8「ルーンの秘密」
私達はギルドの酒場で祝杯をあげていた。
「経験値が溜まって来たから、そろそろ新しい魔法を覚えたいのだけれど」
「それは私も思っていました。今のままじゃ強いモンスターと戦うのは難しいですし」
「そうだな俺も必殺技が使えるようになりたい。タクト、いいだろう?」
この世界ではモンスターを倒すと経験値が溜まって行く。
その経験値を消費するれば魔法や剣術を強化できるのだが、どう強化するのかは、今後の戦術に関わって来るだけに慎重にならなければならない。
「強化するのには賛成だが、何を覚えるのかは私の意見も反映してもらいたい」
「わかったわ」
私の提案に反対する者はいなかった。
「これから戦っていくモンスターはより強くなって行く。そこでみんなに覚えてもらいたいのは上位の魔法や剣術だ。当面は暗黒系のモンスターが多くなるから、エリザには炎、氷、雷の魔法を強化してもらいたい」
「了解」
エリザは私の注文に素直に答えた。
「ルーンは光の魔法の強化だ。これからは支援だけでなく攻撃も任せたいと思っている」
「わかりましたわ」
ルーンも素直に了承した。
「ガルドとプリシアは必殺技の習得だ」
「俺が必殺技の習得はわかるが、プリシアにも必殺技があるのかよ?」
ガルドは素っ頓狂な顔で質問して来た。
「勿論だ。この前、ゴーレム討伐の時、繰り出した技も必殺技の一つだ」
「何だよ、俺だけ何も使えなかったのかよ。戦力外じゃないか」
「これからは違う。頼りにしているぞ」
ひとり項垂れているガルドに励ましの言葉を言うと、すぐに機嫌を良くした。
こういう単純なところがガルドの良いところだ。
魔法や必殺技の習得には、これと言って修業が必要ないところが便利だ。
武器に溜まったポイントを習得したい魔法や必殺技に振り分ければ、それで済む。
味気も何もないと言ってしまえばそれまでなのだが、時間に追われる冒険者にとってはかけがえのないものだ。
しかし、魔法や必殺技を覚えたからと言って、すぐには使いこなせない。
使いこなせるようになるまでは、それなりに経験を積まなければならないのだ。
「それでは、明日からの冒険に備えて私は先に休ませてもらうぞ」
机の上の戦術帳を見ながら、私はひとりこれからのことを考えていた。
「これからの戦いは、今までのようにリズムよくはいかないだろう。このところ勢力を増して来ている暗黒系のモンスターが相手だ。ただでは済まない。以前のクロースのようなピンチに見舞われることも考えられる。それも含めて戦術を考えなければならない。責任は重大だ」
戦術帳に載っている暗黒系モンスターはどれも強いものばかり。
弱点はあるのだが、特殊能力を備えているものが多い。
戦い方次第では、こちらが不利になるので気を引き締めて行かなければ。
「それにしてもルーンが気がかりだ。あそこまで感情的になるなんて珍しい。やはりクロースの死が大きく影響を与えているのだろうか。私との信頼が崩れれば空中分解なんてこともあり得る。それだけは避けなければならない。私にも果たさなければならない使命があるのだ」
私はグラスを手に取ると酒を注いだ。
すると、静かに扉が開きエリザが入って来た。
「どうしたんだエリザ?」
「実はタクトに話があって……」
エリザは神妙な面持ちで私の顔色を伺っている。
「ルーンのことなんだけど……」
「ルーンがどうした?」
私の問いかけにエリザは話しずらそうな様子を見せる。
そして、静かに口を開いた。
「これはタクトが仲間になる前のことなんだけど……。ルーンは昔、クロースと良い仲だったのよ。それがあのゴブリン討伐のことでしょ。ルーンはすっかり自信をなくしちゃって。私達の前では普通にしているけれど、本当は崩れるぐらい気持ちが揺れているの。だから、これから一緒にやっていけるかなって思ってさ」
「そんな過去があったのか……だから、ゴーレム討伐の時、あんな感情的になったんだな」
エリザはコクリと小さく頷くと訴えるような目で私を見つめる。
しなやかな体を小刻みに震わせながら。
私はそっとエリザの肩を抱き寄せると優しく包み込んだ。
「エリザ、心配することはない。ルーンなら大丈夫だ。私達が守ってやればいいだけだ」
「ありがとう、タクト……」
と、その時、勢いよく扉が開きプリシアが入って来た。
「タクトぉ……そんなところでぇ、何をしているのぉ……」
「誰だ、プリシアに酒を飲ませたのは?すっかり出来上がっているじゃないか」
プリシアはよろめきながら千鳥足で近づいてくると、そのままベッドに倒れ込んだ。
「タクトぉ……もう、飲めないよぉ……」
私とエリザは顔を見合わせると、プリシアに毛布を掛けて静かに部屋を出て行った。
「部屋を追い出されちゃったしタクト、これからどうするの?」
「ギルドで夜を明かすよ。次の依頼も戦術も考えなければならないし」
「そう……じゃあ、おやすみ」
私の言葉にエリザは少し不満そうな表情を浮かべたが、そのまま部屋に戻って行った。




