表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/59

第3話 自分の姿を見る

「あんなにご機嫌な主上を見るのは、初めてかもしれませんねぇ」


 眠って目を覚ましても、夢のような豪華な部屋の中にいる自分の状況は変わらなかった。夫人は私に綺麗な服を着せて、体を起こしてくれる。不思議なほどに硬い体は、まるで人形のようだった。


「しゅ、じょう……?」


 それは皇帝陛下に使われる名前で、間違ってもあんな若々しい見目の人ではなかったはずだ。あの人の髪は白かったけれど、顔は青年だった。


「ここのこと、教えて差し上げますね。私は(ショウ)と申します、皇后様」


「!?」


 とんでもない尊称で呼ばれて、硬い体でも瞼を見開けてしまった。びっくりしすぎて。一族には確かに妃になっていた人がいたけれど、皇后はいなかったし、間違いなく私のことではない。私がお嫁に行くはずだった人は、――あれ、うまく思い出せない。沢山調べたのに、沢山お話を誰かから聞いて、夢を膨らませていたはずなのに。ぽっかりと開いた空白が気持ち悪くて、怖かった。皇族とかの、偉い人ではなかったはすだ。それだけは確かだった。ほとんど平民のように暮らしていた私に、雲の上の人のお嫁さんだなんて務まらない。


「ここは、鏡都(ジント)。鏡の都と書いて、鏡都(ジント)と読みます。住民はすべて死霊、鬼火、陰に転じた者達です。私もかつては身分ある人の教育係を務めておりましたゆえ、此度の大役を仰せつかりました」


 そう言って夫人は私に一礼した後、一枚の鏡を取り出してきた。初めて見る、ぞっとするほど綺麗に映す鏡。


「これ、は……?」


「初めてご覧になりますか。玻璃で出来た鏡でございます。ここに映っていらっしゃるお姿が、現在の皇后陛下であらせられますよ」


 ひっ、と小さく悲鳴が漏れた。鏡に映っている私の姿は――どう見ても、生きてはいなかった。黒い瞳は、色合いが私の覚えている私の目ではない。髪はいい匂いのする油で艶々と手入れされていて、最期のボサボサな髪とは雲泥の差。そもそも、生きていた頃でさえこんな髪になったことはないほどだった。薄い布を何枚も重ねてあちこちに金や銀の刺繍がついた、玉留めのない着物。額には何かの紋様が赤黒い模様で描かれていて、字のようにも絵のようにも見える。顔色は文字通り死人のように青白く、たっぷりとした布の中から垣間見える手首には縫い目のような模様があった。血色のない顔の中で、唇は血のように赤い。最期にそう願ったように。


「今の皇后陛下は、この鏡都(ジント)を死者の都として作り上げた道士である皇帝陛下が御自らお造りなさりました、僵尸(キョンシー)でございます」


 私がうまく動かない中でなんとか目線を動かすと、同じように鏡像も動く。鏡は残酷なほど、私が動く死体であることを知らしめていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