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82「ドワーフの村」

ドワーフ村の入口にはアルタイル王国からの派遣された警備兵はいなかった。

何でもドワーフの村長のゼフが街の景観が崩れると言って断ったようだ。

マクミニエル国王はドワーフ達からの支持を得ていると言っているが、実際はそうでもないらしい。


ドワーフの村は村と言うよりも発展した街だった。

周囲は高い外壁で覆われていて堅牢な門は自動で開閉するようになっている。

アルタイル城と同じで外壁の周囲には堀が設けられていて外敵の侵入を阻んでいる。

堀の水も近くの湖から引いて来てあるので水が循環されていてきれいだ。

街の中は碁盤目状に区画整備されていて用途ごとに店が集まっている。

これもアルタイル王国に見られた設計と同じ。

アルタイル王国は、このドワーフの村を元にして設計されたのだ。


「これが本当に人間の手によって造られた街なのか」

「実際はドワーフだけどな」


私達が辺りをキョロキョロと見まわしているとドワーフの子供が声をかけて来た。


「ねぇねぇ。おじちゃん達、どこから来たの?」

「おじちゃんとは失礼な。俺はこう見えてもまだ24だぞ」

「そんなことより、どこから来たの?」


ドワーフの子供は目を輝かせながら私の服を引っ張って来る。


「私達はグルンベルグからやって来たんだよ」

「グルンベルグってどこ?」

「ここから北西にいったところにある国」


私が指をさして説明するとドワーフの子供は今度はプリシアに絡む。


「ねぇねぇ、お姉ちゃんドワーフだよね?」

「私はドワーフだけどただのドワーフじゃないわ。ハーフドワーフよ」

「ハーフドワーフ?」


プリシアの言葉にきょとんとした顔を浮かべるドワーフの子供。

要領を得ていないようで頭の中がちんぷんかんぷんのようだ。

まあ、ドワーフの子供にハーフドワーフのことを説明しても理解できないだろう。

簡単に言えばプリシアもドワーフなのだから。


「それよりこの街に武具屋はある?」

「武具屋ならあっちにあるよ」


ドワーフの子供は武具屋まで私達を案内してくれた。

私はごほうびにチョコレートを渡すとドワーフの子供は喜んで駆けて行った。


「おい、店主はいるか?」

「何だい、あんたら」

「この剣を鍛え直して欲しいんだが」


武具屋の店主はカウンターに置かれたガルドの剣の傷み具合を確かめる。

うーん、うーんと唸りながらじっくり眺めていた。


「で、どうなんだ?」

「鍛え直すことは簡単だが、魔鉱石がないとな」

「魔鉱石?」


店主の話によれば魔鉱石は魔力を持った魔石のような鉱石のこと。

鋼よりも丈夫で鉄よりも柔らかいと言う性質がある。

そのため加工しやすく武具類、装飾品、工芸品などに加工されていると言う。

この近くの鉱山で採掘されていたのだが、採掘され尽くしてしまい今では魔窟の最下層にしかないそうだ。


魔窟と言うのはドワーフの村から北に行ったところにある大きな洞窟。

その名の通りモンスターがうじゃうじゃいて普通の人じゃ入れないらしい。

魔窟は全部で5階層からなっていて最下層の奥には巨大な穴が空いているそうだ。

まさに地獄の入口ってところか。


「魔窟に行けば魔鉱石はあるんだな?」

「お前さん達、本当に魔窟に行くのか?」

「もちろんだ」


私がそう断言すると店主は難しそうな顔をして、


「なら、これを持って行け」


店の奥から大きな箱を持って来た。


「何だよこれ?」

「冷凍器だ」

「冷凍器?」

「この中に食べ物を入れておけば腐らない。魔窟はジメジメして熱いところだからな。そのまま食べ物を持ち込んだら、すぐに腐ってしまう」

「ありがたくもらっておくよ」


冷凍器も魔鉱石でドワーフ達が作ったもの。

氷の魔力を持った魔石と合わせることで食べ物を冷やす仕組み。

これならばエリザの氷の魔法を酷使しなくて済む。

ありがたいものだ。


「魔窟には馬車で入れるから食料は多めに持って行くんだぞ」

「わかったよ」


私達は武具屋を後にするとさっそくギルドへ向かった。

魔窟に出現するモンスターの情報を集めるためだ。

ギルドもドワーフが運営をしている。

ドワーフ村ではドワーフ達が店を切り盛りしているのだ。


「どれどれ。地走りにブロックタートル、溶岩石、火炎獣王、火竜か」

「どれも強そうだな」

「火炎攻撃に耐性がある共通点を持っている。火炎攻撃以外を強化しておけば何とかなるかもしれないぞ」

「マリアーヌの言う通りだ。魔窟に向かう前に魔法と剣技の強化をしておこう」


氷の魔法が弱点のモンスターもいる。

まずはエリザに氷の魔法最強魔法であるドラゴンブレスを覚えてもらおう。

ルーンには念のためリザレクションを覚えておいてもらおうか。

蘇生魔法があれば万が一のことがあっても対応できる。

