを見るような目で、ぐるりと部屋を見渡した。いくつかの調度品の中には、確かに異国のものが混ざっている。奇妙な形の壺や、不思議な楽器らしきものが壁にかけられていたのだ。楽器は貝の内側を張り付けてあるか、この世界の光が入ると七色の光を反射する美しい三日月型の弦楽器だった。怖くて触れない。


「修行をしばらくした後は、兄上と話していた時に僕が更けていないことに気付いてね。僕が落ち着いて暮らせる場所としてここを用意する前に、きみの骨をすべて集めてしばらくさすらったんだ」


「私の、骨」


 彼は私の髪に触れて、手櫛で梳いた。髪をもらっておけばよかった、と呟きながら。

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