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天使再臨MICHAEL・RENATUS  作者: 宮本シグレ
1/3

天使と悪魔と幼馴染の自己像幻視

【ケンジ】は無力だった。

黄金の髪、銀色の鉄鎧、騎士の姿をした少女が、

じろりと、腰を抜かした彼を睨んだ。



******


ケンジの通う高校から一駅離れた街、その路地裏。

【ミヤキ】は柄の悪い男達に暴力を振っていた。

頭に金属やコンクリートをぶつけた、生々しい音。

血だらけの男達、頭から溢れる紅い液体が灰色の地面を染めていく。

残っていた輩が壊れたパイプ椅子の管、その鋭利な先が彼女の身体に

刺さらなかった。


最後に残った男の視界は反転し、ぐるりと回転。

身体が目の前で横になっている。

そして、頬が地面に着いた。

自分が倒れていることを悟る。違和感。



どうして自身の視界に、自分の服を着た身体があるのか。


自分の首と身体が離れている。


そして、学生らしい皮靴が血だまりを踏みながら、視界を遮る。


「……ふ、ふむな」


既に彼女は、地面に転がった男の頭を踏んでいた。


重体の彼らの血を、彼女の黒い影が拡大し、覆う。



******



令和X年。

平成よりも、つまらないことで因縁をふっかけてくる輩は減った


彼女の歩んでいた街は治安が悪く、夕方になれば彼女を家出した娘と勘違いして声をかけてもおかしくない者達が跋扈する。


「わ、私、こ、ここ、ころしちゃったの?」


「違う、この身体との融合状態を確認しただけだ」


「首、はねてた、よね?」


「接合した」


「若干間違ってたよ!絡まれた時と違う人もいたハズ!」


「覚えてない」


彼女の口から、二種類の口調。

独り言のような痛々しい会話をしながら、電飾の灯らない門を出た。



******



7月。

その日は久しぶりの登校日だった。

ミヤキは一人で通学路を歩んでいると、後から【ケンジ】が追い付いてくる。

息が荒い、大粒の汗を髪の先から垂らしている。

健康的か不健康な汗かはともかく、彼女にとっては不衛生さやだらしなさを感じた。

「どうして置いていくんだよ」

部活動も実質無くなり、家にこもり切りになった彼の体は、怠惰な丸みを帯びていた。

「一緒に通学したら変な話題になるでしょ」

「……」

その言葉に言い返せなくなるケンジ。

通学路、最後の一本道で合流する周囲の生徒は大きく分けて二種類。

登校日のために髪や肌を整えて、体型は春と変わらない者達。

誰とも会わなくていい、通学時間を省きリモートで授業に出られることから、不健康な生活にはまっていく者達。

ケンジは後者で、ミヤキは前者である。

「ご、ごめん。明日から、頑張ってみる」

申し訳なさそうな顔をしたケンジに振り返ることなく、ミヤキは校門をくぐった。



******


授業が落ち着き15時頃。

