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77「入国」

大蛇の亡骸をそのままにして私達はミッドガルの国境を目指した。

国境までは途中で立ち寄る街もなく馬車で2日かかった。

モンスターに出会わなかったのが一番の幸いだったが。

国境では行商人の馬車たちが行列を作っていた。

検閲が厳しいようで国境を通り抜けるのには時間がかかる。

もともとミッドガル地方の検閲は厳しいのだが、今はさらに輪をかけたように厳しい。

それはアンナ女王がカイザルを指名手配にしたからだ。

アルタイル王国にも伝わっているらしく、マクミニエル国王が命礼を発したようだ。


「いつまで待たせるんだよ。もう、一時間は経っているぞ」

「しかたないさ。ここを通らなければミッドガル地方に入国できないしな」

「それにしたってよ」


ガルドは荷物に体を投げ出して横になる。

プリシア達も飽き飽きしているようで足をブラブラさせていた。

その横でマリアーヌは剣を太陽の光に翳していた。


「どうした、マリアーヌ?」

「さっきの戦いで剣の刃が毀れてしまってな。これはもう一度鍛え直さないとダメだな」

「ミッドガル地方にいるドワーフに頼んでみてはどうだ」

「それが一番手っ取り早いが、ドワーフはマクミニエル国王が管理している。そう簡単に話は進まないかもしれないぞ」

「そうか……。でも、ドワーフの村には立ち寄ろう。ドワーフの技術を生で見てみたいからな」


私達が雑談をしている間に順番が回って来た。

国境の警備兵は私達を馬車から下ろして荷物を調べはじめる。

私達は他の警備兵から入国の目的を根掘り葉掘り問い詰められていた。


「だから言っているだろう。俺達はただの護衛だ」

「護衛ね。見るからに冒険者風みたいだけど」

「冒険者が護衛をやっているだけだ」


ガルドは声を荒げながらしつこく質問して来る警備兵の隊長に詰め寄る。

この警備兵の隊長は私達を通さないつもりだろうか。

それとも私達の意図を見抜いたのか。


「隊長。荷物はみんな農産物ばかりでした」

「そうか」

「だから言ったろ。早く通してくれ」

「何をそんなに急いでいるんだ?何か隠しているんじゃないのか?」

「しつこい野郎だな。俺は散々またされて苛々しているんだよ。早く通せ」


警備兵の隊長は疑るような目でガルドを見やると言った。


「まあ、いいだろう。しかし、この国で自由に出来るとは思わないことだ。マクミニエル国王様の目が光っているからな」

「マクミニエル国王は何に警戒しているんだ?」

「お前達の知ったことではない。さっさと行け」


後で他の警備兵から聞いたことだが、マクミニエル国王は過激派から命を狙われれいるらしい。

継承者がいないマクミニエル国王を亡き者にすれば政権を握ることが出来る。

マクミニエル国王はすでに老体だ。

これから先、どれくらい国王の座に就いていられるかはわからない。

病気にでも伏してしまえば、それだけで国政が止まってしまう。

過激派にしても保守派にしても共通の問題なのだ。

ちなみにドワーフ達は中立な立場をとる者が多い。

ミッドガル地方はもともとドワーフ達だけが住んでいたドワーフ国だった。

それを後から侵入して来た人間達によってアルタイル王国が造られた。

ドワーフ達は政治には疎く、自分たちの暮らしが守られればそれでいいらしい。

まあ、それはどこの国の民衆でも同じことなのだが。


「さて、ミッドガル地方に入国したぞ。これからどこを目指すんだ?」

「まずはアルタイル王国を目指す。ミッドガル地方最大の都市だ。プリムに関する情報を得られるかもしれない」

「アルタイル王国に行くなら、ゴドフの街を経由して行きましょう。その方が確実です」

「任せるよ」


運転手はコドフの街を目指して馬車を走らせた。

コドフの街は馬車で3日かかるらしい。

まあ、3日ぐらいなら軽いものだ。

旅に慣れたおかげで時間はあまり苦痛じゃなくなった。

それよりも農産物の方が問題だ。

ミッドガル地方は火山帯で覆われているせいか気温が高い。

地面に手をあてればわかるが地面が温まっている。

穴を掘って30分ぐらい卵を入れていれば温泉卵が出来上がるくらいだ。

この温かさで農産物が傷んでしまう。

今はエリザの氷の魔法で凍らせているから大丈夫だが。

他の行商人達も農産物を運ぶときは氷の魔法を使っているらしい。

なので護衛には必ず魔法使いがひとりいるそうだ。


「プリシア。農産物を凍らせておいても大丈夫なのか?」

「基本的には大丈夫よ。瞬間、冷却ならばね。ただ冷やすだけじゃダメ。返って足が早くなってしまうし、鮮度が悪くなっちゃうからね。葉物野菜なんかとくにそうね」


さすがは農家のひとり娘のことだけはある。

農産物の扱いには長けている。

しかし、なぜプリシアが爆弾使いになったのか。

実家で畑でもやりながらのんびり暮らす選択肢もあっただろう。

それを蹴ってまで危険な爆弾使いになるなんて。


「ん?何、タクト?私の顔に何かついている?」

「いや、何でもない。ただ、プリシアは面白い奴だなって思っただけ」

「面白い?それほどでもないけどー」


