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98「強行突破」

私達はグラハムからの使者を装い国境までやって来た。

国境には相変わらず足止めされている行商人達で溢れている。

鮮度が命の生モノを運んでいる行商人達は悲鳴を上げていた。


「頼むよ。通してくれ。このままじゃ荷物が腐ってしまう」

「ダメだ。これはマクミニエル国王の指示なのだ。帰った、帰った」


アルタイル王国の国境警備隊は行商人達を追い払う。

それでも行商人達は縋りつくように頼み込んでいた。


「煩い奴らめ。歯向かうならば国家反逆罪として拘束するぞ!」


国境警備隊の暴言に行商人達は怯んで離れる。


「国家反逆罪とは大きく出たな」

「それだけ追い詰められているのだろう。マクミニエル国王は」

「それよりこんなので本当にうまく行くの?」

「メダルがある限り問題ない。それらしく振る舞うんだぞ」


マリア―ヌは背筋を伸ばし国境警備隊の所まで歩いて行く。


「私はグルンベルグ王国の使者だ。国王の命によりここを通りたい」

「グルンベルグの使者だと?証拠を見せろ」


マリア―ヌは私に合図をしてメダルを差し出させる。


「これでもか?」

「確かに、このメダルはグルンベルグ王国の紋章。しかし、グルンベルグ王国から使者が来るなんて聞いていないぞ。お前達、聞いているか?」


国境警備隊に尋ねてみるが、みんな首を横に振る。

そして私達を舐め回すように見ながら難しい顔を浮かべる。

バレタのか?

