表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/178

80「思惑」

マクミニエル国王は険しい顔を浮かべながら第一騎士団長アトス・ゲシュタルトに尋ねる。

襟足の長い焦げ茶の髪に豊な顎髭を蓄えている。

見た目は30代ぐらいだが、まだ若干26歳の若者だ。


「カイザルと言う男は見つかったか?」

「いえ、まだでございます」

「サラーニャの小娘が持ち込んで来た問題だ。適当にあしらっておけ」


マクミニエル国王にとってアンナ女王の陳情書など全く興味がない。

カイザルひとりを捕まえたところで何ら得られるものはないからだ。

まあ、あの子娘に貸しを作る上ではいい材料であることは間違いないが。

交易では既に協定が結ばれているので自由に輸出入が行われている。

それは表向きの話で、裏では厳しい検閲を敷いている。

ドワーフ村を保護しているマクミニエル国王にとってドワーフの技術流出は避けたいところだ。

ドワーフの技術を保護することで独占権を得ている。

それが流出にもなれば儲ける仕組みが失われてしまう。

求心力を失うばかりか政権すら維持できなくなるだろう。

ドワーフの存在はマクミニエル国王にとって政権を維持する命綱なのだ。


「それよりもだ。過激派の動向はどうだ?」

「今のところ目立った動きはしていません」


今、アルタイル王国は二つに分かれている。

ひとつはマクミニエル国王を支持する保守派。

もうひとつはマクミニエル国王の打倒を掲げている過激派だ。

過激派は度々、集会を開いては各地でテロを起こしている。

それはマクミニエル政権を混乱させることが目的で、いづれは政権の奪取を図っている。

マクミニエル国王は各地に騎士団を派遣し、過激派の活動を抑えている。

とりわけ隣国から過激派が入り込まないように国境の検閲は厳しくさせているのだ。


子息のいないマクミニエル国王は王位を継承させる者がいない。

そのことがアルタイル王国の最大の問題になっている。

マクミニエル国王はドワーフから後継者を選ぶ段取りをしているようだが、そのことは保守派からも反対意見が出ている。

長い間、ドワーフを虐げて来た保守派からすれば、ドワーフが国王になることによってので復讐されるのではと言う恐れがあるのだ。

しかし、実際のところドワーフは全く気にとめていない。

政権うんぬんよりも自分達の生活が守られることの方が大事なのだ。


「過激派はこの国を狙っている。何としてでも壊滅させるのだ」

「はっ」


第一騎士団長のアトスは敬礼をして王室を後にした。





アトスはアルタイル城を後にして騎士団領へと足を運ぶ。

アルタイル城の周りは深い堀で覆われていて敵の侵入を防ぐ造りになっている。

マクミニエル国王が直々に設計した造りで鉄壁の守りを誇る。

騎士団領はアルタイル城から少し離れたところにあった。


「老いぼれめ。食えない奴だ」


アトスは自室に入ると鍵をかけてソファに腰を下ろす。

この部屋には部外者を入れたことがない。

なぜならばマクニミエル暗殺のための情報が集まっているからだ。

過激派とは伝書鳩を使って情報のやり取りをしている。

もっぱらアルタイル城に配属されているアトスにとって過激派と直接会うすべがない。

だから、暗号化した文書で連絡をとっているのだ。


過激派のやり取りを繰り返していてから時間が経つが、一度もバレたことはない。

マクミニエル国王から絶大な信頼を受けているだけに疑う者は誰もいないのだ。

それはアトスだけが過激派の息のかかった者であることが一因だろう。

もし、他に過激派の息がかかった者が騎士団の中にいたらとしたらすぐバレてしまう。

アトスは徹底的に自分の素性を隠し、経歴も過去も変えているのだ。


「もっと老いぼれの目を他に向けさせなければならないな。サラーニャのババアの一件はいい材料になるのだが」


アトスは机に腰をかけてペンを走らせる。

ひとつは同胞に向けた伝達書。

内容はこうだ。

