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99「アジト」

ヴェールズの街を南に見やる砂漠地帯。

アラジンは砂漠に浮かぶアジトを見て叫んだ。


「帰って来た、我が故郷よ!」


アラジンは両手を上に掲げて腹の底から笑う。

それは聖女と魔水晶の奪取に成功したからだけではない。

これから果たすサンドリア王都の奪取が本来の目的なのだ。

もともとブレックスに聖女と魔水晶の奪取を持ちかけたのはブレックスに近づくため。

力に溺れるブレックスなら聖女と言う新たな力は手が伸びるほど欲しがると考えたからだ。

それに敵対するヴェズベルト王国の力を削ぐことが出来る。

アラジンの思惑通りブレックスは応じた。

そしてアラジンを信じて命を下した。

後は聖女と魔水晶を引き渡して信頼を勝ちとるだけだ。


「何がそんなにおかしいのよ?」

「おかしい?おかしいのではない。嬉しいのだ」

「何よそれ」


ひとり悦に浸っているアラジンを冷ややかな目で見つめながらプリムは舌打ちした。

プリムの行く末はアラジンに握られていると言っても過言でない。

ブレックスには引き渡すがブレックスでは聖女を操れない。

聖女という新たなな力を使うには、それを操るだけの力量が必要なのだ。

経験の少ないブレックスでは浅知恵ばかりで役に立たない。

アラジンはそれを見越して聖女と魔水晶の奪取を提案したのだ。

全てはサンドリア王国を乗っ取るため。

プリムは、そのための駒でしかないのだ。


「お前は選ばれた者だ。私をサンドリア国王にするためのな」

「私は何もしないから」

「何もしなくていい。ただ私の命に従っていればいいのだ」


そう言うとアラジンはプリムを連れてアジトへ足を向けた。

アジトの前では盗賊団達が整列をして出迎える。

それはどこぞの騎士団を彷彿させるような鮮やかさだ。

盗賊団にはアラジンに忠誠を誓った者しかいない。

盗賊団と言う不安定な集団には何より統率力が必要だ。

アラジンに命を預ける覚悟のある者しか仲間にしない。

その上でアラジンは部下達に報酬を与える。

よき働きをした者には、この上の無い褒美と称賛を送る。

一方で裏切り者は絶対に許さない。

裏切り者は部下達の前で首を刎ね処刑をする徹底ぶり。

それは同時に他の部下達に恐怖心を植え付ける目的があるのだ。

飴と鞭の使い方が巧みなのがアラジンの特徴だ。

いつ裏切りにあうのか悩んでいるリーダーにはそう言う覚悟が足りないのだ。


「準備はどうだ?」

「ご命令通りに整っております」

「さすがはドミトスだな」


アラジンが肩に手を置いて労うとドミトスは畏まって敬礼をする。


「それが例の?」

「そうだ。まずはみんなに紹介をしよう」

「はっ!」


ドミトスは素早くに横にハケてアラジンに道を開ける。

さすがはアラジンの片腕と呼ばれるだけのことはある。

プリムはドミトスに引っ張られながらアラジンの後を追った。





アジトの地下に広がる大広間に再結成した盗賊団達が集まっている。

先のタクト達との戦いで盗賊団は半数近く失われてしまったが、再びアラジンが声をかけると盗賊達が集まった。

再結成された盗賊団達は以前の盗賊団よりもアラジンに忠実だ。

それは盗賊達を時間をかけて教育したからだ。

今度の目標はサンドリア王国の奪取。

そのためにはゴロツキの寄せ集めの盗賊団では敵わない。

サンドリア王国の騎士団に対抗できるだけの力を持っていないといなければならないからだ。


「お前達に報告しておきたいことがある」


アラジンが一声かけると盗賊団は固唾を飲み込み静まり返る。

アラジンは横にいたドミトスに合図を送り、プリムを壇上にあげる。


「では、皆に紹介しよう。こいつが聖女のプリムだ。ヴェズベルト王国より奪って来た。サンドリア王国奪取のカギとなる要人だ」


アラジンが紹介をすると会場から割れんばかりの歓声が湧き起る。

盗賊団は武器を掲げて歓喜の雄たけびを上げる。

それは来るサンドリア王国の奪取に向けた決意の表れだった。


「先のヴェールズ奪取では苦虫を噛み潰す結果になったが、今回は違う。聖女と魔水晶は我らの手にあるのだ。この新たなる力の前に立ちはだかる者は全て抹殺する。それはブレックスもしかりだ」


