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89「取引」

アルタイル王国から北東に100キロほど離れた山奥の洞窟。

カイザルはプリムと魔水晶を持ってあいつを探していた。


「おい、さっさと歩け」

「そんなこと言ったって両手を縛られていたんじゃうまく歩けないわ。外してよ」

「俺がそんな間抜けなことをするとでも思っているのか?」


プリムは顔を顰めながら俯く。


「それにしてもあの野郎。どこにいやがるんだ。まさか、逃げたのか」

「誰が逃げたって?」


カイザルが辺りを見回していると、暗がりからあいつが姿を現す。


「アラジン。そんなところにいやがったのか。約束のモノは持って来たぞ。早く金をよこせ」

「そう慌てるな。まずは例のモノを確かめてからだ」


カイザルはプリムをアラジンに引き渡す。

アラジンは舐め回すようにプリムを見やると顎をクイっとした。

白いターバンを頭に巻いていて赤茶けた色の髪が見え隠れしている。

褐色の肌に深遠な赤い瞳が印象的な男だ。


「あんた誰よ!」

「ほう。いい目をしている」


プリムはアラジンに見つめられて頬を赤らめながら顔を背ける。

男の人に間近で見つめられて気まずかったのだ。

アラジンはプリムをよそにカイザルに催促する。


「それで魔水晶の方はどうだ?」

「ここにあるぜ」

「渡せ」


カイザルは魔水晶の入った袋を胸に抱える。

まずはアラジンが約束を守る男なのか確かめなければならない。

魔水晶を渡したら殺されるなんてことも十分あり得る。

アラジンと言う男はどんな相手なのか全くわからない内は信用しない方がいい。

そうカイザルの本能がそうさせていた。

カイザルはアラジンに取引を持ちかける。


「その前に金をよこせ。それが条件だ」

「フ、フフフ。面白いことを言う奴だ。いいだろう。金ならそこにある」


アラジンが傍に置いてあった金の袋を指さす。

カイザルは金の入った袋の中を確かめる。

中には要求通り大量の金貨が入っていた。

袋の数は全部で5つ。

ひとりで運ぶのには難儀だ。

しかし、アラジンは逃亡用の馬車まで用意していた。


「これならお前も満足だろう。さあ、魔水晶を渡せ」

「いいだろう」


カイザルは魔水晶の入った袋をアラジンの足元に放り投げる。

カイザルの用心振りは半端じゃない。

無暗矢鱈とアラジンに近寄れば命を狙われる恐れもある。

アラジンと適度な間合いをとっていればいざという時に役立つ。

アラジンは苦笑いしながら魔水晶の入った袋を確かめる。


「おい、こいつは原石じゃないか?私は魔水晶を要求したのだぞ」

「仕方ないだろ。そんなお荷物を抱えたままじゃ加工なんてできやしない」

「まあ、いいだろう。原石でもそれなりに役に立つ」


アラジンは仕方なさそうに原石を見やると袋に仕舞い込んだ。


「それより聞きたいことがある」

「何だ?」

「聖女と魔水晶を手に入れて何をするつもりだ?戦争でも起こそうってのか?」

「それはお前が知らなくていいことだ」


アラジンは心を刺すような冷たい視線でカイザルを睨みつける。

殺気だったその冷たい眼差しはカイザルの本能を刺激する。

カイザルはいたたまれない恐怖を感じ、それ以上何も聞かなかった。


「それじゃあ俺は行かせてもらうぜ。嬢ちゃん、悪く思うなよ」


カイザルはアラジンが用意した馬車に金を積み込みと逃げるように、その場から立ち去った。





「カイザル……食えない奴だ」


アラジンは逃げるように立ち去って行くカイザルを見送ると。

プリムを連れて洞窟の奥へと歩き出す。


「ちょっと、どこへ連れて行くつもり?」

「お前は知らなくてもいいことだ」

「あなたもさっきの男と同じでお金が欲しいんでしょ?お金なら好きなだけあげるわ。だから離してよ」

「フ、フハハハ。私が金目当てでお前をさらったと思うのか」


アラジンは腹の底から笑いながらプリムを見やる。

その目は氷のように冷たくて触れれば血が出るほど研ぎ澄まされているようだった。

プリムはこの上ない恐怖を覚える。

アラジンに逆らえば命はなくなると。

本能から、それを悟らされた。


「ひとつだけ教えて。私をどこへ連れて行くつもり?」

「……サンドリア王国だ」


サンドリア王国と言えばヴェズベルト王国と対立している国。

敵国に聖女と魔水晶を持って行くなんて何かを企んでいるのだろう。

聖女と魔水晶を人質に法外な要求をするつもりなのか。

それとも戦争を起こすつもりなのか。

考えれば考えるほどわからなくなる。

プリムは戦争とは無縁な生活を送り続けて来たからピンと来ないのも無理はない。

今のプリムに選択肢は何もない。

ただアラジンの言われるままに行動することしか残されていないのだ。

アラジンはプリムを引きづりながら洞窟の奥へと消えて行った。





