92「過激派」
アレスクロの街はアルタイル王国に次ぐ二番目の大きさを誇っていた。
交易の中心地だと言うことで街中には行商人達が行き交っている。
中でも目立つのはやはりグラハム地方から来た行商人だ。
ミッドガル地方は陸伝いにグラハム地方とサラーニャ地方に隣接している。
グラハム地方に抜けるには高い山脈を越えなければならないが、サラーニャ地方へは比較的簡単に抜けられる。
そのため交易はサラーニャ地方が中心だ。
「この街は他国の行商人が多いな」
「交易の中心地だからな」
「で、この荷物はどこへ運べばいいんだ?」
私達が辺りを見回しているとひとりの男が声をかけて来た。
「おい、お前達。ドワーフ村から来た者達か?」
「そうだ」
男は頭にターバンを巻き髭を生やしている。
見るからに過激派とは思えない風貌だった。
「私はゲルミナだ」
「私はタクト」
私はゲルミナと軽く握手を済ませる。
「それで荷物は?」
「これだ」
「中身は見たのか?」
「いいや」
「おい、お前達。荷物を運べ」
ゲルミナは近くにいた男達に指示を出す。
「これは報酬金だ。ゼフに渡してくれ」
「確かに」
と、荷物を運んでいた男が躓いて木箱を落とした。
「何をしている。もっと慎重に運べ!」
ゲルミナの檄が飛ぶと男達は荷物を慎重に運んで行く。
私は鎌をかけるようにゲルミナに言った。
「装飾品の材料だから、そんなに慎重にならなくてもいいぞ」
「ゼフからはそう聞いているのか?」
「そうだが何か?」
「お前達には関係ないことだ。さっさと行け」
ゲルミナはわかりやすく咳払いをして私達を煙たそうに追い払った。
「あいつらが過激派か」
「全然、過激派に見えなかったわね」
「そうですね。街に溶け込んでいて街人と変わり映えしませんでしたわ」
「過激派が過激派ですってわかりやすくしていたら潜伏など出来ないからな。街人に溶け込むことで追っ手の目を眩ませているんだ」
さすがはマリア―ヌ。
だてに諜報活動をしていた訳ではないようだ。
そこら辺の事情通には頭が上がらない。
マリア―ヌも諜報活動をしていた時には街人に溶け込んでいたのだろう。
「しかし、こんな大きな街に過激派が潜伏しているなんてアルタイル王国は何をしていたんだ」
「ここは交易の街だから警備が行き届かなかったのだろう。それにアルタイル王国は継承問題で揺れているからな。それどころではないのだろう」
思っている以上にアルタイル王国の地盤は弱そうだ。
保守派と過激派の対立からもわかるように、マクミニエル政権は揺れている。
ここでマクミニエル国王の命がとられることなったら、間違いなく政権は崩壊するだろう。
あいにく隣国であるダゼル国王もアンナ女王も政権が崩壊したからと言って侵攻する気はないだろうが。
少なくとも過激派はマクミニエル政権の崩壊を望んでいる。
いつしかけるのかはわからないが、既に息のかかった人間を政権内部に潜らせていると見た方がいいだろう。
「そんな難しい話は置いておいて、プリムの情報を集めようよ。もしかしたら、この街に寄っているかもよ」
「そうだな。なら、手分けして情報を集めよう。エリザとルーンは西側の観光地区を。ガルドとプリシアは東側の商業地区を。私とマリアーヌは北側の住宅地区を探す」
「えー、ガルドと?私、タクトとがいい」
ガルドはしかめっ面をして私を見やる。
「プリシア、ワガママを言うな。これもプリムの情報を集めることが一番なんだ」
「チェッ、つまんないの。タクトと二人っきりでデート出来ると思ったのに」
そんなことを考えていたのか。
プリム救出が命題なのだからもっと真剣に向き合って欲しい。
まあ、私もマリアーヌに話があったからこういう割り振りにしたのだが。
「それじゃあ夕方にここで落ちあおう」
私達は割り振り通り、それぞれの方角へ向かった。
私とマリアーヌは街の北側の住宅地を調査していた。
アレスクロの北側は大きな住宅地が立っており住民たちが行き交っている。
