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96「裏切り」

私達は無事、ドルトンの丘陵地帯を抜けてナイルの街まで辿り着いた。

ナイルの街は国境に近いこともありグラハム地方からやって来た行商人達が目立つ。

護衛の冒険者達や観光客の姿もちらほら見えた。


「アレスクロの街より小さいな」

「交易の通過地点の街だからな」

「ここにプリムが来たってことね」

「間違いない。国境を越えなければグラハムには行けないからな」


ナイルの街から50キロメートル北へ行ったところに検問がある。

検問にはアルタアイル王国の警備兵が検閲をしている。

国境を越えた反対側にはグルンベルグ王国の警備兵達が配備されている。


「まずは情報収集からはじめよう。プリム達がこの街へ来た確固たる証拠が欲しい」

「なら、俺は酒場で情報を集めて来るぜ」

「私は商店で情報を集めて来るわ」

「それなら私は宿屋で聞いて来ますわ」

「私はっと……」


プリシアはみんなの顔を見回しながら考え込む。


「プリシアは市場に行って情報を集めてくれ。私はギルドで情報を集めて来る」

「わかった」


プリシアが大きく頷くとみんなの視線がマリア―ヌに集まる。


「私は駅舎で情報を集めて来る。グラハム地方へ渡るにも馬車が必要だからな」

「それじゃあ決まりだ。一時間後にここへ集合だ」


私達は時間を確かめてから、それぞれの場所へ情報を集めに向かった。





ナイルの街のギルドは国境も近いこともあり、グラハムから渡って来た冒険者達がいる。

プリム達がギルドへ立ち寄ったことはないと思うが、念のため受付嬢に確認をとった。

案の定、受付嬢達はまったく知らない様子。

グラハムから来た冒険者達にも声をかけてみたがなしの飛礫だった。


「まあ、仕方ないよな。逃亡している人間がわざわざギルドへ足を運ぶことは考えにくいし、ガルド達の情報をあてにしよう」


私はとりあえずギルドに掲載されていた依頼の内容を確認した。

国境も近いこともありグラハム寄りのモンスターもいる。

グラハム寄りと言ったらわかりにくいかと思うが、簡単に言うとグラハムに出没するモンスターのことだ。

ミッドガルに出没するモンスターは火炎耐性や衝撃耐性を持っていたり、炎を吐いたりするモンスターが多い。

一方でグラハムに出没するモンスターは耐性がなく、弱点のあるモンスターが多い。

ようするに初心者向けのモンスターが多いってことだ。


「ウォーウルフにゴーレム、ゴブリンと。こいつらは既に攻略済だな。他には……」


マッドゴーレムにサーベルタイガー、ゴブリンロード。

こいつらははじめてみるモンスターだな。

グラハム寄りのモンスターのはずなのに耐性持ちだ。

私達がいない間にグラハムに何かあったのだろうか。


私はギルドの依頼に全て目を通すと待ち合わせ場所へと向かった。





その頃、マリア―ヌはヴェズベルト王国の使者とコンタクトをとっていた。


「マリアーヌ様。カイザルが拘束されました」

「カイザルが拘束されただと!それでプリム様は一緒だったのか?」

「いいえ、カイザルひとりだけです」


使者の答えにマリアーヌは納得したように呟く。


「やはりな」

「やはりと言いますと?」

「プリム様はグラハムに渡られたらしいのだ」

「グラハムですか……」


マリア―ヌの言葉に使者の顔が曇る。


「どうした?」

「いえ。マクミニエル国王がカイザルの身柄を引き渡す代わりに法外な資金提供を要求して来たのです」

「法外な資金とは?」

「10億ゴールドです」


マクミニエル国王は何を考えているんだ。

国家予算の10分の1にあたる10億ゴールドを要求して来るなんて。

カイザルにそれだけの価値があるとは思えない。

アンナ女王様もおそらく要求は飲まないだろう。


「それでアンナ女王様はどうしたのだ?」

「これから交渉に臨むところです」

「そうか」


プリム様の足取りが掴めた今となってはカイザルに価値はない。

黒幕が誰なのかを吐かせることと責任をとらせることぐらいだ。

カイザルは間違いなく処刑される。


「私はグラハムに渡りプリム様の後を追う。お前はこのことをアンナ女王様に伝えてくれ」

「はっ」


使者はマリア―ヌに敬礼をするとナイルの街へ消えて行った。





あれから一時間達、情報収集に行ったみんなが集まっていた。

立ち話も何なので酒場へ場所を変えた。


「みんな収穫はどうだった?」

「プリムはこの街に来たことだけは確かだ。酒場の連中はプリムらしい少女を見掛けたと言っている」

「宿屋でもプリムさんらしき少女を見掛けたと言っていましたわ。フードを被った男と一緒だたとか」

「それはカイザルなのか?」

「そこまではわかりません」


ルーンは申し訳なさそうに俯く。

と、マリア―ヌが何かを言いたげに唇をいじっていた。


