78「プリムの行方」
コドフの街まではモンスターに出くわすこともなく辿り着けた。
国境に一番近い街だからなのか行商人達が多い。
コドフの街は交易の玄関先の街として栄え、大きな市場を持っている。
市場には各国から輸入されて来た農産物や穀物などが立ち並ぶ。
中には冷凍された海産物まで輸入されていて市場を賑わせていた。
「こんな辺境の地で冷凍マグロを見掛けるとはな。今夜は刺身で一杯か」
「それもいいが、まずはプリシアのお父さんからもらった農産物を売ろう」
私は市場の仲買人に農産物を見せる。
「こいつはサラーニャ産の農産物だ。いくらで買ってくれる」
「サラーニャか。どれ」
市場の仲買人はトウモロコシを手に取ると生で鮮度を確かめる。
冷凍させてあるのにも関わらず、バリバリとトウモロコシを食べている。
冷たくないのだろうか。
「これなら合格だ。一等品とまでは行かないけどな」
「で、いくらで買ってくれるんだ?」
「そうだな……150ゴールドと言ったとこか」
「150ゴールドだって!そんなちっぽけなものなのか?」
「これでも値は弾んでいるんだぞ」
目安となるのがリンゴ一箱30個入りが10ゴールド。
プリシアのお父さんからもらった農産物はリンゴの箱にして10箱分だ。
単純に計算して50ゴールド分上乗せされている。
それはサラーニャ産のブランドによる価格だ。
ちなみに品種による値段の違いは考慮していない。
この世界では重さで価格を決めることが主流。
なので軽い葉物野菜は安い値で取引されている。
生産者の中にはズルをして葉物野菜の中に石を仕込む者も度々現れる。
そのことが市場で問題になってて検閲が厳しくなっているのだ。
「それでいいよ」
私は農産物を渡すと代わりに150ゴールドを仲買人から受け取った。
これで荷物はなくなった。
身軽になった気分だ。
「それじゃあギルドへ報酬をもらいに行こう」
コドフの街のギルドは酒場が併設されていて行商人達で賑わっている。
見るからに冒険者の数は少ない。
マクミニエル国王は冒険者達の入国を厳しく制限しているからなのだが。
ここに集まっている冒険者はみんな行商人達の護衛で付き添っている者達だ。
私は受付に行くと大蛇討伐の報告を済ませる。
すると、受付の女性は目を剥いて驚いていた。
強敵の大蛇を倒したなんて信じられなかったのだろう。
大蛇討伐の報酬金は10万ゴールドになった。
苦戦を強いられた割には安い価格設定だ。
滅多に出会わないモンスターだけに被害報告も少ないからなのだろう。
「10万ゴールドなんて割に合わないな。騎士団で討伐したのなら殊勲賞ものだぞ」
「仕方ないさ。大蛇を倒さなければもっと被害が拡大していただろうからな」
被害が拡大して報酬金がつり上がってから討伐をする冒険者も多いが、それは無責任と言うものだ。
冒険者たる者、モンスターと出くわしたら討伐するのが常。
まあ、力の差による撤退はいた仕方ないのだが。
けれど、値がつり上がるまで待っている冒険者達はチャンスを逃すことも多い。
他の冒険者達に先を越されて討伐されてしまうからだ。
私は掲示板に張られている依頼に一通り目を通す。
巨岩石3万ゴールド、火炎蜥蜴1万ゴールド、地走り1万ゴールド……。
そこそこなモンスターばかりだ。
敷いて言えば耐性を持っているモンスターが多いってとこか。
「依頼選びもいいが、プリム様の情報を集めることも忘れぬなよ」
「わかってる。とりあえず分担して情報収集をしよう。私とプリシアは街の大通りで、エリザとルーンは宿屋で、ガルドとマリアーヌは酒場で頼む」
「私はひとりの方が都合がいいんだけどな」
「わかった。マリアーヌは酒場で情報を集めてくれ」
「じゃあ俺はどうするんだよ?」
不服そうな顔を浮かべているガルドに私は伝える。
「ガルドは武具店で情報を集めてくれ」
「逃亡者が武具店に寄るかよ」
「念のためだ」
はっきり言ってガルドには期待していない。
ちまちました情報収集よりも強引に聞き出す方が生にあっているからだからだ。
まあ、そんなことを街でしたら警備兵達に捕まってしまうが。
「それじゃあ夕方にここで落ち合おう」
私達はそれぞれの場所へ向かってプリムに関する情報集めをした。
コドフの街の大通りで小一時間情報を集めていたが目ぼしい情報は得られなかった。
「ねぇ、タクト。プリムはこの街に来たのかな?」
「プリムが消えた洞窟の位置から見て、この街が一番近いからな。必ず立ち寄っているはずさ」
プリムが消えた洞窟から北北東に進んだところにこの街がある。
直線距離では50キロメートルぐらい。
しかし、いくつもの山を越えなければならない。
食料も持っていなかったようだから、どこかで狩りをしながら空腹を凌いだのだろう。
「プリム、大丈夫かな?」
「利用価値がある間は無事だろう」
カイザルはある男にプリムと魔水晶を渡すと言っていた。
それが誰なのかはわからないが、良からぬことを考えているのは確かだ。
プリムと魔水晶の代わりに手に入れるものは、おそらく金だろう。
カイザルにとってプリムは金づる。
だから、安易な行動をすることはないはずだ。
「でも、心配だな」
「早くプリムの情報を集めて救出しよう」
不安げなプリシアを励ますように私は断言した。
その後も大通りを行き交う人々に声をかけたが目ぼしい情報は得られなかった。
そして約束の時間を迎える。
「あら、タクト。遅かったじゃない」
「情報収集に夢中になってしまってな」
「それで情報は得られたの?」
私は両手を広げて残念そうな顔をする。
「そう。私達も情報は得られなかったわ」
「宿屋に泊まっていたと踏んでいたのですけどね」
「そうか」
私達はガックリと肩を落としお互いの顔を見合わせる。
気落ちしているのはエリザ達も同じ。
期待していただけに喪失感も大きいのだろう。
「おい、タクト!プリム様の足取りがわかったぞ!」
マリアーヌが血相を変えて走って来た。
「プリムの足取りがわかったってどんな?」
「水色の髪をした少女を連れた男を見たと言う者が現れた。親子にしては顔が似ていなかったから不審に思っていたそうだ」
「で、プリム達はどこへ?」
「アルタイル王都に向かったらしい」
アルタイル王都と言えばミッドガル地方最大の都市。
コドフの街から北西に150キロメートル進んだところにある。
周囲を山脈で覆われていて不落の古城として有名だ。
アルタイル城にはマクミニエル国王が君臨していて、警備も厳重を極めている。
そんな国にカイザル達がすんなりと入国出来たのかは疑わしいが。
とりあえずプリムが無事だったことを知れて安心した。
「次の目的地はアルタイル王国だな」
「プリム様、今しばらくお待ちください。必ず私がお迎えに上がります」
そこへ鼻歌を歌いながらガルドが戻って来た。
「ガルド、今まで何をしていたのよ?」
「武具屋で新しい大剣を見つけてな。この大剣は刃が毀れてしまったし買い換えようかと思って。タクト、いいよな?」
「何を呑気なことを言っているんだ。プリム様の行方がわかった。今すぐ立つぞ」
「プリムの行方がわかったって?どこだよ?」
「それはおいおい話す。早く馬車に乗れ」
私達は急いで馬車に乗るとアルタイル王国を目指した。