アラジンの言葉に盗賊団は色めき立つ。

ブレックスを狩るのは俺だと口々に発する。


「決戦の時は近い。お前達の活躍を期待しているぞ」


会場から割れんばかりのアラジンコールが巻き起こる。

アラジンはその声を応えながら会場を後にする。

アラジンがその場にいなくなっても会場のボルテージは最高潮になっていた。





「ドミトス。よく、ここまで仕上げてくれたな。私は嬉しいぞ」

「これもみな新たなる王のためですから」

「フフフ。食えない奴だ」


アラジンは椅子に腰をかけながらグラスの酒をあおる。


「まあ、聖女と魔水晶を奪取したからと言って全てが成功した訳ではない」

「と、言いますと?」

「サンドリア王国の第一騎士団長クロード・バーンの存在が厄介だ。私のことを懐疑的に捉えている。まあ、ブレックスには逆らえないのだから問題ないのだが」

「それでも用心に越したことはありません」


アラジンは難しそうな顔を浮かべて考え込む。

クロードはアラジンがヴェールズを狙っていた時から敵対していた人物だ。

盗賊を目の敵にしていて盗賊を捉えたら迷わずに処刑する。

それはクロードが幼き頃、家に盗賊団が押し寄せて来て家族を惨殺していったからだ。

クロードは運よくクローゼットの奥に隠れていて殺されずにすんだ。

その後、サンドリア王国のとある領主に引き取られて騎士として育てられた。

根っからの騎士団育ちのクロードからしたら盗賊上がりのアラジンは受け入れることが出来ない。

アラジンがブレックスに近づくために持ち上げた聖女奪取作戦にも懐疑的に捉えていた。

ブレックスの手前、大きく反対することはなかったが、アラジンに疑いだけは持ち続けている。

その証拠に部下達にアラジンを見張らせるように指示を出した。

今もアジトの外ではクロードの息のかかった調査部隊が潜んでいる。


「クロードには偽の情報を手にしてもらおう」


アラジンの考えはこうだ。

聖女と魔水晶は速やかにブレックスに引渡し報酬金をもらって立ち去る。

しかし、それだけでは疑われてしまうので報酬金の値を釣り上げる。

法外な金銭を要求すれば必然と金に視点が集まる。

あくまで金が目当てに装えばクロードの目を誤魔化せるだろう。

何せ盗賊団なのだ。

金品の奪取が使命の様なもの。

それに加え盗賊団達には行商人達を襲撃してもらって金品の奪取をしてもらう。

盗賊団に行商人達を襲撃させれば嫌でもクロードの視線が集まる。

何せ国の治安が悪くなれば統治に支障を来すことになるからな。

クロードはこぞって鎮火を目指すだろう。

クロードの意識を他に向けさせればアラジンの意図も紛らわせることが出来る。


「しかし、それでは聖女がそのままになりますが」

「問題ない。ブレックスに聖女は扱えない。必ず私を頼って来るさ」


ブレックスは聖女を戦場へ向けるだろうと言うことはアラジンも予想していた。

戦場で聖女の力を試させて吟味するのだ。

もちろん相手はヴェズベルト王国になるだろう。

先のサウスブルーの戦いの借りを返すためにな。


「全てはアラジン様の思惑通りに」

「そう言うことだ」


アラジンは不敵な笑みを浮かべながら酒を煽った。





その頃、プリムは地下牢の中にいた。

牢獄の格子から月明かりが漏れている。

プリムは窓から夜空を見やりながら呟いた。


「こんなところまで来ちゃった。これから私どうなるのかな……」


考えても不安が募るばかり。

逃げ出そうにも逃げるすべがない。

隠しアイテムは全て取られちゃったから。

靴に仕込んだナイフもネックレスに仕込んだのこぎりも。

同じ盗賊であるアラジンにはすぐにわかったことなのだ。

今は裸足で白いローブを纏っているだけ。

もと着ていた服まで捨てられてしまった。

ジャリジャリする足の裏が冷たい。

ところどころ擦り切れて赤くなっている。

このところお風呂にも入っていないから髪は油まみれ。

気持ち悪いと言うのが正直なところだ。

これじゃあ街に彷徨っている乞食といっしょじゃない。

それでもプリムは人間らしさを大切にしていた。


「私がここでくじけちゃったら私を助けられない」


自分を助けるのは自分しかいないことを痛感していた。

すると、牢番が食事を運んで来た。

鉄の皿に乗っていたのはパン一切れと何かのスープ。

プリムは貪るようにパンに食らいついた。

その様子を見て牢番はニタニタと笑っていたが気にも止めなかった。

食事にありつけたのは2日ぶりだったからだ。

サンドリア王国に入国してからは砂漠地帯を越えなければならなかったのでほとんど食事にありつけなかった。

それはアラジンも同じで空腹を干し肉で凌いでいた。

まあ、盗賊なんてしていたら食事にありつけないことはあたり前のようにある。

だから、少しは慣れていた。


お腹がいっぱいになることはなかったが、それでもお腹は膨れた。

次の食事にありつけるのは何時だろうか。

食事はちゃんと食べられるのだろうか。

投獄されていると、そのことしか意識が向かなかった。


プリムは床に無造作に敷かれたゴザの上に寝ころぶ。

少し湿り気のある冷たい床だけど土の匂いが微かにした。

牢獄の隅にはネズミ達が食事を待っている。

プリムが死ぬのを待つかのようにチューチューと鳴いて。


「明日は何があるのかな」


何もないことが一番いいのだが、今では何かを期待している。

こんな冷たい牢獄に閉じ込められているよりも外に出られた方がいいと。

静に目を閉じれば瞼の裏に故郷が浮かぶ。

お母さんといっしょに畑を耕して、お弁当を食べてのんびり暮らしていた日々を。

今では懐かしい想い出でしかない。

お母さんの顔を思い浮かべたら頬に熱いものが伝うものを覚えた。


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