「マリア―ヌ、何か言いたげだな」

「カイザルは拘束された」

「「カイザルが拘束されたって!」」


ガルドはテーブルを叩いて立ち上がる。


「これからマクミニエル国王とアンナ女王がカイザルの身柄引き渡しの交渉をはじめるところだ」

「交渉?」

「マクミニエル国王はカイザルの身柄引き渡しの条件として10億ゴールドの資金提供を要求して来た」

「「10億ゴールドだって!」」


ガルド達は目を見開いて驚愕の声を上げる。


「10億ゴールドなんて。カイザルにそれだけの価値があるとは思えないわ。もちろんアンナ女王は断るのでしょ?」

「無論そうだろうな」


エリザは大きくため息をついて椅子の背にもたれた。

カイザルが拘束されたならプリムと一緒にいた男は別人と言うことになる。

カイザルと取引をした相手と見るほうが妥当だな。

何者なのかはわからないが、グラハムへ渡ってどうするつもりか。


「マクミニエル国王は何を考えていると思う?」

「アルタイル王国は情勢が不安定だからな。資金提供を受けて過激派の鎮圧にあてるのかもしれない」

「妥当な答えだ」


しかし、資金提供を受けて過激派を抑えられるものだろうか。

ドワーフ達は滞りなく過激派達に武具を提供している。

アンナ女王も法外な資金提供は避けるだろう。

あてにならない資金提供にすがるほどマクミニエル政権が追い込まれているってことなのか。

もしかしたら過激派が動き出すのも時間の問題なのかもしれない。


「それより何でマリアーヌはカイザルが拘束されたことを知っているんだ?まだ、公にはなっていないはずだろ?」

「それは……」

「それは私から話そう。マリアーヌはヴェズベルト王国の人間とコンタクトをとっている。プリム救出のためには情報が肝要だ。私達が持っている情報に加え、ヴェズベルト王国が集めた情報を合わせればプリムの所在も明らかになってくる」

「しかしよ。俺達の行動を逐一報告してるってことだよな?それって俺達を監視しているってことにならないか?」


ガルドの指摘は最もだ。

私達はプリム救出に旅立つ前から、すでにアンナ女王から監視されていたのだ。

マリア―ヌを私達の仲間にしたのも、すべてアンナ女王のシナリオと見た方が妥当だろう。

信頼しているマリア―ヌを私達にくっつけることで情報を吸い上げる。

そうやってアンナ女王は国を統治して来たのだ。


「マリア―ヌにはがっかりね」

「仲間だと思っていたのに」

「タクト。プリム救出は俺達だけでやろうぜ」


ガルド達は冷めた目でマリアーヌを見やる。

チームに亀裂が入ってしまった。

しかし、マリア―ヌを今外すのは得策ではない。

こちらの情報は吸い上げられてしまうが、逆にあちらの情報も入手できるのだ。

国の動向を掴んでいた方が立ち回りやすい。


「プリムの救出にはマリア―ヌの力が必要だ。マリア―ヌにはこのまま同行してもらう」

「本気か、タクト!俺達は裏切られているんだぞ」

「もちろんそれもわかっている。その上での判断だ」

「何を考えているのよ、タクト。裏切り者とはいっしょになんか戦えないわ」

「エリザの言う通りよ。私もマリアーヌと一緒だなんていやだからね」


ガルド達は口々に不満を漏らす。

と、ひとり静観していたルーンが口を開いた。


「みなさん落ち着いて下さい。タクトさんは考えがあって決断したことです。私達はそれに従いましょう。それに今は何よりもプリムさんの救出が第一なはずです」

「それはそうだけど」


ガルド達は俯いたまま言葉を詰まらせる。

すると、マリア―ヌが床に土下座をして頼み込んで来た。


「私を同行させてほしい。私はプリム様を救出できればそれでいいんだ。信じて欲しい」


ガルド達は冷ややかな目でマリアーヌを見下げる。

一国の騎士団長が自ら頭を下げて頼み込んだのだ。

よほどの覚悟がなければできない。

マリア―ヌの言葉に嘘偽りはないだろう。

私は時間をかけてガルド達を納得させた。




「タクトの言い分はわかったよ。マリアーヌの同行を認めようじゃないか。だけどな、俺達を裏切るような行動を見せたら、迷わず断ち落とすからな」

「ありがとう、ガルド。感謝する」


マリア―ヌが手を差し出すとガルドはその手をとった。


「ねえ、今、ガルドって言ったよね?」

「それがどうかしたのか?」

「マリアーヌが名前で呼ぶなんて今までなかったから」

「そうだったか。それは悪かったな」


マリア―ヌは飄々としながらも少し照れているように見えた。

ガルド達も笑いながらお互いの顔を見合わせた。

とりあえず今はこれでいい。

プリムを救出するまでの間は。

その後、マリア―ヌがどういう行動にでるのかはわからないが。

今はこのままで。

私達は仲直りの乾杯をして酒を満喫した。


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