レッスン6『冴えない俺がバズったら』
ケンタ、覚醒。
俺はふと市川リンのことを思い出した。彼女は一緒にダンスをしよう! と言ってくれた。
そうだ、きっかけを作ってくれたダンスを利用して他の女子とこんなことをしているのを彼女が知ったら!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
俺は咆哮により理性を取り戻す。
抜け出そうとしたその時――
茂みから顔を出すと彼女が友達と共に参拝に来ているじゃないか!
こんな偶然ってありえるのか。
未だ発情した葵さんが俺の股間に吸い付いてくる。くそっ……! タコかよコイツ!
こうなったら、俺がやるしかない。
ポケットからスマホを取り出し、某ダンスアプリを起動する。
某ダンスアプリはピコンッと軽快な音を奏でたかというと俺を音楽の世界へとみちびいてくれた。
「今日から俺は『見る専』ではない……」
俺は撮影ボタンをタップした。曲は――彼女を圧巻するにはこれしかない!
「ヨハン・ゼバスティアン・バッハで『G線上のアリア』!」
歪な形であるが音楽の父と言える全てを司る動きで彼女を圧倒した。
先程まで張り付いていた彼女は涙を流して倒れている。
チャンスだ! 一気に畳みかけろ!
「ベートーベンで『エリーゼのために』!」
彼が死後に残した遺作の力を思い知れ!
俺はきっと彼が想いを寄せたテレーゼ・マルファッティを思い浮かべてダンスを踊った!
二つの曲を踊り終わると「投稿」をする。
流動性が激しい世の中……その中で彼らの楽曲が未だに人気なのは計り知れない魔力があるからだ。
ピロンっと音が鳴る。
はやい、もう通知が来たのか。なになに……『感動しました。あなたは救世主だ』って……すごいコメントだな……
ピロンピロンピロン!
俺のスマホが鳴り止まないだと! まるで彼らが演奏し終えたときの喝采のように!
「いいね百万……たった五分で!」
これは、俺の普通の学校生活が終わる瞬間だった。