サンドリア王国の王室でブレックスはアラジンからの吉報を待っていた。

そこへ第一騎士団長クロード・バーンが現れて伝書鳩が運んで来た書状をブレックス国王に渡す。

黒髪の短髪で爽やかな印象がある好青年だ。

漆黒の鎧と相反するような雰囲気が印象的だ。


「ほう、アラジンは聖女と魔水晶を手に入れたか。さすがと言ったところだな」


これで聖女と魔水晶を手に入れたのならばヴェズベルト王国の戦力を削ぐことが出来る。

歴代、聖女の力に頼って来た国だけに、聖女の損失は計り知れないだろう。

同時に我が軍の戦力アップに繋がる。

聖女を全面に押し出せば戦局は思いのままだ。

それに加え策士もいるのだから心強い。

先のサウスブルー戦では敗北を喫したが、次こそは勝利を納められる。


今頃、あの女王は取り乱していることだろう。

切り札を失ったのだからな。

あの女王の喚きようが目に見えるわ。


「ククク。これほどおかしいことがあるか。そうだろう」


不気味なブレックスの笑い声にクロードの顔色が変わった。

いずれにせよサンドリア王国の兵を増やす必要がある。

今の軍勢は3万。

これではヴェズベルト王国の10万には到底及ばない。

聖女の力を使ったとしても分が悪い。

アラジンの戦術がどこまで頼れるものなのかもわからない今では兵力のアップは必須だ。

報酬をエサに兵を引き抜こう。


「おい、使者を各地に派遣して徴兵して来るんだ!金に糸目は着けない!5万は用意しろ!」

「5万と言われましても、そんなに急には用意できません」

「これは頼みじゃない。命令だ!わかるな」


ブレックス国王はクロードの顔を覗き込みながらひと睨みする。

クロードは反論できることもなく頷くことしかできなかった。

そして慌てて王室を出て行った。





数か月前、アラジンは突然やって来た。


「盗賊風情のお前が私に何のようだ?」

「ヴェズべルト王国を打破するために力を貸しに来たのだ」

「力を貸すだと。笑わせるな!盗賊風情のお前に何が出来る」


ブレックス国王が声を荒げるとアラジンはクスクスと笑いながら答えた。


「ヴェズベルト王国の主戦力は聖女だ。聖女と魔水晶を奪って来てやる」

「聖女と魔水晶だと?」

「そうだ。聖女の力を頼りにしてきたヴェズベルト王国にとって聖女は欠かせない戦力だ。それを奪って来てやると言うのだ」

「ククク。お前のような盗賊風情は知らないようだな。もう、ヴェズベルト王国に聖女はいないんだよ。聖女はレイチェルと言う者が最後で途絶えたんだ」


ブレックス国王の言葉にさらに反応して苦笑するアラジン。

強かに笑い飛ばしながら言った。


「知らないのは国王様の方だな。レイチェルには孫娘がいるんだ。名をプリムと言う。私の調べでは聖女の魔力を受け継いでいるようだ」

「聖女の魔力をだと?」

「クロス城の地下で幻獣麒麟を抑えこんだらしい。力は本物だよ」


アラジンの言うことが本当なら女王はまた聖女を祀り立てるだろう。

そうなればヴェズベルトを攻略するのが遠のく。

アラジンがどこまで信用できる者なのかわからないが悪い取引ではない。

ここはアラジンの作戦に乗じて信用させるのが吉か。

それに加え策士であるアラジンを取り込むことが出来れば戦力の大幅アップできる。


「わかった。お前に聖女と魔水晶の奪還を命じる」

「ありがたき幸せ。必ずや聖女と魔水晶を奪って来ましょう」


アラジンは含み笑いを浮かべるとサンドリア王国を後にした。


「ブレックス国王様、あんな盗賊風情の者を信じていいのでしょうか?何を企んでいるのかわかりませんよ」


クロードはブレックス国王の決断を心配して進言する。

確かにアラジンの目的はわからない。

少し前まではヴェールズを狙っていたのだからな。

しかし、今の我が軍は3万と満たない。

決戦に向けて少しでも戦力をアップさせておく必要があるのだ。


「アラジンが何を企んでいようとも、私に忠誠を誓わせて見せるさ」


ブレックス国王の政治手腕は力任せだ。

若くして国王の座に就いたばかりに頼れるのは権力だけしかない。

傍にいる大臣達にも権力を振りかざして従わせている。

もちろん片手に金を握らせてだが。

それがブレックス国王の正当な権力だ。


しかし、そんな政治体制は盤石とは言い難い。

いつ寝首を掻かれてしまうかわからない恐怖にも支配されていた。

力による従事関係の中では裏切りはあたり前のように起こるものだ。

それが故にさらに力に固執する。

無限に抜け出せない悪循環に陥っているのだ。


「兵力を2万の差まで縮めることができれば、我らが勝利を納められる。ヴェズベルト王国の打倒も間近かだ」


ブレックス国王はグラスに赤ワインを注ぐとひとりで祝杯を上げた。

それは来たる戦争に勝利するための乾杯として。


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