らぶおふだ
「ね、あれって……」
「アレ、だよね……?」
ひそひそと囁き合う女子の声が聞こえる。
私はそれをひと睨みして黙らせると、ビリッと下駄箱の扉に貼ってあったまるでおふだのようなソレを剥いだ。
そして剥いだ時とは打って変わって丁寧に鞄に入れると、自分の教室に向かうのだった。
私、三浦遥は、中学二年生の女子だ。
めんどくさがりなので、前髪も背中まである後ろ髪もぱっつんにしていて、染めたことがなく真っ黒。
スカートも指定通り、可愛い文房具の持ち込みにも興味無し。
そんななりなので、流行を追う女子からは少し遠巻きにされている。
多分、知らんけど。
今朝のアレ、人にはみみずの這ったような文字で奇異に映ったのだろうけれど、私には誰の仕業でなんと書いてあるものなのかがわかっていた。
放課後、ちょっと早めに教室を出た私は足早に思いあたった区画へと向かった。
その人物はディスレクシアなので支援級にいる。
他の子を驚かさないよう、出てくるまで廊下で静かに待つ。
何人か出てきた後、最後に見知った相手が出てきた。
「カイト」
「うわっ! ど、どーしたのはるかちゃん……」
真っ赤になりながらもどうにか平静を保とうとして失敗した幼馴染は、しどろもどろに私の名前を呼んだ。
可愛い奴め。
私は顎でこっちこいと示しながら、人が来ない方へと連れていく。
カイトは大人しくついてきていたが、ちょっとだけ泣きそうに見えた。
この辺でいいかな。
私は覚悟を決めると、後ろを向いたままカイトに話しかける。
「なんであんなことしたの」
「え、そ、その……少女漫画で、見て?」
「どう見えるかって、考えた?」
「……か、考えてなかった」
しょぼくれた声がする。
違う。
私は振り返ると壁に両手を突いてカイトを囲い込んだ。
「私はっ、カイトが変な目で見られるのがやな訳。わかる? 私はどーだっていいけど、あんたの良さをわかってもらえないのがやなの。わかってくれる子は、勿論いるけど、全員じゃない。大切なひとは守りたい! ……何で、下駄箱の扉、だったの」
「はるかちゃんが、僕のものだってなってくれるなら、その瞬間をみんなに知らせ、たくて」
その小さな声は、はるかちゃんが僕が傷つく心配するとは思ってなくてごめんね、と続いた。
「謝んなくて、いい。私が周りに、勝手に怒ってるだけだから」
途端、カイトの顔がぱぁぁと輝いた。
可愛い奴め。
私はそのまま高い場所にある彼の唇すれすれの位置に自分のソレを押し当て、離れた。
お読みいただき、ありがとうございました。
※ ディスレクシアは、学習障害のひとつです。
詳しくは国立成育医療研究センターホームページ等でお調べいただけたら、と思っております。