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ヘイト稼ぎで成り上がる 〜「囮しかできない無能」とギルドを追放された冒険者ですが、実は因果律を操作して魔物を呼び寄せる激レアスキル持ちでした。幼馴染の最強聖女と手を組んで討伐金策始めます〜

作者: 焦げた砂肝

【お知らせ】

連載版、現在執筆中です!

「グレイくんさぁ。もういいよ、お前クビ」


 突然だった。かけ出しのE(ランク)冒険者である僕、グレイ=アトラクが所属しているギルド支部に呼び出され、真っ先に言われた言葉がそれだった。


「えぇっ!? そ、そんな……僕なにかしましたか!?」


 理不尽な追放に、僕は詰まる声を絞り出して反論する。

 しかしギルド支部長のエディ=クリードは全く耳を傾けず、取り出した名簿から淡々と僕の名前を塗り潰してしまった。


「いやぁ実に残念だ。かの大貴族ノーブル家からの依頼が、お前1人のせいで台無しになってしまったのだから」

「え、き……貴族???」


 そんな依頼、僕は受けた記憶がない。

 分かることはただ1つ。僕が何かしらの濡れ衣を着せられているということだ。


「エディさん。せめて詳細を聞かせて貰っても?」

「あん? 物分かりが悪いなぁ。ノーブル家の当主を隣国まで護衛する任務があったのは覚えているな?」

「も、もちろん。でもそれはA(ランク)の人が引き受けて……」

「失敗して当主が大怪我を負ったらしくてな。グレイ、お前の『不幸体質』のせいにすることになった!」


 エディに言われ、僕は出そうになった言葉がまた詰まる。

 そう。僕はなぜか生まれた頃から魔物に襲われやすく、『不幸体質』を持った少年として周りから忌み嫌われる存在だった。


 森を歩けばトロールに襲われ。川を渡れば怪魚に襲われ。

 しかしその不幸はあくまで"僕自身"に向けられるもので、他人に危害が及んだことは1度もない。その依頼に僕が参加していないなら尚更関係ないはずだ。

 なのにどうして……。


「だからお前はクビ! この際だし言いたいこと全部言ってやる!」

「ぼ、僕はなにも」

「問答無用っ!!!」


 バンッッ!!!


 思い切り机を叩き、エディは怒鳴り始めた。


「手違いでお前を登録した時は大変だったぞぉ!? 『不幸体質』の無能を受け入れたって本部の奴らにも馬鹿にされてさぁ!!!」

「でも僕はずっと……!!」

「『囮役』としてチマチマ報酬受け取ってたな! ふざけやがってそんなもんガキにも出来るわ!!!」

「じゃ、じゃあすぐ辞めさせれば良かったじゃないですか!」

「本部にケチつけられるから無理だっつ〜の! でも貴族が原因ならあいつらも黙ってんだろギャハハハハ!!!」


 ガンッガンッ! とエディに蹴られながら僕はドアの前まで追い詰められる。

 ギルド内には僕以外の冒険者もいるが、暴力を止めようとする者は誰もいない。それどころか皆、嘲笑の目でこちらを見ていた。


「やっと消えるみたいだぜ。あいつ」

「ほんと邪魔くさかったわ〜」

「魔物を引きつける特性は便利だったけどね。ま、一緒にいるこっちがそういう目(・・・・・)で見られるのは勘弁だけど」


 ……分かってはいた。分かってはいたが、実際に言葉でぶつけられた時の苦痛は大きい。


 『不幸体質』のせいで迂闊に外を歩けない僕は、誰かと共に行動することが多かった。その時だって、魔物を引きつける囮役として仲間が安全に立ち回れるよう全力でサポートしてきたつもりだ。


 でもようやく分かった。どこまで頑張っても僕は"迫害対象"なんだ。

 僕だけが不幸なのに。誰にも迷惑をかけず意味もなく嫌われて、必死にここまで生きてきたのに……。


「あ〜あ! お前さえいなけりゃ俺様は莫大な報酬を手に入れて!! 名も売れて!! もっと昇進できたのになぁ!!!」

「ぐっ! わ、分かりました。もう自分で出て行きますから……」


 理不尽な痛みに耐えながら立ち上がり、僕はドアを開けて出て行く。

 しかし、


「そうかそうか。罪を受け入れるんだな!? じゃあ賠償としてお前の全財産を頂こうか」

「は???」

「てかもう部下を向かわせてるんだがな。お前には帰る家さえないんだよ!」

「っ……!?」


 頭が真っ白になった。そのまま勝手に足が動き出して、僕は自分の家だった(・・・)方角へ走った。


 そこから先は思い出したくもない。


 とにかく僕はこの日、全てを失った。



 ☆



「終わった……何もかも終わりだぁ……死のう」


 ギルドを追放されて5日が経過した頃。職も家も失った僕は、所持金を全て使って国境付近にある"死の峡谷"へと訪れていた。もちろん魔物がいないルートを辿って。


 "死の峡谷"は古代に災害として恐れられた"バハムート"が住んでいる場所である。世界に3人しかいないS(ランク)冒険者にすら討伐は不可能とされているが、今は滅多に人前に現れないことから脅威とはされていない。