すると、マリア―ヌが国境警備隊にハッタリをかました。


「私達は極秘の任務でアルタイル王国へやって来た。だから、一部の人間にしか知らされていない。このことはマクミニエル国王も承知である」

「マクミニエル国王も……」


国境警備隊がざわつきはじめる。

国王の名前を出されたのなら疑う余地もないだろう。

下手に歯向かいでもしたら自分の首が飛びかねない。

一階の警備兵には、これくらいのハッタリが丁度いい。

国境警備隊は動揺していたが、しずしずと検問の扉を開けた。


「お前達の通行を許可する。行け」

「そうしてくれると助かる。このことはダゼル国王にも報告しておく。国境警備隊の配慮が素晴らしかったとな」


私は馬車を走らせて検問を通り抜ける。

念のためガルド達には荷台の荷物の中に隠れてもらっていた。

ガルドはハッタリが出来ないし、プリシアは子供過ぎるしで。

エリザとルーンは荷台に残ってもらっていた。

あいにくマリア―ヌのハッタリが通ったので荷物検査もされずに済んだのだが。


馬車は国境線を越えてグルンベルグ王国の検問までやって来た。

すると、グルンベルグ王国の国境警備隊が前に立ち塞がる。


「止まれ!今はアルタイル王国は国境を封鎖しているはずだぞ」

「私達はグルンベルグ王国の使者だ。ダゼル国王の特命によりアルタイル王国へ渡っていた。ここを通してもらいたい」


マリア―ヌはさっきと同じようにハッタリをかます。


「これが証拠だ」


私はダゼル国王からもらったメダルを差し出す。


「これは確かに我が国の紋章。失礼しました!」


国境警備隊は慌てて道を開ける。

その道を私達は我が物顔で通り抜ける。

まあ、ダゼル国王から特命を受けていることは間違いないのだし嘘は言っていない。

それでも少し後ろ髪を引かれるような思いをした。


「うまくいったみたいだな」

「はぁー、苦しかった」


ガルドとプリシアは荷物の中から出て来ると大きく伸びをした。

すっと同じ格好で蹲っていたからこったのだろう。

エリザは荷馬車の後ろから国境を眺めて言った。


「これからどうするつもり?」

「とりあえずグルンベルグ王都に向かう。事情を話してダゼル国王の支援を受けよう」

「それはダメだ。ヴェズベルト王国の機密を教えることになってしまう」


マリア―ヌは肩を怒らせながら私に詰め寄って来る。


「しかし、ダゼル国王の支援がなければプリムの情報は集められないぞ」

「私達だけでやるんだ」

「それでは時間がかかってしまう」

「私はヴェズベルト王国の人間だ。アンナ女王様を裏切るような真似は出来ない」


マリア―ヌの覚悟は確固たるものだ。

アンナ女王への忠誠は確かなものだろう。

しかし、今は一刻を争う。

時間をかければかけるほどプリムの救出は遠のいて行く。

マリア―ヌには悪いが、ここは私に従ってもらう。


「グルンベルグ王都に向かう」


私は馬車をグルンベルグ王都に向けた。





国境からグルンベルグ王都までは二週間の道のり。

途中の街を経由して行かなければならない。

私達は国境から一番近いガルドの出身地でもあるクラルスの街へ向かった。


クラルスの街は山に囲まれた盆地を切り開いて造られた街。

主要産業は林業で山林で樹々を切り倒しては加工して他の街へ運んでいる。

中でも檜に恵まれていてブランド品にもなっている。

街の大きさは最初の街ニーズと似たりよったりの大きさ。

武具店、服飾店、ギルド、酒場、宿屋、市場、民家などある。


「帰って来たぞー」


ガルドは眼下に見えるクラルスの街を見やりながら雄たけびを上げた。


「あの街がガルドの故郷か?」

「そうだ。俺が生まれて育った街だ」

「田舎の割には発展しているじゃない」

「田舎だと?まあ、王都に比べれば見劣りするが、中はいい街だぞ」


ガルドは誇らしげな様子で私達に言った。

故郷を誇りに思うことは良いことだ。

私も故郷であるアステルの街を誇りに思っている。

まあ、私の場合は、もうアステルの街に戻れないのだが。

それが策士の家計に生まれた私の宿命だから。

少しだけガルドが羨ましく思える。

馬車はクラルスの街の門を通り抜けると、ガルドが自慢話をして来た。


「この門、立派な造りだろ?こいつは俺が建てたんだ」

「へぇー。ガルドにそんな特技があったなんて知らなかったわ」

「細かな装飾が施されていて神聖な感じがしますわ」

「だろ。これは俺のアイデアなんだ。ラクルスの街を象徴するものだからな。豪華に行かないと。ガハハハ」


豪華なんて意味合いが違うじゃないか。

ガルドは自分のアイデアだなんて言っているが、きっと違うだろう。

ガルドの中に、こんな繊細さはみじんも感じないからな。

馬車を宿屋の脇に泊めて受付を済ませる。


「私達は宿に泊まるが、ガルドはどうするんだ?」

「俺も宿にしてくれ」

「何だ。実家に泊まらないのか?」