天気がスマートフォンアプリの予報と外れ、空が灰色に染まっていた。


クラスは傘をわすれたことに愚痴を言う者達で溢れていく中で、

激しい光と大きな轟音、そして、爆発が学校施設を崩壊。


ケンジは意識を失い、目を覚ました時には瓦礫の中だった。


「いてて……ッ」


驚きと恐怖の中。

身体を強く打った彼に、動くたびに筋肉痛のような鈍い痺れが襲う。

外からの轟音がボロボロになった教室を揺らす。

朝、机に置かれていた真新しいパソコンやタブレットは粉々で、ガラスやプラスチックの破片が刺さった者達。

意識した瞬間、強い吐き気が、首から口へと。

ぐっとこらえ、飲み込み。重い足で廊下へ出る。


校門へと近い校舎を繋ぐ渡り廊下は絶たれており、階段を使い、降りた。


「うっ……」


何度目だろう、酷くなっていく足の痛み。

己の重い身体が、枷となっていた。


徐々に這うように校舎から抜け出した先の校庭には、二つのシルエットがあった。


「!?」


繰り広げられる【戦闘】。

銀色の鎧を纏い、青白く光る大剣を振るう黄金の髪の女と、

複数の武器を瞬時に作り上げ互角に彼女と渡り合う黒い怪人。


「『はあああああ!』」


攻勢の彼女から放たれる重なる声の正体。

ケンジはすぐに気付いた。

「ミヤキ、なのか?」


銀色の大剣から吹き出す光が強まり、彼女は怪人を真っ二つに割いた。



******


ケンジが他の生徒とは違い無事だったのは偶然でも脂肪の分厚さからでもない。


ミヤキが天井から降り注ぐ瓦礫や窓割れて飛び散るガラスから庇ったからだ。


ミヤキ自身でも、どうかしている。と考えた。

仲の良い幼馴染だった。

思春期か、素直になれないのか、変わっていく発言や態度に嫌いになる瞬間があった。

すれ違いをした日もある。


今は、最終的には、嫌いと言えば早い。


重く強い衝撃が身体中を叩く、脇腹に違和感があり、力をいれようとすれば痛みが走り、

口からぼたぼたと血を吐き出した。


こんなことをしてまで庇う価値は彼には無い。

それでも、どこかで、信じていたのだろう。

「ケンジ君、大好き」

過去の自分が抱いていた想いを。


ミヤキは命を落とし、ケンジもまた命を落とす瞬間。


『【この男】をかばっても無駄だ、いずれ【ヤツ】がここ一帯を吸収していまえば周囲の命は無い』


『【私】にその身体を貸せ【ミヤキ】』


『【ヤツ】を葬れば、私が元通りに出来る』


頷いた時には、彼女は自分の身体に突き刺さったパイプを抜き出し、剣に変え、

教室から飛び立った。


ミヤキの姿は変わり、そのエネルギーに触発されたケンジが目を覚ますのは、すぐ後のこと。




******



身体が軽い、当然だった。

ミヤキの身体は既に別の存在に掌握されており、ただ目の前の怪人の奇怪な顔や、とげとげしい身体に視線が泳ごうとしても、その無意識な恐怖に反して、敵の攻撃の線を視界は追い、全身を使い、受け流す。