これだけの人通りならば目撃者も見つかるかもしれない。
私達は手あたり次第、プリム達のことを尋ねた。
しかし、目撃者は見つからずじまい。
「これだけの大きな街でもプリム様の行方が掴めないなんて。プリム様はもうこの国にはいないのではないのか」
「マリアーヌ。ひとつ聞きたいことがある」
「何だ?」
私はこのところひとりで行動したがるマリア―ヌに疑念を抱いた。
私の中で抱いていた疑問はマリア―ヌがまだアンナ女王に従えていることだ。
正式に騎士団は除隊したようだが、密かにヴェズベルト王国の人間と内通していることは知っている。
既にミッドガル地方にもヴェズベルト王国の息のかかった人間が入り込んでいる。
諜報活動がメインのようだが、このことがマクミニエル国王に知れたらただでは済まないだろう。
場合によっては戦争に発展することもあり得る。
「まだヴェズベルト王国の人間と内通しているな?」
「……」
「返事がないってことは、その通りだと言うことだな」
マリア―ヌはプリムのことを第一に考えているような口ぶりだが、それはフリではないかと疑っている。
アンナ女王は聖女としてプリムを迎え、自国の軍事力の強化を企んでいることには間違いない。
それはわざわざ魔水晶を採掘させたことからも見て取れる。
プリムを心の支えとして見ているならば魔水晶はなくてもいいはずだ。
ヴェズベルトの軍事力強化は隣国のアルタイル王国やサンドリア王国にとって脅威となる。
世界のパワーバランスが崩すことになれば再び戦争が起こりかねない。
「私はアンナ女王に全てを捧げている。それは私が騎士団から離れようが変わらない。しかし、これだけはわかってほしい。私は本心からプリム様の身の安全を思っていることを」
マリア―ヌのことをどこまで信じられるのかは今はわからない。
しかし、プリム救出の命題だけは一致している。
今はそれだけを念頭にプリムの情報収集をするだけだ。
すると、東側の商業地区で情報収集していたガルド達が貴重な情報を仕入れて来た。
「プリムに関する情報を入手したぞ」
「どんな情報だ!」
マリア―ヌがガルドの胸ぐらを掴み問正す。
「おい、慌てるなって。そこの酒場のマスターから聞いた話だが、プリムらしき水色の髪をした少女と髭の男は北のナイルの街へ向かったそうだ」
「ナイルの街と言えば国境付近の街じゃないか」
「プリム達は間違いなくグラハム地方を目指していたことになる」
もう既にグラハム地方に入国しているかもしれない。
それならばそれでやりようがある。
ダゼル国王に頼めば協力を得られるかもしれないからだ。
「こうしてはいられない。私達もナイルの街を目指すぞ」
「勝手なことを言うなマリアーヌ。俺達はまだ村長の依頼を終えていないんだぞ」
「そんな呑気なことを言っていられるものか。プリム様がそこにいるんだぞ」
マリア―ヌは興奮しながらガルドの胸ぐらを掴みあげる。
騎士にしてはらしからぬ行動だ。
これも芝居と捉えたらマリア―ヌに申し訳が立たないが。
あくまでマリア―ヌはヴェズベルト王国の騎士だ。
それは曲がっても変わらない事実。
プリムを救出したら間違いなくアンナ女王の元へ連れて帰る。
その後でプリムを聖女として祀り立てる。
プリムが断ったとしても、それは受け入れないだろう。
「落ち着けマリア―ヌ。プリムがグラハムに入国したのなら都合がいい。私達はグラハムのダゼル国王とは知り合いだ。ダゼル国王に話せば協力が得られるだろう」
「本気で言っているのか。聖女と魔水晶の話をすればグラハムの国王も黙ってはいないはずだ」
それは否めない。
しかし、
「今は何よりプリムの救出が第一だ」
その言葉にマリアーヌは何も反論しなかった。
プリムを救出しないことには話がはじまらない。
私達は長い間話し合いを続けてマリア―ヌを納得させた。
当面はプリム救出を第一に行動すること。
そのためにもまずはドワーフ村に戻って村長に報告を済ませること。
その後で、今後の方針を決めることにした。