プリシアは嬉しそうに照れ笑いを浮かべる。

別に褒めた訳でもないのだが。





馬車は一日歩き続けると急に足を止めた。


「ここで休みましょう。これ以上馬を走らせると馬がへばってしまいます」

「よし、今日はここで野宿だ」


あいにく周りは草木も一本も生えておらず見晴らしがいい。

身を隠せるような大きな岩がゴツゴツ点在している。

馬車を大きな岩の影に停車させると、その近くにテントを張った。


「地面が温かいから焚火はいらないね」

「料理も地熱で出来そうですわ」

「地面を掘れば天然の温泉が出て来るかもな」

「なら、役割分担!私達は料理をするからタクト達は温泉を任せたわ」


ウンも言わずに役割が分担させられる。

まあ、力仕事はガルドに任せておいて。

私は温泉のありそうな場所を探すことにする。


火山帯での温泉の探し方は簡単だ。

蒸気が噴出している場所をひたすら掘ればいい。

硫黄臭いことがポイントだ。

大抵この方法で温泉に辿り着ける。

私の見当通り温泉は蒸気の下にあった。

ガルドと私はスコップで温泉を掘り出す。

ひたすら掘って、掘って、掘っての繰り返し。

すると、小一時間ぐらいで3メートル四方の温泉が出来上がった。

少し小さめだが変わりばんこに入れば十分な広さだ。

温泉は鉄分が多いためか赤茶けた色をしている。


「それじゃあタクト。俺達が一番湯だな」

「そうだな。苦労した私達が一番に入らないと」


私達はその場に服を脱ぎ捨てて掘り当てた温泉に浸かった。

温泉お湯は熱くてカーっと気合を入れないと入れないレベル。

それでも体がお湯に慣れて来る頃になればちょうどいい湯加減になった。


「ふはー。こいつは気持ちいいな」

「やっぱり温泉は天然に限るな」

「ここに酒でもあれば最高なんだけどな」


すると、馬の世話をしていた運転手が酒瓶を持ってやって来た。


「いっぱいどうです?」

「おっ、気が利くじゃないか。お前も入れ」

「じゃ、遠慮なく」


運転手は服を脱ぎ捨てて温泉に浸かる。

くーっと小粋な悲鳴を上げながら。

そして持って来た酒を注ぐ。


「くぅー。染みる」

「染みますね」

「一仕事した後の酒は格別だ」


私達は気分が良くなるまで酒を楽しんだ。





その頃、地熱で料理をしていたエリザ達は。


「もうそろそろかしら。ちょっと割ってみるわね」


エリザは塩釜で温めた鳥の蒸し焼きを掘り出す。

そして岩の上に乗せてハンマーで叩き割った。

すると、中から香ばしい匂いの湯気が湧き立つ。


「んー。いい匂い。ルーン、こっちはできたわよ」

「エリザさん。こっちのポトフも出来ましたわ」

「パンの準備も出来たよ」

「それじゃあ、私、タクト達を呼んで来るね」


プリシアは温泉へ向かって駆けて行く。

そして岩影からこっそり温泉を覗き込む。

すると、そこにはすっかり出来上がっていた私達の姿があった。


「飲兵衛じゃん。タクト、ご飯が出来たって!」

「おっ、プリシア。ご飯か?。ガルド、起きろ。ご飯だってよ」

「んっ?飯か」


ガルドはおもむろに立ち上がる。

それを見たプリシアが両手で目を隠した。


「ちょっと、ガルド。出るなら出るって言ってよ。変なもの見ちゃったじゃない!」

「変なもの……。ガハハハ。プリシアも意外とうぶなんだな。ほれ、もっと見るか?」


ガルドは恥ずかしげもなく腰を振りながら変なものをブラブラさせる。

プリシアは顔を真っ赤にさせながら逃げるように去って行った。


「ガルド。そんなことばかりしていると女性から嫌われるぞ」

「女性?プリシアは子供だしな。ちょっとからかってやっただけだ」


ガルドが女性を寄せ付けないのは、こういう所が原因だろう。

本人はまったく気づいていないのが困りどころだが。

私達は温泉を上がり服を着てエリザ達のところへ向かった。


「おっ、うまそうな匂いがするな」

「今夜は鳥の塩釜焼きとポトフよ」

「よく出来ているじゃないか。どれどれ」


私は鳥を一切れつまみ口に運ぶ。

肉は中まで火が通っていて噛むだけで繊維がほどけて行く。

肉汁も溢れ出して舌に感じる塩気がうまさを強調していた。


「これ、エリザが作ったのか?」

「そうよ。美味しいでしょ?」

「ああ、うまい、うまい」


すると、ルーンがポトフをお皿によそって差し出して来る。


「タクトさん。このポトフも食べてみてください」

「ありがとう、ルーン」


私はスプーンで野菜を救って口に運ぶ。

野菜の出汁が染み出ていてほんのり甘い。

噛むだけで野菜がホロホロと溶けて行って口の中をうまさで満たす。

これが本当に地熱で出来たのか疑いたくなるほど。


「どうですか?」

「うまいよ。これなら何倍でもイケそうだ」


ルーンは頬を赤らめて満足気な顔をする。

ルーンの作る料理はどれも美味しいが、このポトフは別格だ。

またひとつルーンの自慢の料理が増えた瞬間だった。

私達はお腹が満たされるまで料理を楽しんだ後、見張りをつけて休むことにした。


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