そして、大剣から溢れる炎が的確に敵の鎧を焼いた。

攻めと守り、ついていくだけで精一杯になる。


重い金属音が軽快なリズムで繰り返され、爆風で押し合う。


『しまった、人がいる』


「!?」


ケンジだ。

生きていることに彼女は安堵するも、敵の攻撃に巻き込まれる前に、急いで倒すことに意識切り替える。

「『私と意識を合わせろ』」


既に身体を支配されている状態で、意識を合わせるという意味不明な指示に従い、

ミヤキは、【倒す】という意識を集中させた。


剣に重さを感じれば、大剣にまとう青白い炎のような光が激しくなる。

振り下ろした瞬間、目の前の敵は数メートル先へ飛び、斬り裂かれた。


『協力してくれたお陰で、私の力を攻撃の方へ特化させることが出来た』


「み、ミヤキ!ミヤキだよな!?」


ケンジの声が近づき、振り返る。


そして【ミヤキ】は「ふっ」と笑いながら、ケンジを跳ねのける。


「ぐあッ!」


情けなく地面へと転がるケンジは、痛みに耐えて起き上がろうとするも、


「残念ながら、ミヤキは死んだよ」


その言葉、言葉遣いに彼は衝撃を受け、立ち上がろうとした足腰から力が抜けてしまう。


「?????」


「ミヤキはお前をかばって死んだんだ」


「お、俺を?!」


次々と明らかになる情報に脳が追い付かないでいた。


「そして、私は【ミカエル】。この女の体は先ほど頂いた」


その名前は、天使を意味する名前、しかし、言っていることは悪魔のように思える。


「……ミヤキを返せ!!」


彼は【ミカエル】を睨むも、その姿は情けなく、涙目の顔だ。


「返すことは出来る、だが、彼女は私の生命維持を失い、数分で死ぬだろうな?」


「……そ、そんな!?嘘だ!」


ケンジは校庭の砂を無意識に握り潰し、歯を剥き出しにする程の理不尽に耐えようとする。


「私が現に力を使い、無理矢理電気エネルギーで心臓や脳に命令を与え、出血を抑え、細胞の再構築のための膜を張っている。ここまで説明すれば納得か?」


ポカンと口を開き始めるケンジ。

その怪我や傷、血は、自分をかばったことが原因だと、

信じれば信じる程、目の前が真っ暗になりそうな、絶望の瞳。


空も同じ様な黒で、爆風の煙からその薄暗さは増し、雨が降り始める。


「お前がいれば、ミヤキの身体はもとに戻るのか?」

陸にあがった人魚のように、両腕で這い、すがる彼。


「私はこの身体を使い、お前達を襲う異形と戦い続ける」

「死ぬことはないだろうが、お前が望む結果にはならない」


雷鳴が脳を揺らす。


「……もう、ミヤキは、いないんだな」


ずぶ濡れの制服、泥のついたズボン。

前髪は視界を隠す程の顔にはりついて、

それを手でどけようとする気力さえ湧かなくなった。


『大丈夫』


「!?」


『私はここにいるよ』


手が触れる。


その言葉が嘘か本当か、彼には分かった。

この声は確かに、ミヤキの声だと。


顔に張り付いた髪の隙間、しっかりと目を開けば、まつ毛についた雨の一滴が染みる。


神聖な黄金の髪はまるで天使のようで、その輪郭や目は、彼がよく知る少女の顔。


鎧が消え、黄金の髪から、ミヤキの黒い髪へと戻る最中。


「絶対に、俺は、君を奪い返す」


『明日からか?』


まるでケンジと会話した彼女の記憶から読み取ったかのような趣味の悪い言葉。

一瞬だけギラギラとした異質な目で彼に囁く。


「……今からでもさ」


破れた制服、露出した肌とは違う、異質な【膜】


「これが【お前】なんだろ?」


『!?』


手を伸ばす。


『その止血膜を外せば、彼女は再び激しい出血の中で、命を落とす』


「……お前の力で無理矢理生かされるくらいなら、俺の手で……」


狂気の言葉。震える唇と手、曇った瞳と、泥で黒くなった爪先。


泥まみれの手を【ミカエル】は握り、止める。


『チャンスはいくらでもある』

『この傷が癒えたあとに、何度でも私に挑めばいい』

真っすぐな瞳。そしてニヤリと白い歯を出して笑う【彼女】の顔は、

思わずキスが出来るくらいに、あまりにも近すぎた。


一つの女性の、二つの顔のギャップ。


単純な、情報のギャップとこれまでの疲労、寒さとぬくもりに、脳がショートし、

眩暈の中で意識が沈む。


ミカエルの力で再生される現実世界へと、彼は戻っていく。


******



翌朝、二日目の登校日、ミヤキとケンジの二人は手を繋いで学校へと向かう。


『え、あの二人仲悪くなかった?』


『さ、さあ』


「やれやれ」


ミヤキ、もといミカエルは呆れていた。


彼がどこまで記憶しているのか察してはいるが、まさか最初の一手がこういったアピールだとは、予想外である。


「強くなる特訓はまだ先か」


******



******


そして時は戻り、治安の悪い区を抜けた帰り道。


「し、心配したんだぞ!傷口が開くようなことしてたんじゃないのかって!」


ここら一帯を探し回っていたことが想像できる自転車のタイヤの摩耗度と、疲労状態。


「大丈夫、無傷だ」


「良かった……って、そういうことはどっかで暴れたってことだな!?てか、なに笑ってんだよ」


「うふふ」


「えっ…………」



一瞬のミヤキの声、顔に、熱の入ったケンジは、今朝までの自分を振り返り、

それが彼女にも伝わっていることの謎の羞恥心に襲われるのだった。



『大丈夫だよ、ミヤキ』


あの真剣な声とまなざしを、ミヤキはよく知っている。




すれ違いをしていた二人のミカエルによって繋がれた関係



いずれあるべき形に戻ることを信じて。




昨今の流行や自分がはまっている内容を練りこんでみたら「なんだこれ?」という結果になりました。


展開がバラバラで読みにくいと思いますがご容赦ください。

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