91「死の商人」
聖戦。
それはブラッドウォーから数十年後に起こった人類と魔獣達との生存をかけた戦いだ。
300年続いたブラッドウォーに比べ期間は1ヶ月と短い間だったが戦いは凄惨を極めた。
多くの血が流れ街も壊滅状態に陥った。
魔獣はミッドガル地方の地下深くに眠っていた。
それが何かのきっかけで目覚めることに。
聖槍グングニルの力が弱まった説が有力だが、正直なところよくわかっていない。
当初、アルタアイル王国には魔獣に対抗できる力はなかった。
ブラッドウォーの反省から各国は軍事力を弱めていたからだ。
それは平和条約が締結されたことも背景にある。
戦いが必要でなくなった世界からは剣の代わりに鍬を手に取る。
人々は農業や商業に勤しみ経済力を発展させて行った。
同時に策士の必要性がなくなり、急激にその数を減らして行く。
栄枯盛衰。
気がついた時には策士は数えるほどしか残っていなかった。
もう策士の力は頼れない。
そう判断した当時のアルタイル国王は人類存続のため部隊を編成して魔獣討伐にあたらせる。
しかし、人類と魔獣との力の差は明らかで、すぐに撤退を余儀なくされた。
一方で魔獣の出現は各国でも脅威となっており、各国は手を結び魔獣討伐部隊を編成することに。
グルンベルグ王国からは8万、サンドリア王国からは5万、ヴェズベルト王国からは7万、そしてアルタイル王国からは10万の兵が用意されミッドガルに集結した。
総勢30万の兵力を持って魔獣討伐にあたらせたのだが、魔獣達を討伐するには至らなかった。
魔獣一体でも一国を滅ぼせるほどの力を持っている魔獣の前に成す術がなかった。
戦局に暗雲が漂い始めると、エルフ王が1万の兵を率いて参戦して来た。
それは人類を救うためのものではなく、魔獣を封じ込める目的だった。
大陸とは離れた島国のエルフ王国だったが、魔獣の存在は脅威でしかない。
エルフ王は神器である聖槍グングニルを持ち出す。
聖槍グングニルの力で魔獣の封じ込めに成功する。
そして魔獣が再び目覚めないように世界の秘境に封印したのだ。
その時に出来たのが目の前にある巨大なクレーターだ。
直径は100メートルで深さは50メートルほどの大穴。
お椀上に抉れていて底が遠い。
聖槍グングニルの力が発動した時に出来たと言われている。
「これが聖槍グングニルの力なのか」
「エクスプロードでもこんな巨大な穴は空けられないわ」
「まさに神の力だな」
マリア―ヌは関心しながらクレーターの底を見やる。
これほどの力を持ってしなければ魔獣を封印できないなんて。
私達がどれだけ戦力を強化させても目に見えていると言うことなのか。
心が折れる。
それが正直な感想だ。
しかし、私達は前に進むしかない。
人類と魔獣との戦いは再び幕を開けたのだから。
「私達には前に進む以外の選択肢はない。この先の戦いが目の前に立ちはだかろうとも。私達は勝たなければならない」
「そうだな。俺達がやらなければはじまらない」
「覚悟は決まっていることだな」
「もちろんよ」
私達はお互いの顔を見合わせながら確かめ合う。
その場にいた誰もが、この先に訪れる脅威にも屈しない覚悟を決めていた。
「それじゃあアレスクロの街へ行こうぜ」
「そうだな」
私達は馬車に乗りイスタルを後にする。
聖戦の跡地であるこの場所はイスタルと名付けられ後世まで知られることになった。
アルタイル王国の観光の目玉となる場所だが、ほとんどの人はお祈りに来ている。
再び聖戦が起こらないようにと先だって逝った者達の冥福を祈るためだ。
私達がここへ再び来るときは聖戦でないことを祈りたいものだ。
「それにしてもぜんぜんモンスターがいないな」
「聖戦の跡地だからだろう」
「なら、何で村長はモンスターが出るって言っていたんだ?」
「私達に荷運びをさせるためだろう」
マリア―ヌの指摘通り村長は何かを隠している。
わざわざ私達に荷物を運ばせる理由があるはずだ。
他者に奪われることを想定してのことだろうか。
それならば大金の可能性がある。
しかし、大金を運んでどんなメリットが村長にあるんだ。
大金の代わりになるような代物なのか。
いずれにせよ荷物の中身を確認すればはっきりする。
「やっぱり荷物の中身を見ようぜ。少しくらいならバレやしないよ」
「それもそうだな。何を運んでいるのかはっきりさせた方が仕事もしやすい」
「いいの、タクト?」
「構わない」
ガルドは木箱の蓋をこじ開ける。
