88「名工ダウス」
魔鉱石は最下層の最深部にあった。
黒曜石のような黒光りしている鉱石で花を咲かせるかのように地中から生えている。
地面とは明らかに違うのですぐに発見出来た。
「結構あるじゃないか」
「剣を鍛え直すだけだから、たくさんはいらないわよ」
「よし、プシリア爆弾で魔鉱石の周りの土をとってくれ」
「わかったわ」
プリシアは爆弾から火薬を取り出すと魔鉱石の周りに置いて行く。
そして十分距離をとってから火薬に火を点ける。
ボムっと鈍い音を立てて爆発すると魔鉱石の周りの土が飛び散った。
「いいよ」
「どれ。結構重いな」
魔鉱石の塊は30キロぐらいの重さがある。
魔鉱石ひと塊でどれくらいの武器を強化できるのかわからないが。
とりあえず3塊を採掘することに決めた。
さっきの要領でプリシアに魔鉱石の周りの土をどけてもらう。
そして魔鉱石を採掘した。
「よし、ドワーフの村へ戻ろう」
「ちょっと待てよ、タクト。こっちへ来てみろ」
ガルドに呼ばれて近くに行くとガルドは30メートルほどある巨大な穴を覗いていた。
「これ何の穴だと思う?」
「わからないが、随分深いな」
穴の底は見えず暗闇で覆われている。
時折、ゴーと言う風の音のような鈍い音が聞えて来た。
「地の底へ繋がっているみたいだな」
「ガルド。もしかしてこの下に降りるつもりか?」
ガルドは私を見やるとコクリと頷く。
本気のようだ。
しかし、私たちの目的は魔鉱石の採掘だ。
もう、用は済んでいる。
ここで先に何があるのかわからない穴を探索するのは危険だ。
どのくらい深いのかさえもわからない。
もしかしたら強力なモンスターがいるかもしれない。
これ以上、戦闘を続けるのは体力的にも限界だ。
ガルドには悪いがここはドワーフ村へ戻ることを優先しよう。
「ガルド、この穴の探索はまた今度にしよう。今はドワーフ村に帰ることが先だ」
ガルドは終始、巨大な穴を気にしていたが、私達といっしょにドワーフ村へ戻った。
その時の私たちには知る由もなかった。
この穴の底に強大な魔物が潜んでいたことを。
ドワーフの村へ戻ると村長と村人が出迎えてくれた。
「お主達、本当に魔鉱石をとってきたのかい?」
「本当だよ。見てみろ」
ガルドは荷台から魔鉱石を降ろして村長達の足元に置く。
魔窟の最下層にいた時はそれほど気づかなかったが、太陽の光にあたると黒光りが美しい。
別名、漆黒の薔薇と呼ばれるくらいのことはある。
村長は魔鉱石を触りながら本物か確かめる。
「間違いない。魔鉱石じゃ。久しぶりに見る輝きじゃ」
「お前達、やるな。魔窟の最下層から魔鉱石をとって来るなんて」
「まあな。俺達にかかればこんなもんよ」
ガルドはガハハと笑いながら得意気に胸を張る。
今だから笑えるが、実際は必死だったことは否めない。
まあ、何にせよ目的を果たしたのだから良しとしよう。
「それじゃあ武具屋へ行こう」
「刀鍛冶ならば名工ダウスのとことへ行った方が早い。ワシが案内してやる」
村長はそう言うと名工ダウスの工房へ案内してくれた。
その道中、魔窟での武勇伝を話すと村長は関心したように大きく頷いていた。
ここ最近は魔窟に挑戦する冒険者などいなかったので、新たな勇者の誕生を喜んだのだろうか。
村長は嬉しそうに昔の話をしてくれた。
村長がまだ5歳の子供であった頃に聖戦が起こった。
各国が魔獣討伐部隊を編成し、魔獣討伐にあたらせた。
魔獣討伐部隊を指揮していたのはもちろん策士であった。
陽派が奇襲部隊を、陰派が本陣を指揮していたらしい。
ドワーフ達は武具の製造を専門に行い討伐部隊に納品していた。
しかし、ドワーフの武具、策士、討伐部隊をもってしても魔獣の勢いは止められず、戦いは長期に渡った。
多くの犠牲者が出て討伐部隊の全滅が囁かれた時、彼が現れた。
聖槍グングニルを携えて、魔獣達を封じ込めて行ったらしい。
その彼と言うのが現エルフ国を統治しているエルフ王ドエル・ド・ミクスだ。
聖槍グングニルはエルフの村の奥地に奉納されているらしい。
「その聖槍グングニルがあれば魔獣を封じ込められるんじゃないか」
「そうじゃが、聖槍グングニルはエルフ王ドエルが守っている。エルフ王ドエルは人間達と交流を持ちたがらないから聖槍グングニルを持ち出せることはないだろう」
「シケてやがるな。こっちは危機に見舞われているんだぞ。ちょっとぐらい力を貸してくれたって」
ガルドの言い分は最もだ。