「家はボロ屋だからな。顔を出すだけにしておくよ」


ガルドは少し気の抜けた顔をしながら答えた。


「そうか。なら、6名でお願いします」

「6名様ですね。大部屋もありますがいかがいたしますか?」

「二部屋で頼むよ」

「畏まりました」


宿屋の受付嬢は受付を済ませると部屋のカギを2つ差し出した。

私とガルドは東側の部屋でエリザ達は向かいの部屋。

部屋に荷物を降ろしてから宿屋の前に集まった。


「それじゃあ夜になるまで街を散策しよう。ガルド、案内してくれるよな?」

「悪い。俺はおふくろの所へ行って来る」

「なら、これを持って行け」


私は金貨のたんまり入った袋を差し出す。


「いいのか?」

「それはガルドの分だ。おふくろさんにうまいモノでも食べさせてあげてくれ」

「ありがとう、タクト」


ガルドは金貨の入った袋を受け取ると駆け足で実家へ向かった。


「タクト、いいところあるじゃない」

「これまでのガルドの働きに比べれば少ないけどな」

「今夜は親子水入らずですね」

「あーあ。私も実家へ帰りたくなっちゃった」

「プリシアは、この間帰ったばかりだろ」

「そうだったっけ」


プリシアは照れ笑いをしながらおどける。

その横でマリアーヌはひとり寂しげな表情をしていた。


「マリア―ヌ、どうした?」

「いや、何でもない」


不躾な質問だったか。

マリア―ヌに家族はいなかったことを想い出す。

家族と呼べるのはアンナ女王ただひとり。

マリア―ヌは親の愛情に飢えているのだろう。

それを隠すかのように騎士団長の職を全うする。

いつでも冷静で戦いには冷徹で、女王には忠誠を誓う。

そうすることでやり場のない悲しみを打ち払って来たのだろう。

悲しい生き方だ。


「それじゃあ酒場でいっぱいやろう」

「「賛成!」」

「マリアーヌも行くだろう?」

「無論だ」


私達は景気をつけるためラクルスの酒場へ向かった。





宿屋の廊下の窓から外を眺める。

火照った体を夜風で冷ますように。

空を見上げれば煌々と月明かりが夜の街を照らしていた。


「ふー、気持いい夜風だ」

「あら?タクト、ひとり?」

「エリザか。ガルドなら、まだ戻っていないよ」

「そう」


少し大きな窓辺でエリザが身を寄せて来る。


「少し近づき過ぎじゃないか?」

「今は誰もいないんだし、いいじゃん」

「ま、まあいいけど」


少し照れている私をジッと見つめるエリザ。

意味ありげな眼差しで頬を赤く染める。

ドキドキ。

心臓の鼓動が外に漏れそうなくらい激しく高鳴る。

と、


「タクト、私ね。お父さんのこと、後悔していないんだ。お父さんは自分の仕事を全うするために亡くなった。家族を顧みなかったことは許せないけれど、それはお父さんなりに事情があったからだって」


エリザは期待を裏切るかのように家族の話をして来た。

ま、まあ私は最初からわかっていたけど。

熱くなる頬を覚ましてエリザの話に耳を傾ける。


「私は寂しかったの。いつもお母さんが作る三人分の夕食が虚しくて。ポカンと空いたお父さんの席を見ながら黙って食事をしていたわ。家族って和気藹々と食卓を囲んで今日あったことを笑いあいながら話すものでしょ。どこの家庭にもある何気ない食卓が私の夢だったの」


エリザは目を細めて遠くの空を見やる。

その瞳の先にはきっとエリザが夢見ていた光景が描かれているのだろう。

私はごく普通に生活をして来た。

策士になること以外は、他の家庭と一緒で。

父さんや母さんがいることが普通だった。

だから、気にも止めていなかった。

あたり前の中にある幸せを。


「エリザ……」

「そうだ、タクト。時間があったらミントスの街に寄ってくれない?お母さんに会いたいから。それにお父さんのことも報告しなくちゃいけないしね」


もちろんだとも。

私が頷くとエリザの瞳が微かに潤んだ。


「たらいま~」


ガルドが壁にぶつかりながら階段を登ってくる。

すっかり出来上がっているようで顔が真っ赤だ。

親子水いらずの時間は終わったのだろうか。


「おっ、タクぅトとエリザぁじゃないら。こんなところへ密会かぁ?」

「な、何言っているのよ。ちょっと夜風にあたっていただけよ」

「ガルド、ちょっと飲み過ぎじゃないか?」

「なにいってるんだぁ。おらぁ、このくらいじゃつぶれないよぉ」


床に身を預けようとするガルドの体を支える。

そしてエリザといっしょにガルドを部屋まで運んだ。


「うぅぅ。おかあちゃーん」


ガルドはベッドに横になると寝言を叫ぶ。

その様子を見て私とエリザは思わず吹き出してしまった。

普段はどんなに酒を飲んでも酔わないガルドが、ここまで酔いつぶれるのは意外だ。

よほど実家の居心地がよかったのだろう。

実家へ戻れるガルド達を少し羨ましく思った。


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