83「魔窟①」
翌朝、服飾店でオーダーメイドの服を手に入れて魔窟へ向かう。
注文通り寸分違わぬ出来栄えで通気性も良い。
さすがはドワーフの手仕事だ。
魔窟までは馬車で半日の距離。
途中、モンスターと出くわすことなく辿り着けた。
「こいつが魔窟の入口か」
「まるで地獄へ入るかのようね」
魔窟は岩肌むき出しの大きな山で10メートル四方の大穴が空いている。
馬車でも難なく通れる大きさだ。
中からはもわんとした熱風が吹いて来る。
入り口にも洞窟の中にも、まったく生命の伊吹は感じられない。
赤茶けた岩肌がむき出しになっていてゴツゴツしている。
まさに地獄の入口のような雰囲気があった。
「ここからは気を引き締めて進もう」
私達は馬車から降りると馬を引いて歩いて行った。
そのまま進んでもよかったのだが、馬の体力の消耗も考えなければならない。
体力の消耗が激しければ、それだけ休憩の数も増える。
果たしてモンスターだらけの魔窟の中でゆっくりと休憩がとれるものなのかさえ疑問符がついるが。
魔窟の中は広い空洞になっていて所々、地面が赤く光っている。
溶岩が地下に流れているらしく、地面は熱を持っている。
焼けるほどではないが、ゆで卵ができるくらい熱いだろう。
「熱いわね」
「蒸し風呂にいるみたいだ」
じわっと汗がにじみ出す。
いくら通気性が良くなっても、この暑さでは敵わない。
私達は足を止めエリザの氷の魔法で涼む。
魔力を調節してひんやりとした冷たい風を吹き出させる。
生きかえるようだ。
途中、途中でこまめに休憩をとらないとすぐに干上がってしまうな。
と、カサカサと何かが擦れるような音がして来る。
それはひとつではなく複数の音。
地を伝うように薄暗い洞窟の中で不気味な音を立てる。
不意に辺りを見回すと地走りの群れが周りを取り囲んでいた。
「地走りだ!」
――地走り――
種類:群れで行動する巨大百足
全長:3メートル
知性:低い
耐性:なし
弱点:光の魔法に弱い
特徴①:毒針を持つ
特徴②:素早い
生息場所:魔窟・第一階層
倒し方:頭部を切り落とす
数にして100はくだらない。
ガサガサと密集しながらうごめいている。
こちらにはまだ気づいていないよう。
辺りが薄暗いからなのか視力が弱いからなのかはわからないが。
今がチャンスだ。
「百足じゃない。気持ち悪い」
「あの何本もある足が余計に気持ち悪さを現して入ますわね」
「そうかな。私はカワイイと思うけど」
どこがだ。
プリシアの感性は全く理解できない。
それより、この数の地走りを相手にするのは分が悪い。
光の魔法に弱いのならばルーンのレイで全体攻撃をするのが得策だ。
レイでダメージを与えてから弱ったところを個別にとどめをさす作戦で行こう。
「ルーン。レイの魔法で地走りにダメージを与えてくれ」
ルーンは祈るように両手を組むと詠唱に入る。
「ガルド、マリアーヌ、プリシア。ルーンの詠唱が終わるまで時間を稼いでくれ」
「任せておけ。こんな奴ら奥義を使うまでもない」
ガルドは地走りに向かって駆け出すと大剣を振り払う。
「食らいやがれ!『爆裂剣!』」
同時に地走りが素早く反応して爆裂剣をかわす。
この反応の早さは本能からなのか。
弱いモンスターほど危険感知能力が高いものだ。
捕食者から身を守るためには素早く危険を感知しなければならない。
そうすることで自然の中で生き残って行く。
生存競争の中で地走りが身に付けた能力のひとつなのだろう。
ガルドの爆裂剣は空を切り不発に終わった。
「俺の爆裂剣をかわしただと!」
「見た目以上に素早いな」
「呑気なこと言っている場合じゃないみたいだよ」
地走りはガルドを取り囲むと毒針を突き立てる。
そして波のようにうねりながら押し寄せて来る。
ガルドはみるみるうちに地走りに囲まれて行く。
それはまるでミツバチが天敵のスズメバチを取り囲んで殺すような光景だ。
「そんなの攻撃食らうかよ」
ガルドは大剣を振り回して地走りの毒針を弾く。
しかし、地走りはガルドの隙を狙って毒針を突き立てる。
毒針はガルドの手足を掠めて突き抜けた。
「くぅ……」
ガルドは片膝をつき倒れ込む。
毒が体に回ったようで体に力が入らないよう。
みるみるうちに青ざめて行き震え出しはじめた。
地走りの毒は即効性があるようだ。
「おい、お前。このままだと彼奴がヤバいぞ」
「ルーン。アンチデットでガルドの毒を癒してくれ」
「わかりましたわ。混濁に染まりし吾子の、瞳より零れし雫で、かの者を浄化せよ『アンチデット!』」
光の魔法陣が浮かび上がると、ガルドの傷口に光の粒子が集まる。
キラキラと輝きながら地走りの毒を浄化させて行った。
しばらくするとガルドの血色がよくなって行く。
「すまねえ、ルーン」
「気になさらないでください、ガルドさん」
「安易に飛び込むのは危険だな」