 それでも運悪く(・・・)出会えたら安らかに死ねるという噂が広がり、今では自殺スポットとして有名になってしまっている。


「かく言う僕もその1人。というか僕なら出会えるかもしれないしな」


 魔物に襲われやすい『不幸体質』の力は、年々強まってきている。

 孤児院育ちで身寄りのない僕としては、そこらで野垂れ死ぬよりバハムートに殺された方がよっぽど格好がつくだろう。他に魔物はいないので横取りされる心配もない。


「ふぅ……ここら辺で待とう」


 辺りを瘴気で包まれた陰鬱(いんうつ)な空気の漂う道を進み、大きく出っ張った崖の上へと到着する。

 下を覗いてみても底は真っ暗で地面を見ることはできず、高所恐怖症の人間ならそれだけで気絶してまいそうな光景だ。


 だが今の僕にとってこの崖は、緩やかな走馬灯で人生を振り返っていく場所でしかない。


「僕ってまだ17歳だよな……にしては酷い人生だった。昔は小さな魔物を見つけるのが得意なくらいだったけど、だんだん規模が大きくなって、周りに避けられるようになって」


 思えば10歳くらいの頃はまだマシで、友達もそれなりにいたはずだ。正直あの頃は楽しかった。


「みんな元気にしてるかなぁ。特にあの"聖女"の子。名前は……そうだアンナだ」


 ふと、離れ離れになった幼馴染のことを思い出した。アンナは誰にでも優しく接する、お(しと)やかで可愛らしい女の子だった。純白の髪とルビーのような紅い瞳が特徴的だった。


 森でトロールに襲われているアンナを、僕が囮となって助けたのが出会いだった。それからよく遊ぶようになったのだが、5年前、僕たちが12歳の頃にアンナは突然姿を消してしまった。

 話を聞く限りでは、彼女には聖女としての才能がありその修行として旅立ったそうだが……。


「聖女って具体的に何するんだろうなぁ。教会で働いて人々を癒して……ま、今が楽しく過ごせてればそれで良いか」


 いざ死ぬと決めてみると思い出がジワジワと溢れてきて、気付くと崖の上に腰掛けてから5時間が経過していた。


 けれど、いくら待ってもバハムートは現れなかった。


「……そりゃまぁ数年に1度現れるかどうかってくらいだし。ここに来る人も粘るだけ粘ってから飛び降りるのが通例だ。はぁ……お腹すいた」


 そろそろ腹の虫の主張が激しくなってきた。理由は簡単、ここに来るのにお金を殆ど使ってしまい、2日前から何も食べていないからだ。

 今更食べ物を買うお金はないが、ここで餓死を待つのも嫌だ。どうせなら楽に逝きたい。


「結局、最期まで中途半端か……」


 一通り思い出に浸れたので、僕は飛び降りる決心をする。人生が終わるその瞬間まで、この体質は役に立たなかったと嘆きながら。


「はは……なんだよ。今になって震えてきた。あ〜クソ、本当に死ぬのか僕……」


 崖の先端に立ち下を見る。今の僕に残された居場所は、真っ暗な奈落の底のみだ。


 ……でも、もう格好つかなくたっていい。バハムートに頼らなくたっていい。自分の力でやってやる。


「よし、最期くらい大胆にいくぞ! 来世は普通の人生を送れますようにっ!!!」


 ──そう叫んで足に力を入れた。その時だった。


「祓ったま〜、清ったま〜、死者の魂よ安らかに〜♪」


 陰鬱な空気に似つかわしくない気の抜けた歌声が聞こえてきた。

 瘴気の霧が立ち込めていて姿は見えないが、女性の声だということは分かる。


「祓ったま〜、清ったま〜♪」

「……なんだ? 他の自殺志願者が来たのかな?」


 飛び出そうとした足を止め振り返ると、霧の中に歌声の主のシルエットが浮かび上がっていた。

 身長は僕と同じくらいの長髪。上半身を覆うローブと十字架のような物を持っていることから、聖職者のような印象を受ける。それにしては随分と陽気な歌だが……。


「お、顔が薄っすら見えてきた。結構かわいいな……って、あれはっ!!??」


 そして現れた姿に僕は目を疑う。

 純白の髪を揺らしルビーのような紅い瞳を持ったその少女は、幼馴染のアンナにそっくりな見た目だったからだ。


「う、嘘だ……そんな……なんで……」


 ギルドを追い出された時以上に声が詰まる。胸が高鳴り、目頭が熱くなる。

 一方、アンナ似の少女はまだ僕の存在に気付いてないようで。


「死者の魂おいでませ〜、サクッと祓ってあげますよ〜っと♪」

「あ、あの……」

「うん?……あっ!!」


 震えた声で話しかけると、少女は僕を見て満面の笑みを浮かべた。


(この反応、まさか本当にアンナなんじゃ……)


