93「黒紫刀」
翌朝、アレスクロの街を出立し1週間をかけてドワーフ村に戻った。
ドワーフ村では村長が首を長くして待っていた。
ガルドは興奮しながら村長に掴みかかる。
「おい、村長。俺達に武具の密輸をさせるとはどういうことだ!」
「何だ、知っておったのか。ワシ達は過激派に武具を密輸している」
「死の商人ってことだろ」
「そうじゃ。ワシ達はマクミニエルの保護を受けているが実際は剣を突きつけられているようなものだ。マクミニエルはワシらの技術を独占したくて保護をしているに過ぎない」
村長は難しい顔をしながら話を続ける。
「ワシ達はドワーフ国を樹立させるため資金を集めている。両者に武具を提供しているのは対立を長引かせることが目的だ。両者の力が拮抗し共倒れしてくれればドワーフ国の樹立も夢ではない」
「けれど、それは村長おひとりの考えではないでしょうか?本当にドワーフのみなさん達がドワーフ国の樹立を望んでいるとは思えませんが」
「ワシの考えは古いと揶揄する者もおる。しかし、ドワーフ国の樹立はいずれワシらのためになるのじゃ」
これ以上、村長を問いただしても答えは変わらないだろう。
ドワーフ国の樹立と言う大きな目標を掲げて、他のドワーフ達を従わせる。
それは独裁者と変わらないやり方だ。
村長も他のドワーフ達のことを考えているようで実際は自分のことしか見えていない。
権力を得ようとするものが陥りやすい罠だ。
「村長の考えはわかりました。しかし、私達はこれ以上、お力になることは出来ません」
「そなた達なら第一騎士団に選出しても惜しくないのだが、断ると言うなら仕方ない。これはワシらドワーフの問題なのだから」
村長の考え方が変わらない限り、ドワーフ達に本当の意味での明日が来ることはないだろう。
悲しいことだが、それが現実だ。
私達はその足でダウスの工房へ向かった。
「おい、おっさん。剣は仕上がっているか?」
「おう、お前達か。剣なら仕上がっているぞ」
ダウスは工房の奥から鍛え直したガルドの大剣とマリアーヌの剣を持ってくる。
「どれ。なかなかいいじゃないか」
ガルドが大剣を素振りする横でマリアーヌは剣をとって太陽に翳す。
そして指で切れ味を試してから、
「こいつは素晴らしい。以前の剣より切れ味が違う。それにこの軽さは何だ」
と、驚きの声を上げた。
ダウスの話では魔鉱石は鍛えれば鍛えるほど強度が増す。
そして何より軽くなると言う性質があるそうだ。
それと魔法との相性が良くなり武器に魔法を帯びさせることが容易になる。
魔法剣は以前、死神との戦いで試してみたことがあるが、その時よりも魔法効果が高まるらしい。
「さすがはドワーフの技術だ。官服した」
マリア―ヌは終始満足をしていたがガルドは以前との違いがいまいちわからないようだった。
すると、ダウスがもう一つ武器を持って来て私に渡した。
「これは?」
「それは黒紫刀と言う刀だ。魔鉱石が余っていたから仕上げてみた。よければ持っていってくれ」
「いいのか?」
「刀は飾っておくだけでは役に立たない。戦いで使ってこその武器だ」
黒紫刀はプリシアの実家で見た刀と同系統のモノだった。
切れ味は確かで何より軽いのが特徴だ。
太陽に黒紫刀を翳すと黒く怪しげに光を反射する。
その名の通り黒紫色に輝いていた。
「タクト、もしかして戦いに参加するつもりなの?」
「私はあくまで策士だ。戦術を立てるのが基本だ。しかし、これから先に何があるのかはわからない。だから、剣術を身に着けておいても問題ないだろう」
「剣術の稽古なら私がつけやる。ヴェズベルト王国由来だから厳しいがな」
私も剣術の基礎は身に着けている。
ただ実戦で使ったことはないからペーパー剣士だが。
実戦経験の長いマリア―ヌに稽古をつけてもらえるなら百人力だ。
「それよりも村長のことを勘弁してくれよな。俺達ドワーフがみんなドワーフ国の樹立を望んでいないことだけは知っておいてくれ」
「わかってるさ。ダウスの仕事ぶりを見ればわかるよ」
「なら、安心した」
私は懐から代金を取り出すとダウスに渡した。
「これはちょっともらい過ぎだ」
「黒紫刀のぶんも含めてだよ」
「まあ、お前さんがそう言うならありがたくもらっておくよ。また、何かあったらいつでも寄ってくれ」
気前のいい奴だったな。
ドワーフがみんなダウスみたいな感じだともっといい街になるのだろうに。
それは叶わない夢だから仕方ないが。
「それじゃあ次はナイルの街だな」
「その前にギルドへ行ってモンスター情報の収集だ。道中、どんなモンスターに出くわすのかわからないからな」
ひとり逸りたつマリア―ヌを抑えていったん冷静にさせる。
