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落陽の美姫編─2


廃れた村中を行く燻んだ灰の髪と髭を生やした男。

男の名はレガリア・ドランバルト。怪物退治を生業とする通称"ドラゴニア"だ。


威風堂々とした佇まいに面妖な風貌は村人からはよく思われていないようだった。


「見ろよ、ドラゴニアだ。 化物が化物退治とは滑稽だな」

「チっ、酒が不味くなる。 とっとと失せろ怪物」

「見ちゃダメ! あの眼は呪いの目なのよ!」

「穢れた亜人風情が。ドラゴニアでなければ引っ捕えて拷問する所だ」


村人や衛兵からの陰口や直接の暴言を意に介さず、レガリアは依頼主の老婆ケイチャン・ミッシェルの元を訪れた。


「孫のブルックは絶命していた。護衛も無く湿地帯へ薬草を取りに行ったのが失敗だったな。ブルックはゲイビルに襲われて食われていたよ。 一応、身元を確認できる物を持ってきた」


端的に告げた男は、小竜(ワイバーン)の皮から作ったポシェットに手を入れると金のネックレスを取り出して老婆に渡す。


「ああ、そんな。 どうして、、こんな。 あんなにいい子が死ぬなんて」


(まなじり)から雫を滴らせて嗚咽を吐くように震えた声を出す老婆を見てレガリアは肩を竦める。


「善悪は怪物共に関係ない。 ただいるから襲う、腹が減ったから食う、それだけだ。 恨むのなら暁暗の天変を恨むんだな」


「貴方の、、、言う通りね。 全てはあの日から狂ってしまった。 怪物が我が物顔でのさばる暗黒の世。 この村の子供達も、何人も神隠しに遭っているわ。 何か関係があると思うかしらドラゴニアさん」


老婆は悲しさを紛らわせるように言の葉を紡ぎ、ドラゴニア─レガリアに問う。


「俺の見解などどうでもいいだろう。 依頼外の要求なら追加報酬を望むが、それでもいいなら述べようか?」


レガリアは貧相な家を見渡して、大した物がないだろうと憶測を立てる。


「......いえ、いいわ。 これが報酬よ。 受け取ったのなら出て行ってちょうだい」


古びた布袋に入れられた銀貨の枚数を確認すると、レガリアはそれを懐にしまい古びた家屋を後にする。 残された老婆はネックレスを抱きながら咽び泣いていたが、レガリアは興味が無いように扉を閉めると、違う村を目指して馬を繰り出した。





             ○





漆黒の愛馬クラウンに跨り野を駆ける男、ドラゴニア─レガリアは馬上で周囲を散見しながら当てもなく進む。

一所に寄る辺を持たず放浪するレガリアにとって、視界に映った村や街は休憩ポイントであり稼ぎ場だ。 だからレガリアは村や街を探し、転々としながら当てのない旅をしていた。


「クラウン、止まれ」


ふいにレガリアはクラウンの手綱を強く引き停止させるとその場に降りて馬を楔で縫いとめた。


「少し待っていなさい」


剣呑な雰囲気を察したクラウンがその場でおとなしくするのを見届けたレガリアは一度クラウンの頭を撫でてやると、100メートル程先にある天幕の群れへと岩陰や木を伝いながら迫った。


「盗賊か。 数は、、、五人。 このご時世によくやるものだ。 いや、このご時世だからこそやらざるを得なかったわけか」


戦力の分析をした男は背に携える弓を手に取ると、バジリスクの毒を矢に塗りたくり弦を力一杯に引き絞る。 みしみしと軋む木の素材でできた弓は剛の力を一点に集中して対象の背部を貫いた。


「ぐぁッ、いってぇ。 、、、何だよ、これ」


悲鳴を上げる一人の盗賊。その背部に刺さった矢は猛毒で、刺さった側からグジュグジュと皮膚が溶けていき、やがて毒は全身を巡りまばらに身体を溶かす。 バジリスクがAランクの化物に認定されている所以はこの猛毒故だ。


「敵襲だ! 武器を取れ!」


「クソ! どこにいやがる、出てこい!」


手近にある武器を手に取り、怒声を上げる盗賊達は四人が背を預け合う形で警戒をする。

しかしそれは愚策だった。


レガリアが岩陰から何かを放る。

それは特殊調合した対人用に作られた爆弾だ。

盗賊達が気付いた時には爆弾は既に頭上にあり、何もかもが手遅れだった。


轟音が鳴り響き大気が震える。

煙をあげるその場から五メートル四方に飛び散ったバラバラの肉体が血を撒き散らし、その場は地獄絵図と化した。


「上手くいって良かった。 死体は屍喰鬼や他の化物が来ないように燃やすとして、その前に奪える物を奪おう」


レガリアは眉一つ動かさず淡々と死体から物を剥ぎ取る。 こんな乾ききった暗黒の世だ、物品は潤沢にあって困る物ではない。


死体からの剥ぎ取りを終えたレガリアは、肉片を一箇所に集めて燃やしてから、今度は天幕を物色した。


「ほう、いい酒を持ってるじゃないか」


レガリアは偶々見つけた黄金色のブランデーを自前の容器に移すと満足した様子で、それを少量口に含み舌鼓を打つ。


それからしばらく物色し。


「これは古文書か。 どれ、内容は......」


一通り物色を終えたレガリアは最後に、机に置かれた薄汚れた装丁の古文書を手に取るとそれを捲り出した。


「ほう、呪われた秘宝オブルクルージュについての文献か」


やがて古文書に目を通し終わった男は古文書も死体と一緒に燃やすと、盗賊の拠点を背に愛馬クラウンの元へと戻った。

レガリアの趣味の一つは知識の蒐集だ。広い世界を旅してきた彼の知識は今や膨大であろう。


「さあ、行くぞクラウン」


レガリアはクラウンに跨り再び広い世界を駆ける。 彼の目的─暁暗の天変は誰が主体で何故引き起こしたのかを知る為に。



そして次の村へと着いたレガリアは、何か良くない空気がこの村に纏わりついている事を竜の眼で捉えた。







             ○



<エルモンド王の魔鏡>


──諸君らの中に魔性が巣食うならば、この魔鏡オブルクルージュは内なる魔を世界に現出させるだろう。 清い心の持ち主こそが、我が伴侶足り得るのだ


王の願いを叶える為、魔鏡を作った女魔術師は、エルモンド王の傍でクスリと嘲笑を浮かべて思った。


──人間の心こそ、この世で最も醜い化物だと言うのに、それを暴こうだなんて愚かな人ね



王は伴侶となる候補者達に鏡を覗くように命令した。 その結果、城内は醜い化物で溢れかえり、王でさえも化物に成り果て、その国は滅んだと言う。




   ──著者─ベリアの魔術師オルガン


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