 そんな気持ちを知ってか知らずか、少女はこちらを指して言った。


「死者の魂、発見っ!!!」

「まだ死んでないよぉ!!!??」


 ……どうやら僕の知っているアンナではなかったらしい。

 でも何故だろう。この時の僕は昔のような元気を取り戻していた。


 少女は肩を落としながらこちらへ近付く。


「な〜んだ。死霊じゃないのか」

「……そもそも霊なんている訳ないって」

「いるよ。例えば君の左肩」

「ん? そういえば妙に重く感じるな……え、いるの? 本当にいるの!?」

「ふふ、冗談♪」


 そう揶揄(からか)いながら少女は僕の手を取り、崖から離れた方へ歩いていく。まるで人々を導く聖女のような悠々とした足取りで。


(でも、この子は一体誰なんだ? アンナはこんなに明るくなかったしなぁ)


 少しでも期待をしていた自分が恥ずかしい。そして同時に新たな疑問が浮かんでくる。

 この少女は何者で、一体何故こんなところにいるのか。というかなんで自然に手を繋いでいるのか。


 暫く沈黙のまま考え込んでいると、今度は少女がとんでもない発言をしてきた。


「ねぇ」

「な、なに?」

「君グレイくんでしょ」

「え? なんで僕の名前……」

「私だよ私。幼馴染のアンナだよ」

「……ええぇぇえぇぇえええぇぇぇえぇぇ!!!??」


 全ての疑問が吹っ飛ぶほどの衝撃。

 いや本当にそうなのかよっ! というツッコミすら追いつかないほど唐突な告白だった。


「ほ、本当に……げほっ! アンナだった……げほっ、げほっ! なんて……」

「あれ、大丈夫?」

「うぅ……ごめん。その、身構えてなくて……あと一昨日から何も食べてなくて」

「えぇっ!? それ先に言いなよ!」


 あまりの衝撃に立てなくなった僕は、アンナに介抱されながらその場で休むことになった。

 久しぶりに会う彼女はとても頼もしく、僕は衰弱し切った体を支えられながらパンと水を分けてもらった。


「一気に飲み込んじゃダメだよ。空腹時こそゆっくりね」

「うん……えっと……」

「大丈夫。君がここにいる理由(・・・・・・・)は落ち着いてから聞くよ」

「うん……」


 陽気な歌を歌っていた時とは打って変わって、優しい表情でアンナは僕を待ってくれている。

 良かった。やっぱり僕の知ってるアンナだ。


「……パンってこんなに美味しかったんだ」

「ふふ、なにそれ」


 こうして会話をしていると本当に5年前に戻ったようで、それこそ昔と変わらない居心地の良さだった。

 だからこそ、僕が"死の峡谷"に来た経緯は嘘偽りなく話すべきだと判断した。


「あのさアンナ。聞いて欲しいことがあるんだけど」


 一息ついて僕は話した。

 昔から持っていた『不幸体質』が年を重ねるごとに強まっていることを。それが理由で迫害されてきたことを。そして5日前に、言われなき罪でギルドを追放されてしまったことを。


「……で、どうせ野垂れ死ぬなら格好つく方がいいなと思ってここに……」

「ふ〜ん。なるほどねぇ」


 アンナは頬杖(ほおづえ)をついて軽い相槌をしながら話を聞いていた。しかしその目はどこか怒っているようにも感じる。


 そして少しだけ考える素振りをした後、アンナはまた和やかな表情で話し始めた。


「ねぇグレイくん。覚えてる? 森で迷子になった私を見つけてくれた時のこと」

「え? あぁ。初めて会った時の」

「そうそう。危険区域に入っちゃってトロールに襲われそうなところを、グレイくんが助けてくれたんだよね」


 突然何を話し出したかと思えば、それは先程まで僕が浸っていた思い出の1つだった。

 アンナは続ける。


「本当はあの時、私はもう諦めてたの。あんな大きい魔物に子供が敵うなんて思えなかったし、2人揃って死んじゃうんだって」

「うん。正直僕も死ぬかと思った」


 懐かしいな。出会った時のことをまだ覚えてくれているのは素直に嬉しい。

 確かその後は僕がトロールを引きつけて、落とし穴に嵌めて逃げ切ったんだっけな。


「でもグレイくんは言ったよね。『僕は死なない! 生きて世界一の"大富豪"になるんだ!』って」

「……げっ!?」


 僕あの時そんな恥ずかしいこと言ってたの!? 必死だったから覚えてないな……でも覚えられてるし……。


 何やら変な方向に話が向かってきたなと焦っていると、


「今でもその気持ちはある?」

「い、いや……あれはその場の勢いというか……」

「グレイくん」


 アンナは僕の両手をギュッと握ってきた。

 そしてもう一度彼女の顔を見ると、それは真剣なものに切り替わっていた。


「ねぇグレイくん。格好つく死に方なんてないよ。あるのは生き方だけ」

「それは……」


 それは確かにそうだ。

 けれど、


「僕に残されたものなんて、もう……」

「あるじゃん」

「え?」

「出会えたじゃん。私にさ」


 そう言うと、アンナは何かを察したように立ち上がり、十字架の形をした杖を構えた。


「君は死なない。今から証明してあげる」


 ──その時だった。

 辺りを邪悪な魔力が包み込み、地面が大きく振動し始めた。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!