急がば回れでないけれど、着実に一歩ずつ前に進む方が早い時もある。
特にはじめての地だったらなおさらのことだ。
ギルドへ入ると受付嬢が、また来たのと言うような顔つきで私達を見やる。
また、私達がモンスターを大量に討伐して来たのとでも思ったのだろう。
だが、今回はモンスター情報の収集だ。
私は掲示板に張り付けてあるモンスター情報を眺める。
「巨岩石はこの前倒したな。火炎蜥蜴に地潜り、ブラッドバッドか」
「報酬も安いし大したモンスターではないな」
「でも、地潜りとブラッドバッドは夜行性よ」
「私達、まだ夜戦はしたことないですわよね」
ルーンの言う通り、私達は夜戦はしたことはない。
夜は視界が奪われるから無闇に行動することは危険だ。
モンスターを討伐するなら朝まで待った方がいい。
わざわざ自分達に不利な条件で戦わなくてもいい話だ。
しかし、モンスターが夜行性となると話は変わって来る。
いやがおうにも不利な条件で戦わなくてはならなくなる。
あいにく地潜りとブラッドバッドはナイルの街へ行く道中で出くわすことが高いモンスターだ。
夜戦は覚悟しておかなければならないだろう。
「夜戦になることを想定して準備をしておこう」
「また、新しい魔法を覚えるの?」
「その必要性もあるな。とりあえず酒場に行って作戦会議だ」
酒場のテーブルにミッドガルの地図を広げながら作戦会議をはじめる。
「ドワーフの村からナイルの街へ行くには、北東に広がるドルドン丘陵地帯を通らなければならない。ここには地潜りが潜んでいる。地潜りは日中は土の下で休んでいるが夜になれば活動をはじめる。ドルドン丘陵地帯を抜けるには少なくとも3日は必要だ」
「ってことは地潜りと遭遇することは避けられない訳ね」
「そうだ」
「アレクスロの街を経由するルートは?」
「それだと倍の時間がかかってしまう。最短で行くにはドルドン丘陵地帯を抜けなけるのが一番だ」
時間をかければかけるほどプリムの救出は現実味を失って行く。
国外に出られる前にミッドガルで抑えておきたいところだ。
「夜戦なんて面白そうじゃないか。この大剣の切れ味を試してやるぜ」
「次はモンスター対策になるが地潜りもブラッドバットも光の魔法に弱い。なのでルーンの光の魔法の強化だ」
「光の魔法はホーリーランスまでしか覚えていません」
「単体のモンスターならばホーリーランスでも有効だが地潜りもブラッドバットも群れで行動するモンスターだ。そこで上級魔法のサザンクロスを覚えてもらいたい。サザンクロスならば全体攻撃が出来る」
詠唱に時間がかかるのがたまに傷だが夜戦では有効だろう。
それに周りを明るくする効果も期待できる。
夜戦の中では灯かりは重要だ。
「私は?」
「エリザにはアースクエイクを覚えてもらいたい。地潜りをおびき出すために重要な魔法だ」
地潜りをおびき出すためならば中級魔法のデラグレイブでこと足りる気もするが、地潜りは地獄アリとは違って地中深くに潜んでいる。
なので上級魔法のアースクエイクでなければ効果は期待できない。
まずはエリザのアースクエイクで地潜りを地上におびき出してルーンのサザンクロスで大ダメージを与える。
残ったモンスターはガルド達に個別に撃破してもらう。
これが対地潜り戦の戦術だ。
「俺達は必殺技の習得はしなくていいのか?」
「ガルドには閃光剣を覚えてもらう」
閃光剣はその名の通り閃光のような刺突を放つ剣技だ。
光の属性を持っているから夜戦では有効だ。
「私は?」
「そうだな。プリシアには聖光炸裂弾を覚えてもらおうか」
聖光炸裂弾は聖光弾の攻撃力を強化したような必殺技だ。
聖光弾は目くらましにしか効果がないが聖光炸裂弾ならばダメージも与えられる。
それにサザンクロスと一緒で周りを明るくする効果も期待できる。
「私には紫電一閃があるから問題ないだろう」
「紫電一閃は単一のモンスターには有効だが、群れで行動するモンスターには合わない。無数の衝撃波を放てる疾風陣を覚えてもらおう」
地潜り対策はこれで十分だ。
あとはブラッドバット対策だが。
「ブラッドバッドは空を飛んでいるんでしょ。なら、ガルド達の攻撃が当たらないんじゃない?」
「その辺もちゃんと考えてあるよ」
空を飛ぶブラッドバッドは動きを封じることが肝要だ。
まず、エリザのダイヤモンドダストでブラッドバッドを凍らせる。
その上でルーンのホーリランスとガルド達の必殺技で各個撃破してもらう。
数が多いだけにマリアーヌの疾風陣が役に立つだろう。
以上がブラッドバッド対策だ。
地潜りもブラッドバッドも報酬が低いから、そんなにてこづることもないはずだ。
私はガルド達に一通り作戦を説明してから宴会をはじめた。