ガルドには氷霜剣、マリア―ヌには五月雨。

どちらも氷属性の付加価値かつくから大ダメージを期待できる。

最後にプリシアは雷撃弾の習得だ。

この技は雷属性と麻痺を期待できる。

今回は奥義の習得はしないが、敵の弱点をついた攻撃ならば必殺技でも十分だ。


魔窟での戦いは長丁場になることが予想される。

途中で休憩できる場所などなく、その場で休憩をとることになる。

常にモンスターの危険に晒されている状態だ。

それに最下層に近づく度にモンスターも強くなる。

予め準備を整えておくことが重要だ。


魔窟に民間人を連れて行くのは危険だ。

馬車だけ借りて馬車は私が運転することに決めた。


「これで準備は整ったな。他に何かあるか?」

「それなら服飾店に寄ってもらえますか。私達の服飾も強化しておきたいので」

「わかった」


魔窟のモンスターは炎の攻撃をするモンスターがほとんどだ。

だから、火炎耐性のある服飾を用意する必要がある。

それと蒸し暑いらしいから通気性も考慮しなければならない。




「おばさん、火炎耐性のある服はありますか?」

「おばさんて私のことかい。失礼しちゃうね」

「タクト。失礼じゃない」


私はエリザといっしょに頭を下げて謝る。

ふくよかな店の女店主は文句を言いながら服を持ってくる。


「これが家にある火炎耐性を持った服だよ」

「いろいろ種類があるじゃない。選ぶのに迷っちゃうわ」

「でも、私はこの服が気に入ってますからオーダーメイドがいいですわ」

「私も」


ルーンとプリシアはくるりと回って見せる。


「オーダーメイドもできるわよ」

「それじゃあオーダーメイドでお願いします」

「私も」

「なら、私もお願いするわ」

「無論、私もだ」


仕上がりは一日で完成するらしい。

火炎耐性と通気性のことを伝え注文を終える。

ついでに私の服も頼み服飾店を後にした。


「一通り準備もできたし、飲みにでも行こうぜ」

「ガルドは飽きないな」

「俺にとって酒は血のようなものだからな」





酒場はドワーフ達で賑わっていた。

ほとんど冒険者はいなくて私達が逆に目立ってしまう。

私達は慣れたようにカウンターに腰をかけ酒を頼んだ。


「おやじ、この店で一番うまい酒をくれ」

「家はどの酒もうまいよ」


そう言ってマスターは一番人気の酒を出して来た。

ガルドはグラスを手に取ると、まず酒の香りを楽しむ。

そして一口口に含むと舌で酒の味を確かめる。


「うん。これはうまい。まったりとした酒にほのかな甘みを感じる。これは芋を使っているだろ」

「よくわかったな。この酒は芋を材料に造った酒だ。献上酒だから一級品だぞ」


私も勧められるがままに酒を味わう。

ガルドの言う通り極上の味わいだった。


「お前さん達は冒険者だろう。何しにこの街へ来たんだ?」

「剣を鍛え直しに来たんだ」

「魔窟へ行くのか。魔窟のモンスターは強いぞ」

「大丈夫さ。強化は済ませたからな」


ガルドは勝ち誇ったようにマスターに言った。


「それよりもマスター。何でこの村にはアルタイルの警備兵はいないんだ?」

「村長が断ったのさ。表向きはアルタイル王国に保護されているが、裏ではただ剣を突きつけられているに過ぎない。マクミニエルはドワーフの技術を独占したいだけなのさ」

「ドワーフの技術を独占することによって稼いでる訳か」

「そう言うことだ。ドワーフはマクミニエルを支持していない。ドワーフは政治に疎いし、軍事力も持っていないから奴らのいいようにされているだけだ」


どの国も実情は変わりないようだ。

国の発展を掲げて税を徴収する。

そして得た資金を軍事強化に使う。

軍事力を強化すれば優位に立てる。

しかし、隣国をけん制したところで民衆にはなにも得られるものがない。

そんな政治姿勢が民衆からの反発を買い過激派を生み出す。

そして土台から政権を揺るがせるのだ。


「ドワーフ達は異文化との交流を望んでいるのか?」

「もちろんだ。異文化と交流を持てばドワーフの発展につながる。マクミニエルのように異文化交流を断っていれば衰退していくだけだからな。現にブルム地方のエルフ族がいい例だ。エルフ族は今だに狩猟生活をしているらしいからな」


ブルム地方は大陸の北方に浮かぶエルフ族の国。

他国と交流は持っておらず自給自足の生活をしているらしい。

しかし、エルフ族も一枚岩ではない。

異文化に興味を持ちブルム地方を離れるエルフもいる。

クロースがいい例だ。

クロースも異文化を求めてブルム地方から旅立った。

そしてガルド達と出会い行動を共にしていたのだ。


「政治とは難しいものだな」

「おい、タクト。シケたことを言うなよ。酒が不味くなる」

「そうだ。今は全て忘れて酒を楽しもう」


私達の宴は夜が更けるまで続いた。


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