「え、な、何これ!? 一体何が」

「グレイくん」

「何!?」

「さっき言ってた『不幸体質』が強まってるって本当なんだよね?」

「そ、そうだけど……まさか今になって!?」

「そう。どうやらその力は"バハムート"すら呼び寄せちゃったみたい」


 ──カッッッッッッッッッ!!!!!


 邪悪な魔力が一点に集約して解き放たれる。

 辺りを見えづらくしていた霧が完全に晴れ、降りていく夕日を背にそれは顕現した。


『GROOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!』


 間違いない。僕を庇うようにして立つアンナのさらに先の崖付近、伝説として伝わるバハムートの姿がそこにはあった。


「ど、どうして……さっきまで……」


 震えて体に力が入らない。それだけの威圧感がその魔物にはあった。


 漆黒の鱗に屈強な4つの脚、そして背中に大きな翼を持つドラゴン。10mはあろうかという巨体は、それだけで人間では到底敵わない最強種としての格を感じる。

 魔力量も桁違いだ。S(ランク)冒険者でも討伐不可なんて言われているが、きっとそれよりもっと上。逃げることすら不可能だろう。


 だがそんな圧倒的な力を持つドラゴンを前に、アンナは不適な笑みを浮かべ近付いていく。


「え……ちょ、アンナ!?」

「ん? 言ったでしょ。証明するって」

「流石にあれは無理だって! 君だけでも逃げて!!!」

「いいから見ててよ♪」


 アンナの体が光のオーラに包まれていく。

 そして次の瞬間──彼女はバハムートを遥かに凌駕(りょうが)する魔力を放出していた。


「さてさて。最強聖女(・・・・)の力、久しぶりに解放しちゃおっかな」


 コォォォォォォォォ……


 アンナは放出した魔力を杖に集中させていく。

 それを危険と判断したのか、バハムートはすぐさま口内に熱を溜めこちらへ照準を合わせてきた。


『グルルルル……!!』

「来る! アンナ避けて!」

「やだ」

「何でさ!!?」


 ドォォォッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!


 僕たちが言い合う暇もなく、バハムートの口から超高密度の火球が発射された。


 高音すぎるあまり青い炎として燃え広がった火球は、岩を溶かし地面を抉っていく。さらにその風圧で辺り一帯が吹き飛ばされ──新たに真っ平な地形が形成された。

 その化け物は、たった一吹きで僕たち以外(・・・・・)の全てをかき消してしまったのだ。


「……ってあれ!? 僕たち生きてるじゃん!?」

「そりゃあね。あんなジャブ如きじゃ傷1つ付かないよ」

「え」


 よく見てみると、僕たちの体は白い膜に包まれており、それが防御の役割を果たしてくれたようだ。

 となれば、その防御膜を展開した人物は1人しかいない。


「あ、アンナが守ってくれたの?」

「そーだよ。でも借りとは思わないでね。私だって君に感謝してるんだからっ!」


 そう言うや否や、アンナは再び杖に魔力を集中してバハムートに向かって走り出す。

 同時に、バハムートは大きく口を開けこちらへ突進してきた。


 ドガンッッッッッッッッ!!!


