71「プリシアの実家」
カイザルを取り逃がしてから数日、私達はヴェズベルト王都で沈んでいた。
マリアーヌは責任をとって自ら降格を志願した。
しかし、アンナ女王は今回の失態の責任をマリアーヌに取らせなかった。
責任の所在うんぬんよりプリムを失ったことがショックだったのだ。
アンナ女王はさっそくカイザルを指名手配にして隣国に通達する。
もちろん聖女の存在も魔水晶のことも伏せてのことだ。
他国に聖女の存在を知れずにプリムを救出することが使命。
ミッドガルのマクミニエル国王との交渉は近々、行われることが決まった。
「アンナ女王がミッドガルのマクミニエル国王と交渉するらしいわよ」
「女王もとうとう重い腰を上げたな」
「プリムさんが捕まっているのですから、仕方ありませんわ」
「プリム、元気にしているかな?」
エリザ達はプリムの身を案じる。
実際のところ、プリムはもうカイザルの手を離れているだろう。
今、誰のところにいるのかはわからないが、プリムに利用価値を見出しているならばプリムの身は安全だ。
聖女と魔水晶を手に入れて何をするのかはわからないが。
しかし、私達はこのまま手をこまねいていていいものか。
こんな気分じゃ冒険など続けられない。
「ねぇ、タクト。私達もプリムを探そう。プリム、きっとどこかで私達の救出を待っているはずだよ」
「しかし、ミッドガルへ入国したこと以外はわからないんだぞ。そんな情報だけで探せるものなのか?」
「ガルドはプリムが心配じゃないの?」
「もちろん心配しているに決まっているだろ。俺達は仲間なんだ」
プリシアの指摘にガルドは声を荒げる。
エリザ達の視線が私に集まった。
「わかった。プリムを救出に出掛けよう」
「そうこなくっちゃ」
「話はまとまったようね」
「アンナ女王!」
アンナ女王は私達の部屋に入って来て私を見やる。
「私は女王だから表立ってプリムの救出はできないわ。しかし、あなた方は違うわ。冒険者ならミッドガルでも自由に行動できるでしょう。プリムのことを任せましたわ」
「はい。必ずプリムを救出して見せます」
「あなた方が頼りなの。任せましたわよ」
アンナ女王は悲痛な面持ちで私の手を取って懇願した。
後で聞いた話だがマリアーヌは騎士団を除隊して民間人になったのだと言う。
それはもちろん責任をとったことと自らプリムを救出するためだ。
アンナ女王は最後まで反対したがマリアーヌの決意は変わらなかったらしい。
どこまで騎士精神が見に着いているのか、潔さだけは買いたい。
私達は民間人になったマリアーヌを仲間に加えてミッドガルを目指した。
「騎士団を除隊した私を仲間に加えてくれるのか」などとマリアーヌは言っていたが、マリアーヌほどの実力者なら歓迎だ。
これで戦力アップが望める。
二人の剣士と爆弾使い、魔法使い、プリ―ストとメンバーが賑やかになった。
「それでミッドガルへはどのルートで入国するんだ?」
「東側を迂回するルートで入国する。カイザル達の後を追えば密入国になってしまうからな」
「ならばコントラの街を行くルートか」
東側のルートならばコントラの街を行くルートとミグの街を行くルートがある。
どちらも距離的には変わらないが、コントラの街を行くルートの方が整備されている。
「ねぇ、タクト。ミグの街に寄ってくれない?お父さん達の顔が見たいの」
「そう言えば、両親に逢いたいって言っていたな。いいか、マリアーヌ?」
「私はお前達に従う」
「おいおい、俺達は仲間になったんだぜ。そんな堅苦しい話し方をするなよ」
「私はこう言う話し方しか知らない」
ガルドの指摘に不満そうな顔を浮かべるマリアーヌ。
根っからの軍人気質だ。
まあ、幼い頃から騎士をやって入れば誰でもそうなる。
私達はプリシアの故郷ミグの街に馬車を向けた。
ミグの街まではダルタウロ鉱山と同じルートなので順調に来られた。