世界が危機に晒されているにも関わらず、自分達は傍観をするだけなんて。
魔獣がエルフ国を襲撃することもあり得るだろう。
それでも傍観を続けるつもりなのだろうか。
エルフ王ドエル。
一度、会ってみたいものだ。
「ここが名工ダウスの工房じゃ。ダウス、おるか?」
「ぞろぞろとお供を連れて。村長、何か用か?」
工房の中から髭をモサッと蓄えた小太りな男が出て来る。
顔中を炭で汚して右手にトンカチを持っている。
仙人と言うよりも偏屈な親方と言う言葉が似合いそうな風貌だ。
「この大剣を鍛え直して欲しい」
ガルドが大剣を差し出すとダウスは大剣を突き返す。
「俺は認めた奴じゃないと仕事はしない主義なんだ。帰ってくれ」
「認めるって何だよ。俺じゃあ役不足って言いたいのか」
「ガルド、止めておけ」
私はダウスに掴みかかるガルドを止める。
そして、ダウスの前に魔鉱石を差し出した。
「この魔鉱石を使って剣を鍛え直して欲しい」
「魔鉱石?どこでこいつを?」
「魔窟ってところから採掘して来たんだ」
ガルドが誇らしげに言うとダウスは疑うような目つきで魔鉱石を確かめる。
そして本物だということに気がつくと急に態度を変えて来た。
「いいだろう。その大剣を鍛え直してやろうじゃないか」
「ぜひ頼むよ」
「これも頼む」
マリア―ヌが自分の剣を刺し出す。
ダウスはマリアーヌの剣をじっくりと眺めて傷み具合を確かめる。
そしてうんうんと頷きながら言った。
「これで全部か?」
「とりあえずこの2本だけ鍛え直してもらえればいいよ」
「それよりどれぐらいで出来るんだ?」
「1週間もあればできる」
それなら1週間はモンスターの討伐は出来ないな。
このところ戦いが続いていただけに良い休息になるだろう。
しばらくドワーフの村に滞在して情報を集めよう。
「なら、1週間後にまた来る」
そう言い残して私達はダウスの工房を後にした。
「1週間も何をするんだ?」
「とりあえずプリム達の情報収集だ。もしかしたらドワーフ村に立ち寄っているかもしれない」
「プリム様の情報収集は私に任せておけ。お前達は宿屋で待機していてくれ」
「ひとりで大丈夫なのか?」
「ひとりの方が動きやすい」
そう言うとマリアーヌはひとりでプリムの情報を収集しに向かった。
「宿屋で待機って言われてもやることがないよな」
「とりあえずギルドに行くってのはどう?」
「そうだな。モンスターを討伐した報酬をもらいに行くか」
ドワーフ村のギルドには冒険者はほとんどおらずドワーフばかりが目立っていた。
なにせ大抵の用事はアルタイル王国で済んでしまうため、ドワーフ村に立ち寄る冒険者は少ないと言う。
私達はさっそく討伐の報告を済ませるとギルドの受付は疑うような目つきで見返して来た。
それも無理はない。
何せ魔窟のモンスターを全て討伐して来たのだ。
内訳は、地走りが100体、ブロックタートルが30体、溶岩石が10体、火炎獣王が20体、火竜が30体。
逃げ出したモンスターは数に入れていないが、それでもこの数だ。
驚かれるのも無理はない。
報酬金は地走りが100万ゴールド、ブロックタートルが30万ゴールド、溶岩石が30万ゴールド、火炎獣王が60万ゴールド、火竜が150万ゴールドの計370万ゴールド。
一度には払いきれない金額だということで分割でもうらう契約を済ませた。
とりあえず大剣を鍛え直してもらう金額と宿代を考慮して50万ゴールドを受け取った。
残り320万ゴールドはおいおい受け取ることにする。
ちなみに他のギルドへ行っても稼いだ報酬はもらえるようになっている。
冒険者達は各地を転々とすることを考慮しており、ギルド連盟が取り決めたことなのだ。
今回の魔窟攻略で私達は随分とお金持ちになってしまった。
遊んで暮らせるような破格な値段だが、それは魔獣討伐する時までの軍資金にしておくつもりだ。
戦争になれば大量の資金が必要になる。
国が資金を捻出することになるが、それを補てんする形で使えるだろうとの狙いだ。
まあ、320万ゴールドくらいじゃぜんぜん足りないのだけど。
「大金も入ったし、飲みに行こうぜ」
「そう来ると思った」
私達はその足でドワーフ村の酒場へ向かい自慢の酒を嗜める。
ドワーフ村の酒は琥珀色の酒でシュワシュワとしている。
のど越しが非常に良くて舌で味を楽しむよりものど越しを楽しむための酒だった。
私達は心行くまでドワーフ村の酒を楽しんだ。