 激突。両者の歩みが止まる。

 目を凝らして見てみると、アンナの杖から光のエネルギーが具現化し、バハムートの牙を力ずくで押さえていた。


「だってグレイくん! 君のお陰で久しぶりに暴れられるんだもん!!!」


 そして次の瞬間。杖から放たれた衝撃波が、バハムートを上空へと弾き飛ばした。

 アンナが力比べを制したのだ。


「えぇ!? あの巨体に押し勝った!」

「ははっ! まだまだ、ここからが楽しいんだよ!」


 強敵を前に昂っているのか、アンナは僕に見向きもせずバハムートへ追撃していく。

 一方先程のダメージで激昂したバハムートは、右前肢に青い炎を纏わせ勢いよく振り下ろした。しかし、


「聖霊術──『(スパーダ)』」


 ──────キンッ


 杖から放出された光が剣の形となり、技を繰り出す前のバハムートの右前肢を切り落とした。


「す、凄い! あの鱗を物ともせず……ってうわああああああああ!!!」


 だが不幸は僕のもとへとやってきた。落ちてきた前肢に込められたエネルギーは凄まじく、切り落とされて尚、僕の立っていた足場を崩してしまった。

 当然その下は底の見えない奈落である。


「嘘だろ!? 僕こんな事故で死ぬの!!?」


 僕は目を閉じ、唐突な死を迎え入れる覚悟をする。

 しかし地面に打ち付けられる衝撃は来ず、代わりに全身が浮遊感に包まれた。


「あははごめん、周り見えなくなっちゃってた。それと荷物持ってくれてありがと」

「……こ、こちらこそ」


 気付くと僕はお姫様抱っこでアンナに運ばれていた。

 そのままトンットンッと瓦礫を跳び移り、アンナは元いた崖の上へと着地する。


 ……まさかこの歳になって女子にお姫様抱っこされるとは。


「さ〜て。相手も本気になったみたいだし、次の一手で決めちゃおう」

「いや本気っていうか、あれ……ブチ切れてない?」


 僕たちの目の前。脚を1本失い大量の血を流すバハムートは、今度こそこちらを排除しようと青い炎を全身に纏っている。

 数100年現れなかった強敵に対する最大限の防衛本能だろうか。目の前の獲物を狩り、自らの"生"を獲得する純粋な野生としてのドラゴン族がそこにはいた。


 魔力密度もこれまでとは桁違い。だがそんな相手にすら、アンナは臆すことなく立ちはだかった。


「ねぇ気付いてる? あのドラゴン、最初からグレイくんの方しか見てない。それに切り落とされた腕も君に向かって落としてた」

「え、そ、そうなの?」

「『不幸体質』の力かな。だから私の悩み(・・・・)にも関係なく出てきてくれたみたい」

「悩み?」

「それは後で話すよ♪」


 そう言うと、アンナはバハムートに対抗するよう魔力を一気に解放する。次で完全に決めるつもりだ。


「聖霊術・改──『大聖光剣(グランド・スパーダ)』」


 ズォォォォォォォ……!!


 具現化した白光が、強く濃いエネルギーとして大剣の形を成していく。天に向かって伸びていく剣先は止まることを知らず、遂には暗雲を貫いた。


「…………」


 2者の間に一瞬の静寂が訪れる。

 そして荒々しい雄叫びと共にそれは破られた。


『GROOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!』


 魔力を最大限に引き出したバハムートが、地面を抉りながら青い炎の鎧をもって突進する。

 一方アンナの動きは対照的で、まるで日常の何気ない一動作のように悠々と大剣を振り下ろした。


 ────ズバンッッッッッッッッッッッッ!!!!!


 結果、大剣は炎の鎧ごと巨体を切り裂いた。なんとバハムートの体はこちらに届くこともなく、真っ二つにされてしまったのだ。

 つまり今度こそアンナの勝ちだ。


 大きく開いた口から尻尾の先まで。(あらわ)となった断面から血と肉片が飛び散っていく。


「……ふぅ、楽しかった。後はアレを拾わないと」


 心臓からバハムートの"核"が転げ落ちると、アンナはそれを回収しに行った。

 "核"とは魔物の生命維持に必要な水晶玉のような形をした器官であり、魔力が豊富で様々な薬品の素材に使われる。バハムートの核なんていったらどれほど高級なものが作れるだろうか。


「凄い……ほ、本当に勝っちゃった」


 そう。勝ったのだ。S(ランク)冒険者ですら敵わないと言われる最強の魔物を、昔は非力だった幼馴染の聖女が討伐してしまったのだ。

 最初はハッタリだと思った。でもアンナは本当に、この5年で見違えるほど成長していたのだ。


 ……というか強すぎない?