一つ、集会と活動の自粛。

二つ、活動資金の調達。

三つ、武力の強化。

以上の三つを粛々と進めることを記した。


最近、マクミニエルの警戒心が強くなりつつあり各地の警備も厳しくなっている。

表立って集会や活動を起こせば、すぐに粛清されてしまう。

それだけは避けなければならない。

その裏で活動資金の調達と武力を強化は粛々と進める必要がある。

来たる決戦へ向けての準備は着実に行うのだ。


もうひとつは騎士団へ向けた命令書。

内容はこうだ。

一つ、カイザルと言う男の拘束。

二つ、カイザルと言う男の身元調査。

三つ、ヴェズベルト王国の調査。

以上の三つを徹底するように記した。


カイザルと言う男を拘束すればマクミニエルの注意を惹きつけられる。

サラーニャのババアも動き出すだろう。

サラーニャのババアが何でカイザルと言う男に固執しているのには裏があるはずだ。

カイザルと言う男の身辺調査を行い、ヴェズベルト王国の調査も行えばば何かしら掴めるだろう。


これはアトスに訪れたチャンスなのだ。

マクミニエルを亡き者にし、政権を奪取させる。

過激派の明日も近い。


「頼んだぞ」


アトスは伝書鳩の足に伝達書を巻き付けると空へ放った。





その頃、ヴェズベルト王国ではアンナ女王が吉報を待っていた。

落ち着かない様子でウロウロしながら第二騎士団長エミリア・マグワースに尋ねる。


「まだプリムの行方はつかめないのですか?」

「はっ。依然プリム様の行方は掴めずです」


アンナ女王は冷徹な眼差しでエミリアを見やる。

赤毛のショートボブの髪型に白銀の鎧を身に纏っている。

快活な印象を与える美人だ。


「カイザルの方はどうです?」

「それも情報が届いていません」


アンナ女王は感情に任せて机を叩いた。

エミリアは身を竦ませて表情を変える。

アンナ女王がここまで感情を露わにすることはない。

いつでも冷静で沈着に振る舞っている。

それは部下達に動揺を与えないためだ。

しかし、静寂の女王と呼ばれるアンナ女王もプリムのことになれば別問題。

プリムと言うよりは聖女なのだが。


アンナ女王も聖女を祀り立てて軍事力を強化させることが目的だ。

それは来る聖戦へ向けた準備でもあるが、一番の狙いはブレックスへのけん制の意味合いが強い。

ブレックスはところ構わず軍事力を強化させている。

自らの権力を強めて求心力を確保するためなのだが。

若き国王には力こそ全てなのだ。

いずれまたヴェズベルト王国に侵攻してくるだろう。

そのためにも聖女を取り戻さなければならない。


「ミッドガルへ調査隊を派遣しなさい」

「それではアルタイル王国へ介入することになってしまいます」

「騎士を派遣するのではありません。行商人を装って入国させるのです」

「しかし……」


アンナ女王の無理な要求にエミリアは言葉を詰まらせる。

アルタイル王国への介入は戦争への前兆になりかねない。

そのことは重々承知している。

しかし、マクミニエルの関心は政権の維持だ。

二つに分かれた派閥によってアルタイル王国は揺らいでいる。

いずれ過激派の襲撃を受けるだろう。

その時は騎士団を派遣してマクミニエルに貸しを作るのもいい。


「女王様に意見をするのは恐縮ですが、調査隊の派遣には反対です」


エミリアの返事にアンナ女王はカッと目を見開く。


「あなたは私に意見をするのですか?」

「この国を思う私、個人の意見です」

「あなたもマリアーヌに似て来ましたね。調査隊の派遣の件は考えておきましょう」


エミリアはホッと胸を撫で下ろす。

マリアーヌが第一騎士団から除隊してからはエミリアが女王の側近として働いていた。

マリアーヌとまでは行かない手腕だったが、アンナ女王への忠誠は確かなものだ。

この国のことを第一に考えていて、時にアンナ女王にも意見をする。

そんな関係性がヴェズベルト王国の強みになっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