密集して攻撃して来る相手にどう立ち向かうのか。
まずは、氷の魔法で動きを封じるのが一番いいが、思いの外地走りは素早い。
普通に魔法を放っても、動きを止める前に攻撃をかわされてしまうのがオチだ。
密集したところを狙えば効果的なのだが、誰かがおとりにならなければならない。
ガルドは何か気づいたように私を見やる。
そして、
「俺はタクトを信じているぜ」
そう言ってニコリと笑って親指を立てた。
ガルドの決断のよさに救われる。
後先考えていないように見えるが、それは間違いだ。
いざという時に頼れるところがガルドの良いところ。
ガルドをおとりに使うにしても地走りの攻撃を防がなくてはならない。
それにはプロテクションの魔法が有効だ。
ガルドを包み込むようにプロテクションをかけて防壁をはる。
そしてガルドをおとりにする。
地走りが密集したら、氷の魔法で動きを止める。
そして一匹ずつとどめをさす。
地道だが、この戦術ならば地走りを一網打尽に出来るはずだ。
「よし、ルーン。ガルドの周りにプロテクションをかけてくれ」
「天より降り注ぎし光、星光の束となりて、かの者を守らん『プロテクション!』」
ガルドを包み込むように光の壁が競り立って行く。
「ガルド、地走りの群れへ飛び込め!」
「おとりって訳だな。いいぜ、いいぜ。おら、お前らかかってこい!」
ガルドは大剣を振り回しながら地走りの群れに飛び込んで行く。
それに応えるかのように地走りは毒針を突き立てながらガルドを包み込んで行く。
すぐに地走りの球体が出来上がった。
地走りは頻りに毒針を突き立ててガルドを仕留めようとする。
それは自分達のテリトリーに侵入して来た者を排除するかのような勢い。
しかし、プロテクションに阻まれて弾かれてしまう。
「狙い通りだ。エリザ、ダイヤモンドダストで地走りを凍らせてくれ」
「零氷が紡ぎし雫、氷雪の飛礫となりて、空間を切り裂け『ダイヤモンドダスト!』」
地走りを取り巻く空気中の無数の水滴が氷に姿を変える。
パチパチと小さな破裂音を出しながら地走りの体を凍らせて行く。
それはまるで氷に閉ざされた地球のような光景だ。
氷に阻まれて地走りは沈黙した。
「マリアーヌ、プリシア、地走りにとどめをさしてくれ!」
「やっと私の出番か。苦しまなずに逝かせてやる『霧雨!』」
マリアーヌは地走りの球体に目がけて無数の連撃を放つ。
太刀は氷にひびを入らせ地走りと共に粉々に砕け散る。
さすがはマリアーヌだ。
動きに無駄がない。
次いでプリシアが爆弾を投げつける。
「粉々に砕け散れ!『爆裂粉砕!』」
爆弾が地走りの球体に触れると爆発を起こし氷を粉々に砕く。
これならばわざわざ地走りの頭を切り落とすまでもないな。
「マリアーヌ、プリシア。じゃんじゃんやってくれ!」
マリアーヌとプリシアは必殺技を放ちながら地走りを粉々にして行く。
10分もしないうちに地走りの残骸の山が出来上がった。
「プロテクションさまさまだな」
「ガルド、無事だったの。よかった」
「心配してくれていたのか、エリザ」
「地走りの毒にやられちゃうくらいだったからね」
「あれはちょっと油断しただけだ」
まあ、いずれにせよ第一関門は突破出来た。
第一階層でこれだけ手こずるくらいだから最下層に行ったらどれほどの強者が出るのだろう。
なにせモンスターの巣と言うぐらいだからな。
剣技も魔法も強化して対策はとって来たから心配はしていないが。
それでも油断はしない方がいいだろう。
私達は地走りの残骸を残して奥へ進んだ。
第一階層は広く中々出口に辿り着かない。
そればかりか奥へ進むほど蒸し暑くなって行った。
上を見上げればゴツゴツとした岩肌が広がっている。
人の手で造り出したモノではなく、自然に出来た空洞のようだ。
おそらくここは昔、溶岩が流れていたのだろう。
それを表すかのように冷えた溶岩石が辺りに転がっていた。
「第二階層まではまだまだ距離がある。この辺りで休憩をしよう」
「エリザ、氷を頼む」
「私の魔法はそんなものじゃないのよ」
ブツクサ文句を言いながらエリザが魔法で氷を造る。
エリザの魔法がなければ、このダンジョンの攻略は難しいだろう。
数多の冒険者が寄り付かなかったのも頷ける。
「しかし、第一階層であれだけの数の地走りがいるなんて想定外だったな」
「もう長い間、ここへは冒険者達が近づかなかったのだろう」
「その間に繁殖をしていたってことですね」
「天敵はいなさそうだし、繁殖に都合の良い条件が揃っていたようね」
「地走りを捕まえてペットにしたかったな」
プリシアの言葉は置いておいて。
そう考えて行くと他の階層も同じような状態になっていると見た方が無難だ。
モンスターが大量に発生していると。
これからの戦いは思っている以上に困難なのかもしれない。
気を引き締めて行く必要がありそうだ。