「ね? 君は死ななかったでしょ」

「うん……本当に、何と言うか……」


 ここまで気遣ってもらい命も助けてもらい、感謝と同時に湧いてきたのは悔しさだった。幼馴染のアンナがここまで強くなっているのに僕は何をやっているのかと。

 自殺まで考えて、身も心も全く成長していないじゃないか……。


「で、本題なんだけどさグレイくん」

「は、はい。なんでしょう?」


 突然陽気な声で呼ばれ、思わず素っ頓狂な返事をしてしまう。

 そんな僕に構うことなくアンナは続ける。


「強かったでしょ。私」

「……? まぁ強すぎるくらいだけど」

「ふふ、本当にそうなんだよ。だから悩み(・・)になっちゃってるんだけど」


 その顔は笑っていながらもどこか寂しさを覚えるようで。

 自虐を含めたような笑顔でアンナは言った。


「実は私、強すぎて魔物と全く遭遇できないんだよね」

「……へ?」

「だからさグレイくん。一緒にお金稼ごっ?」


 その幼馴染が発した言葉は、僕の頭を混乱させた。


「お、オカネカセギ?」

「そう!」

「……どうやって?」

「君が呼び寄せた魔物を片っ端から私が倒して、討伐報酬で稼ぐんだよ。まずは経緯を説明するね」


 鞄にバハムートの核をしまい、ホクホクとした表情でアンナは続ける。


「私は5年間、隠れ里に(こも)ってひたすら修行してきたの」

「うんうん」

「で、師匠を軽くあしらえるくらい強くなったんだけど」

「う、うん」

「いざ外に出てみたら魔物が怖がって出てこなくなっちゃったって訳」

「…………うん?」


 なるほど分からん。色々突っ込みどころはあるが、まさかアンナは魔物の"危機回避"の話をしているのだろうか。


 魔物には、強すぎる魔力を避けて発生する危機回避という特性が備わっている。そのため、バハムートのみが住んでいる"死の峡谷"のような偏った環境が存在するのだ。

 危険区域に立ち入る際はその特性を活かし、何百人もの強者の魔力が込められた"魔物避け"を持つのが常識である。


 もしかするとアンナの言いたいことは──。


「君が強すぎて、1人で魔物避けの役割をしちゃってるってこと……?」

「正解! さっすがグレイくん。ちなみに強い魔物ほど私の魔力圧にすぐ気付いて隠れちゃうんだよね」

「そ、それは何とも……」


 だが考えてみればわかる話だ。バハムートすら軽く討伐できてしまうアンナがそのまま活躍して、噂が冒険者の僕の耳に入らない訳がない。


「本当はさ。私は武闘派聖女として名を馳せたかったんだよ」

「武闘派聖女て」

「でも力を試す相手なんて一切いなくて。お金もなくて困ってたの」

「……他の方法で稼ぐのは?」

「それはやだ! 戦って討伐報酬もらいたい!」

「そんなに……」

「お願いグレイくん! 私の魔物寄せになって!!!」

「いや言い方!!!」


 圧が凄い。でも何となく彼女のことは分かった気がする。

 バハムートと戦っている時の楽しそうな表情といい、今の態度といい。謎のポリシーは置いておいて、アンナは強くなりすぎたが故に力を持て余しているらしい。


 あと、この際だから一緒に聞いてしまおう。


「聖女って皆こんな強さなの?」

「あはは、そんな訳ないよ。私が特別強いだけ」

「え、あ、うん。なんか安心した」


 感覚が麻痺してしまっているが、これが普通だ。普通の聖女は教会などを拠点に人々を癒してくれる存在で、バハムートを倒すなんて人類としても規格外だ。


 だがそんな存在に今の僕は頼られている。これまで悩まされ続けた『不幸体質』が原因で。


「……本当に僕なんかが役に立つのかな」

君しか(・・・)いないんだよ。あのバハムートの反応もだけど、グレイくんにはきっと特別な力がある」

「力……そんなの考えたこともなかった」

「ふふ、これからその力を合わせて協力するんだよ」


 (うつむ)く僕にも見えるように、アンナは右手を差し伸べる。


「諦めるのはグレイくんの勝手。ならせめて私を助けるまでは生きてみない?」

「助ける……僕が……」


 この光景には見覚えがある。森でトロールから逃げ切った後、泣きじゃくる少女へ手を差し伸べる少年の姿。

 今ではすっかり立場も逆転してしまった。だが僕にはまだ、諦めていた普通の生活を取り戻すチャンスがあるらしい。


「昔みたいに夢がある訳じゃない。家も職も失った。だけど僕たち(・・・)なら、ここから逆転できるかな」

「もちろん!」

「っ……」


 即答。ここまでされて引き下がれる訳がない。

 差し伸べられた手を強く握りしめ、僕は言った。


「やろう。今度は不幸なんかじゃなく、幸運を掴み取ろう!」

「うん。それでこそ私の知ってるグレイくんだね」


 握手は固く結ばれた。

 かくして、人類史上最強のコンビが結成された。


「いや〜、悪霊なら退治できるかもってここまで来て良かった♪」

「そんな理由で来てたんだ……」



 ☆



 "死の峡谷"を後にして、僕たちはさっそくバハムートの討伐報酬を受け取ることにした。

 向かった先は冒険者ギルド。僕がクビになった支部ではなく、王国の首都に大きく構える本部の方だ。そこなら冒険者でなくとも報酬を受け取れるのである。


「バハムートの討伐って幾らになるんだろう。ご、5億G(ゴールド)とか貰えたりして……元の年収の500倍以上……」

「お、来たみたいだよグレイくん」


 核の鑑定を受付に頼んでから1時間。

 奥の部屋から、唖然とした表情を浮かべた受付嬢がやって来て言った。