すると、中からドワーフ製の武具がたくさん出て来た。
「何だよ、これ。武具じゃないか。村長は装飾品とか言っていたよな」
「こんなにもたくさん。戦争でもするつもりなのでしょうか」
ルーンの指摘は最もだ。
1メートル四方の木箱が10箱。
全部、ドワーフ製の武具が入っている。
100人分はあるだろうか。
これならば小さな暴動ぐらい簡単に起こせる。
もしかして、この武具類は過激派に渡すつもりなのか。
「これって、もしかしてテロに使うつもりじゃ?」
「私も今、それを考えていたところだ」
反マクミニエル国王を掲げる過激派達に密輸するモノと見て間違いないだろう。
しかし、ドワーフ達はアルタイル王国にも武器を提供している。
なのに過激派に武具を密輸するのは何故だ。
「死の商人と言ったところだな」
「死の商人?」
「死の商人ってのは戦争のための武具を売ってもうける商人たちのことを言う。片一方だけに武具を提供して力の差が生まれてしまえば、すぐに決着はついてしまう。だから、両方に武具を提供して力を拮抗させるんだ。そうすることで対立を長引かせてもうけを増やすんだ」
マリア―ヌの指摘は妥当だろう。
村長が大金をかぜぐ目的はわからないが、死の商人であることに間違いはないはずだ。
ドワーフの技術は他のものと比べたら類を見ない。
ドワーフ達には武具を開発させてドワーフの技術の高める。
マクミニエルや過激派には開発した武具を提供して実際に使わせる。
そうすることでドワーフの技術力は限りなく向上して行くのだ。
自分達の技術力を高めつつ大金を稼ぐ。
村長は食えない奴だ。
「なら、私達は密輸犯ってこと?」
「そう言うことになる」
「何よそれ。人に頼みごとしておいて密輸犯にされただなんて」
エリザは顔を真っ赤にさせながら怒っている。
私達は村長のいいように利用されていたのだ。
「今からドワーフ村に戻って村長に抗議しましょう」
「それは止めておけ。私達は村長に頼まれたんだ。このまま武具を運ぼう」
「何よ、マリア―ヌ。腹が立たないの?」
「そんな些細なことで腹を立ててどうする。騙された私達が悪いのだ」
マリア―ヌらしからぬ言葉だ。
騎士道を叩きこまれて来たマリアーヌならば裏切りは許せないものだろう。
裏切りは死に値することだ。
しかし、それを何故、村長に同調するようなことを言うのか。
それはマリア―ヌはまだヴェズベルト王国の騎士であることを捨てていないからだろう。
隣国の情勢不安はヴェズベルト王国にとって有利に働く。
プリムの一件で引け目をとっているアンナ女王にとって、アルタイル王国の情勢が不安この上ないチャンスとなる。
過激派鎮圧のために兵を派遣することも可能だし補給も出来る。
何よりマクミニエル国王に貸を作れるのだ。
「タクトさん。それでいいのでしょうか。私は密輸なんてしたくありません」
私達にとってアンナ女王とマクミニエル国王の対立はどうでもいいことだ。
どちらが優位に立っても私達になんら支障がない。
しかし、アンナ女王にはプリムのことがあるからほってはおけないだろう。
アンナ女王の立場を向上させプリム救出を狙うのが妥当か。
それならば過激派に一役買ってもらう必要がある。
「みんなの心配は最もだが、このまま荷物をアレスクロへ運ぶことにする」
「本気で言っているの、タクト?」
「私達は密輸犯になるんですよ」
「俺も反対だぜ、タクト」
「いつものタクトらしくない」
口々に反対を述べるエリザ達。
一方でマリアーヌは私の意見に賛同して来た。
「私はお前の意見に賛成だ」
「「マリアーヌ!」」
マリア―ヌは私の目を見つめコクリと頷く。
やはり私が睨んだ通りマリアーヌはアルタイル王国の情勢不安を望んでいる。
マクミニエル国王の足元をぐらつかせ、過激派鎮圧に目を向けさせる。
そうすればマクミニエル国王もアンナ女王に協力を要請するかもしれない。
立場は逆転というシナリオが描ける。
この判断は私達の名目よりもプリムの救出が一番の目的だ。
周りのみんなが反対しても私は自身の決断を貫く覚悟は出来ていた。
「この判断はプリムを救出することが一番の目的だ」
「密輸とプリムとどう言う関係があるんだよ?」
私はガルド達にもわかるように考えを説明した。
政治に疎いガルドは終始反対をしていたが他のみんなは納得してくれた。
それでも村長にはひと言いっておく必要がある。
こんな風に利用されたのでは納得が行かないからな。




