9「太古の怪物」
翌朝、私はひとりギルドでみんなが来るのを待っていた。
「おっ、早いなタクト」
「おはよー」
「おはようございます、タクトさん」
「あれからひとりで戦略をたてていたの?」
「あれからって?」
つい口を滑らせてしまったエリザにガルドがツッコミを入れる。
「あ、いや、何でもないわ」
「エリザ、急に顔を赤くしてどうしたんだ?」
「な、何でもないわよ」
慌てて強く否定するエリザの様子を見て、私は少し微笑ましく思えた。
「それより次のクエストは決まったの?」
「もちろんだ。次はガーゴイルの討伐にしようかと考えている。魔法も必殺技も習得できたし、肩慣らしにはちょうどいい相手だ」
「ガーゴイルって何か強そう」
「プリシアさんの言う通りですわね。暗黒系のモンスターだし邪気に包まれているというか、そんな気がします」
「大丈夫だ。俺達にはタクトがいるんだから、大船に乗ったつもりでいればいいのさ。そうだろ、タクト」
ここに来てのガルドの単純さは励ましになる。
私とてガーゴイル討伐を軽く見ている訳ではないから、ガルドの単純さが余計にありがたく思えた。
「ガーゴイルは太陽の光に弱い。外で戦えば私達に勝機がある。それにルーンに覚えてもらった光の魔法が役に立つ」
「タクトさんに、そう言ってもらえると安心しますわ。私も次は活躍しますから」
「ルーン、その意気よ」
「それではガーゴイル討伐に向かうぞ」
私達は荷物をまとめると、街外れにあるガーゴイルが出現すると言う地下神殿に足を運んだ。
地下神殿の中には数多く冒険者達の石像が並んでいた。
どれも驚愕した表情をしており、私はふいに何か違和感を覚えた。
「何、この石像!?まるで生きているみたいじゃない?」
「どの石像も恐怖を覚えたかのような表情をしているぞ」
「何かおかしくありません?こんな石像を人間が造るとも思えませんし」
ガルド達の言う通り、石像は恐怖に満ちた表情をしている。
今にも動き出しそうで、それが返って私達に恐怖感を感じさせていた。
すると、プリシアが何かに気がついた。
「みんな、あれを見て!何か丸いものが浮かんでいるよ」
プリシアの指した方向を見ると、無数のヘビが絡みついた黒い塊が宙に浮かんでいた。
「あれがガーゴイルか?」
「いや違う。ガーゴイルは蝙蝠の翼を持った悪魔のようなモンスターだ。あいつは……」
「何でもいい。タクト、作戦を頼む!」
ガルドの注文に応えようと戦術帳に目を通すが、その手が止まる。
それは戦術帳には載っていないモンスターが目の前に現れたからだ。
「どうしたのタクト?」
「いや……何でもない」
モンスターのデーターが全くない。
そんな状況で闇雲に攻撃を仕掛けるのは危険だ。
私はけん制して様子を見てみようと考え、エリザに指示を出した。
「エリザ!ファイアーボールをモンスターにぶち込め!」
「わかったわ」
私の指示を受けてエリザが詠唱をはじめる。
すると、モンスターが姿を消し、急にエリザの目の前に現れた。
「エリザ!」
次の瞬間、モンスターは大きな目を開き、光線を放つ。
エリザは身をかがめたと同時に後ろに転げ落ちた。
「ふー、危なかったわ」
エリザはホッと一息つきながら、運の強さを実感する。
すると、ルーンが叫んだ。
「タクトさん、あれを見てください!光線があたったところが石化しています」
見ると木製の椅子の一部が石化して変色していた。
物を石化するモンスターと言えば、古文書で見たことがある。
悪魔の化身、メデューサ。だが、勇者によって封印されてたはずじゃ。
あのモンスターがメデューサならば厄介だ。
「タクト、急に黙り込んでどうしたんだ?今は戦闘中だぞ」
ここでガルド達に事実を話しても場を混乱させるだけだ。
それよりも、ここは経験に基づいた戦術を立てるのが望ましいかもしれない。
メデューサは目を開くと石化光線を放つ。
ならば……。
「プリシア!爆裂弾でモンスターを混乱させるんだ!」
「OK、任せてよ。切り裂け!、『爆裂弾!』」
プリシアが爆裂弾を放つと、メデューサの周りで破裂し混乱を誘った。
よし、メデューサが怯んでいる。
今がチャンスだ!
一気に畳み込むぞ!
「エリザ!サンダーストームでモンスターを感電させろ!ルーンはホーリーランスでモンスターを貫け!」
「「わかったわ」」
エリザとルーンが詠唱をはじめる。
すかさず、私はガルドに指示を出した。
「ガルド!モンスターの後ろから必殺技をお見舞いするんだ!」
「おうよ、タクト。この時を待っていましたー、うぉぉぉ……必殺の『爆裂剣!』」
ガルド渾身の必殺剣がモンスターを捉えたと思った瞬間。
必殺技は空を切り、土壇場でかわされる。
姿を消したモンスターは詠唱しているエリザとルーンの背後に現れた。
「エリザ!ルーン!」
私は瞬間に飛び出してエリザ達をかばう。
しかし、石化光線はエリザの左手とルーンの右肩を捉えた。
「キャァァァー」
エリザとルーンはその場に倒れ込んでしまう。
そしてモンスターは再び姿を消すと、天井に場所を移した。
あれは何だ?
高速で移動したようにも見えないし、もしかして瞬間移動をしたとでも言うのか。
まったく勝てる気がしない。
「プリシア!煙玉で視界を奪うんだ!」
「任せて。目の前を覆い隠せ!、『爆霧烈弾!』」
プリシアが煙玉を放つと辺り一面、白い煙で覆われた。
すかさず、私は撤退の指示を出した。
「みんな、ここは一旦、引くぞ!ガルドはルーンを。私はエリザを助ける」
「わかった、タクト。ルーンのことは俺に任せろ!」
ガルドはルーンを軽々と担ぎ、私はエリザに肩を貸して、その場から逃げ出した。
しんがりを務めていたプリシアは煙玉で追っ手をくらませる。
それが功を奏したのか、メデューサは追って来なかった。
地下神殿から外に出ると、私達は力尽きて倒れ込んだ。
「なんとか助かったね」
「しかし、エリザとルーンが怪我を負ってしまった」
「タクト、そんなに落ち込まないで。私達は助かったんだし」
エリザが優しさまみれの強がりを見せる。
そんな意地らしさが私の心に突き刺さった。
「とりあえず、宿に戻ろう。エリザとルーンの手当てが必要だ」
ガルドはエリザとルーンに肩を貸すと、プリシアといっしょに宿に戻って行った。
その背中を見ながら私はひとり拳を握りしめた。