「し、信じられません……ギルド本部が誇る鑑定士たちが調べた結果、全員がバハムートの核と断定しました……」

「おお! それは良かったです! で、報酬は幾らになるんですか!?」


 そう。本物なのは分かっている。食い気味に聞いてしまったが、ここからが本題だ。

 もし僕の取り分として1000万G(ゴールド)でも貰えてしまえば、かなり生活に余裕ができる。差し押さえられた分を計算してもお釣りがくるレベルだ。


 ゴクリと唾液を飲んで次の言葉を待つ。

 そして、


「100億です」

「ひゃ!!??!???!!!!?!!!!????」


 意識がとんだ。いや飛びかけた。

 なんとか持ち堪え、もう一度確認する。


「あの、えっと、その……100億って単位は……」

「もちろんG(ゴールド)ですよ? 人類が気まぐれで滅ぼされてしまうような脅威を討伐したのですから」


 なんで私より驚いてんだよ、といった呆れ顔の受付嬢。

 想定外だ。普通の生活を取り戻すつもりが、一生遊んで暮らせるレベルの金額が手に入ってしまった。


「本日お渡しできるのは現金1億G(ゴールド)と、残りと引き換えの金券となります。どうぞ」

「凄いサラッとくれるじゃん……」


 半ば放心状態のまま、アンナの方を見る。


「えっと、お金どうしようか。僕の取り分は1%でもいいくらいなんだけど」

「何言ってんの。報酬は等分だよ」

「と……!? 流石に申し訳ないって!」

「い〜の! 私もグレイくんに感謝してるんだから。この話はこれで終わり!」


 きっぱりと断るアンナ。

 そうこうしている内に話が広まったのか、野次馬たちが集まって来た。


「おい見ろよ。あいつらの渡された金券、100億だってよ」

「バハムートを倒したって本当か!?」

「いやそれは無いだろ。しかもあんな若い奴らに」


 羨望と疑いの目で見られている。比率は半々といったところか。

 ……面倒ごとは避けたいし早く抜け出してしまおう。


「とりあえずここ出ようか。アンナ」

「さんせ〜い! ……って、あれ誰?」


 現金が入ったバッグを受け取り出口まで来ると、今度は野次馬の1人の筋肉質な大男が立ち塞がってきた。

 その顔には見覚えがあり──。


「おっと、お前は先日クビになったグレイじゃねぇか。無能なくせに随分景気のいい話が聞こえてきたが」

「エディ……さん。どうしてここに」

「くく、報告をしにきただけだ。お前が辞める原因になった事件の後始末のな」


 僕たちの前に現れたのは、僕をギルドから追い出した張本人のエディ=クリードだった。

 嫌味ったらしく事件なんて言っているが、僕に罪を擦りつけたのは彼である。


「なにグレイくん。知り合い?」

「うん。この人はギルド支部長の……」

「へぇ〜、こいつ(・・・)がそうなんだ」


 と、アンナから笑顔が消え、凍りつくような視線でエディを見る。

 その豹変に気付いたのは僕だけか。


「お、嬢ちゃんは見ない顔だな。あんたを中心に話が盛り上がってるみてぇだが」

「まぁバハムートを倒したからですね」

「ほ〜ぅ、100%嘘だろうが上手くやったな。こんな無能は置いといてウチに来るかい?」

「結構です」

「あん?」


 即断して、じっと睨みながらアンナは出口に向かおうとする。しかしエディは道を譲らない。


「断るってんなら仕方ねぇ。この俺、元A(ランク)冒険者のエディ様が腕試しをしてやる」

「……なんで?」

「そりゃあ不正があっちゃいけねぇからよ。バハムートを倒したのなら相応の実力があるってことだ。だがもし嘘ついて金を巻き上げてんならギルドの人間として見過ごせねぇ」

「そんな! 僕たちは核の鑑定を……」

「無能は黙ってろ!!! 俺もそれなりの役職だからよ。勝ったら金は没収させてもらう」


 エディはニヤリと笑って言った。完全に僕たちの報酬を横取りするつもりである。

 当然、そんな横暴は許されるはずがない。しかしその場にいる誰も彼を止めることは出来なかった。


「まさか奴が来てたとは。あの子たちも運が悪い」

「腕っぷしだけはあるからな〜。あぁやって上り詰めたのさ。エディは」

「バハムートを倒したって話が本当でも、どうせ死にかけに遭遇したとかだろう。エディに目ぇ付けられたら終わりだ」


 周りがそう評価するのも分かる。

 元A(ランク)冒険者エディ。ギルド支部長に選ばれる程の実力者であり、今回のように喧嘩をふっかけ他人の手柄を奪う悪行で有名だ。毎回もっともらしい理由で絡むため、本人が自己申告でもしない限り裁きが下されることもない。


 だが忘れないで欲しい。彼が戦う予定なのは、S(ランク)冒険者も相手にならない強敵を倒した最強聖女である。


「はぁ……じゃあ私が相手をしてあげますよ」

「おいおい、俺は同時に来られても構わねぇぜ?」

「そーいうのいいから」

「あ゛?」


 アンナは心底つまらなそうに挑発している。が、その態度はエディを怒らせるには十分だった。


「調子に乗るなよガキ……この俺を誰だと思ってやがる!!!」

「えっと、何(ランク)の誰でしたっけ?」

「あ゛ぁ゛っ!!!!???」


 エディは完全にブチ切れた。

 拳に魔力を貯め、相手が少女であることも忘れ思い切り振りかぶった。


「粋がるな!!! テメェらなんざ束で来たって手も足も出ねぇんだよ!!!!!」

「ん、グレイくん下がってて」


 アンナは冷静に僕を庇うようにして立つ。そして、


 バキィィッッッッッッ!!!!!