ミグの街は山間に囲まれた小さな街。
主要産業は農業で街の近くに広大な畑があった。
山の斜面を利用していて畑が階段状に並んでいる。
造っているのは葉物野菜に根菜類、果物に穀物。
収穫された農産物はミッドガル地方へ輸出されている。
「ただいまー」
「プリシアじゃない。元気だった?」
「お母さん、ただいまー」
プリシアは実家の扉を開けるなり母親に抱き着く。
こう言うところがプリシアの子供らしいところだ。
「あら、そちらの方々は?」
「私の仲間」
「そうですか。プリシアがお世話になっております。狭いところですがゆっくりして行ってください」
プリシアの母親は丁寧に頭を下げるとキッチンへ行ってお茶の用意をはじめる。
「お母さん、お構いなく。私達はこれでおじゃましますから」
「お母さんだなんて照れるわ」
「お母さん、この人が私の婚約者のタクト」
「おっ、おい」
プリシアは私の手を引きながら母親に紹介する。
いつから婚約者になったのか。
エリザが引きつった顔で私を睨んでいる。
「そうでしたか。娘をよろしくお願いします」
プリシアの嘘を飲み込んで改めて挨拶をしてくるプリシアの母親。
プリシアもプリシアだが、母親も母親だ。
純粋なのか天然なのかわからない。
「お前、モテるんだな」
「モテるとかそう言うことじゃない」
「そう、照れるな。私はお前みたいなやつは嫌いじゃないぞ」
エリザの顔が余計に引きつる。
新たなライバル出現と言った感じだろうか。
まあ、私にとってはいい迷惑なんだけど。
誰からも相手にされていないガルドが羨ましい。
ガルドはブー垂れながら呆れたように見ていた。
私達はお茶をごちそうになりながらこれまでの旅の話を聞かせた。
出会った時のこと、ノーザン地方のこと、サラーニャに来てからのこと。
プリシアの母親は終始にこやかに笑いながら話を聞いていた。
普通の母親ならば娘が危険な目に合ってれば心配するものだが、プリシアの母親は違っていた。
その経験もプリシアを大人にしてくれると言う考え方なのだ。
「ところで、プリシアは何で冒険に出ようと思ったんだ?」
「それは冒険が私を呼んでいたからよ」
プリシアの母親によれば、おじいちゃんの話を聞いてから言い出したのだと言う。
プリシアのおじいちゃんは腕の立つドワーフで名工だったらしい。
以前はミッドガルのドワーフの村で暮らしていたのだが、外の世界を知ってみたかったプリシアのおじいちゃんはドワーフの村を離れたのだと言う。
ドワーフの仲間達からは反対されたが、それを押し切って村を出たのだ。
そしてサラーニャに辿り着き、この街に定住したそうだ。
プリシアはおじいちゃんが作ったと言う装飾品を持って来た。
「これがおじいちゃんが作った品物よ」
「この髪飾りは緻密に造られているわね」
「この剣もそうなのか?」
「そうよ。剣じゃなくて刀ね」
「見せてみろ」
マリアーヌはガルドから刀をはぎ取ると刀を太陽に翳す。
舐め回すように刃先を見やりながら指で切れ味を確かめる。
「こいつは凄い。軽いうえに切れ味が抜群だ。これを私に譲ってくれないか?」
「えー。それおじいちゃんの形見だもん。あげられないわ」
「そうか」
マリアーヌはがっくりと肩を落とす。
よほどプリシアのおじいちゃんが造った刀に魅了されたのだろう。
素人の私でも普通の剣と違うことは見て取れた。
ミッドガルのドワーフの村でも同じものが手に入るかもしれない。
私はそんな期待を抱いていた。
「それでお父さんは?」
「畑で仕事しているわよ」
「私、畑に行って来る」
「それじゃあ私達もこれで」
「お構いができなくてごめんなさい」
「プリシア、私達は宿へ行っているからな」
「うん、わかった」
プリシアは返事をすると軽い足取りで畑へ向かう。
私達はプリシアを見送り、ミグの街の宿屋へ向かった。




