第33話 触れ合う手
彼は私が刺繍をした手巾を何度も何度も指でなぞって、大切なもののように受け取った。それを愛おしそうに触れている様子から見ると、手巾を使ってくださらない気がした。……まあ、贈った後にこれをどう扱うかは、その人次第ではあるけれど。
「ありがとう、本当に僕に作ってくれて。僕、うれしいよ……絶対使わないで、大事に取っておく」
「手巾ですからね? 確かに調子に乗って沢山刺繍をしてしまいましたが、元々は日用に使うものですからね、あなた様」
私が一応そう言ってみたものの、彼は使ってくれそうになかった。彼は手巾を持っていない手で私の手を取り、私の手指をつくづくと眺め始めた。
「あの……あなた様?」
指先をくすぐられる。私の手に、何かを探しているようだった。しばらく穴が開きそうなほどに見つめられていたかと思うと、ほっとした顔をして手を放す。
「よかった、怪我がなくて」
「せめて一言言ってくださればよかったですし、針で刺した程度だなんて大したことありませんよ」
少し気恥しいのをごまかすようにしてそう言うと、彼は「それでもきみの体は大事だもの」と返して、反省の類をしたようには見えなかった。
「私のこと、過保護にしすぎですよ。だんだん元気にもなってきましたし、あまり気にされないでください。針で指先に傷を負ったとしても、それで命を落とすようなことはしませんよ」
もう死んでいますもの、とは、一応言わないでおいた。それを言ってしまったら、彼が悲しんだり荒れたりするのは目に見えていたからだ。彼についてわからないことは多いけれど、それはわかっていた。そして私は、彼に苦しんでほしくない。『彼の癒しになってください』とは頼まれたけれど、私自身がそうしたい。私によくしてくれる、優しい人なのだから。
「でも、怪我をしてほしくないんだ」
「あなた様が守ってくださっているのに」
私の方から彼の手に少し触れて、握り返す。彼が驚いた顔をして、蕩けるように笑った。
「もう少し、こうしてて。あったかいから」
「何の戯れ言を仰いますの。深紅に触ったりしていたから、むしろ冷たい方だと思いましてよ」
死んでいる、命のないからだを彼は慈しむ。死者に囲まれ、死者の世界を治めるお人。彼は生きているのに、鬼と戯れる彼の慰みに、私はなれているのだろうか。……自分では普通に過ごしているだけだから、よくわからない。
「ううん、あったかいよ。このまま……こうさせて」
彼は私の手を取ったまま、寝台に上がってくる。そして、そのうち眠り込んでしまった。