 次の瞬間──大男の振るった腕は聖女に届くこともなく、空中で折れてしまった。


「……え、なん……は?????」

「どうしました? 私は手も足も(・・・・)出してないですよ」


 余裕そうに言うアンナの胸ポケットにある杖が、淡く光っているのが見える。恐らくあれが防御膜を展開し、全力で打ち付けられたエディの拳を粉砕したのだ。

 どうやらその衝撃は腕まで伝わっていたようで。


「俺の腕が……そんな、馬鹿な……!?」


 膝をついて狼狽(うろた)えるエディ。誰の目で見ても実力差は歴然だった。

 アンナは容赦なく追い詰めていく。


「次は私が攻撃する番ですね。あ、そういえばまだ聞いてなかった」

「ひっ……!! な、なにを……」

「私が勝ったら何してくれるんです? もちろん100億に見合ったものなんですよね」


 淡々と告げるアンナ。その目には、どこかで見たような怒りが現れていた。


「ふ、ふざけるな!!! こんな……こんな訳の分からない力で!」

「もういいや。私が決めます」

「あがががががががががが!!!」


 アンナはエディの胸ぐらを掴み持ち上げる。

 そこには"癒し"としての聖女は一切おらず、代わりに獲物を逃がさんとする意思のみがあった。


「聞きましたよ。あなたはグレイくんに罪を擦りつけて追放したんだとか」

「な、今更そんなこと……」

「そ ん な こ と ?」

「あがががががががががが!!!」

「あ、アンナ! その辺に……」

「グレイくんは黙ってて」

「えぇっ!?」


 ……もう誰が止めに入っても無駄なようだ。


「げほっ! げほっ! わ、分かった……こいつへの謝罪とギルドへの再加入だな!? だから……」

「違う」

「あがががががががががが!!!」


 もはや理不尽の域である。

 アンナは止まらない。


「あなたの罪を認め、今回の隠蔽工作を含め真実を本部に報告してください。その上での謝罪でしょう」

「そ、そんなことしたら俺は……!?」

「支部長の座を降ろされると? それが命より大事だと?」

「いや! その……分かった。条件を飲む……俺の負けだ」


 だらりと全身の力を抜き、エディは諦めたように言った。

 彼がここまで萎縮する理由は痛みもあるだろうが、1番はアンナの魔力圧だろう。魔物ほど敏感ではないにしろ、人間だって桁違いの魔力にあてられれば体力が削られる。


 解放されたエディは、ヘトヘトになりながら僕の前に来る。


「はぁ……はぁ……グレイ、その……すまなかった」

「えぇ。本当に今更ですよ」

「だな……お前の人脈は認めざるを得ないようだ……もし良かったら嬢ちゃんとウチに」

「結構です」

「え、あぁ……そう……」


 最後まで、エディはエディだった。アンナへの恐怖で仕方なく謝っているだけで、言葉の節々に『利益の優先』と『僕自身への軽蔑』を感じた。

 味方がどれだけ強くても、依然僕は"差別対象"なのだ。


 しかしエディ以外には違う見え方をしたようで。


「ねぇグレイくん」

「なに?」

「耳を傾けてみて。みんなの会話に」

「え……」


 いつもの調子に戻ったアンナに言われた通り、野次馬たちの話を聞いてみる。

 すると──。


「なんだあの娘の魔力は! バハムートを倒したというのも本当か!?」

「だがバハムートは滅多に人前に現れないだろう。結局、幸運なだけじゃないか?」

「待って! 隣の彼、魔物を引き寄せる体質って噂の子じゃない!?」

「なに? じゃあまさかあいつも(・・・・)……」

「マジかよ!? そんなの稼ぎ放題じゃねぇか!!! 羨ましいぜ!」


 なんと、そこには僕を侮辱している者は1人もおらず、むしろ体質に関する称賛の声が上がっていた。

 こんなことは今まで1度だってない。『不幸体質』の無能とレッテルを貼られ、囮役としても馬鹿にされる日々だった僕が……。


「なんで急に……」

「"結果"が伴ったからじゃないかな」

「結果……?」

「そう。グレイくんの力はさ、正しく使えばこんなにも人の心を動かせるんだよ。私の時みたいにねっ」


 アンナは得意げに言った。

 その言葉に深い意味(・・・・)が含まれていることは分かっている。けれど今はその正体を突き止めるでもなく、彼女が僕の為に動いてくれた事実にただ感謝をすることにした。


 これは後々聞いた話だが、エディは事件の真相と隠蔽工作の事実、さらに今までの悪行まで本部に申告したことでギルドをクビになったそうだ。

 そこまでしろと言った覚えはないが、アンナに脅されたのがよほど怖かったのだろう。



 ギルド本部を後にして、僕たちは街を歩く。


「ありがとう。アンナ」

「こちらこそだよ。さ〜て、沢山稼いだし飲みにでもいっちゃう?」


 1億G(ゴールド)が入ったカバンを持ち満足げなアンナ。

 そんな彼女に対して浮かんだ疑問を、そろそろ投げかけるべきだろうか。


「何悩んでんの? グレイくん」

「いや、その……色々とさ」


 僕が感じていた違和感。それはギルド本部でのアンナの態度だった。

 友人が貶されて怒る気持ちがあったのは分かる。それにしても、あの時の豹変ぶりは異常だった。


 昔のような穏やかさ、再会してからの陽気さとは別な"何か"である。


「ギルド本部でさ。どうしてアンナはあそこまで怒ってくれたの?」

「ん? それはね〜」


 ちゅっ、と頬に柔らかい感触。


「内緒♪」


 陽気な声とは裏腹に少し顔を赤らめて、アンナはそっぽを向いた。


「……え……え!!?」

「グレイくん」

「は、はいなんでしょう!」

「やっぱり夢は持つべきだよ。普通の生活なんかすっとばして、この世界で1番の"大富豪"とかさ」


 それは聞き覚えのある夢だった。

 大富豪とは、僕が昔持っていた夢。今はもう完全に諦めた気でいた過去の目標だった。


 ニコリと笑って聖女は言う。


「私の思いは、君の夢が叶った時に教えるね♪」



 こうして僕は、再会した幼馴染とかつての夢を追う旅に出るのだった。

 この先、僕は知ることになる。『不幸体質』という力の真実とアンナの思い、そして"死の峡谷"での再会が偶然ではなかった(・・・・・・・・)ことを。

【大切なお話】


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