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70「プリム救出作戦」

私達が鉱山の出口に辿り着いた時にはすでにカイザルの姿はなかった。

働いていた工夫たちに話を聞くと、カイザル達はミッドガル地方の国境の方へ向かったらしい。

そのまま国境を越えてミッドガル地方に入国されたら手の打ちようがない。

アルタイル王国とは交易が行われているが政治的には関係性が薄い。

現国王のマクミニエル・オーガスが国王になってからは少しづつ交流を持つようになったのだが。


もともとドワーフ族が住んでいるミッドガル地方は異文化の流入を避けて来た風潮がある。

独自の文化が失われることを危惧した者達によって阻まれていた。

しかし、ミッドガル地方は多くの火山帯で覆われていて、農作物に乏しい。

度々、食糧危機に見舞われて、その度に隣国から農作物を輸入していた。

そこで事態の改善を目指したマクミニエル国王によって隣国との交易協定が結ばれたのだ。

なのでアルタイル王国との交流の歴史は浅い。


ヴェズベルト王都に戻ってアンナ女王に頼めば、マクミニエル国王と交渉してくるかもしれない。

しかし、時間がかかり過ぎる。

交渉している間にカイザルは逃げてしまうだろう。

何としてもアルタイル王国に入国される前にカイザルを捉えなければならない。


「何としてでもカイザルを捉えよ。私はヴェズベルト王国に戻ってアンナ女王に報告してくる」


マリアーヌは女騎士達に指示を出すと馬車に乗り込む。

私達もいったんヴェズベルト王都に戻ることにした。


ヴェズベルト王都に戻ってアンナ女王にことの顛末を報告すると激昂された。

それも最もだ。

ヴェズベルト王国第一騎士団の団長がついていながらの失態なのだ。

それにプリムはアンナ女王の親友の孫娘。

政治的にも軍事的にも聖女の存在は欠かせない。

アンナ女王は苛々しながら思考を張り巡らせる。


「マリアーヌ、各地に散らばっている騎士達に伝達しなさい。カイザルの行方を調査するように。何としてでもプリムの身柄を確保するのです。魔水晶はこの際、厭いません」

「はっ。すぐに手配いたします」


マリアーヌはアンナ女王に敬礼をすると、王室を後にした。


「私達にも何か手伝えることはありませんか?」

「あなた達はここで待機していなさい」

「プリムが捕まっているのにじっとしていられるかよ」

「戦いが専門のあなた達に何が出来ると言うのです。私達の調査の右に出る者はいません。すぐにカイザルの居場所をつきとめるわ」


アンナ女王は優しくも強くもあることばで私達を嗜めた。

アンナ女王の判断は的確だ。

私達はこれまでモンスター討伐しかして来なかった。

アラジンのアジトの調査は経験積みだが、アジトの場所がある程度知っていてのことだ。

今のようにカイザルの行方がまったくわからない状況での調査には対応できない。

ミッドガル地方の方へ逃げたと言う情報だけでは範囲が広すぎる。

プリムのことは心配だが、今は我慢してここにとどまっているしかない。

私達はヴェズベルト王都にとどまりマリアーヌからの報告を待った。





数日後、カイザルの行方が判明した。

アルタイル王国の国境にかかる洞窟に潜んでいるらしい。

既にヴェズベルト王国の騎士達が周囲を取り囲んでいる。

私達はマリアーヌと共に現場に急いだ。


「ここにカイザルが潜んでいるのだな」

「はっ。3日前にこの洞窟に逃げ込むのを確認しました」

「よし、カイザルを捉えるぞ」

「待て。プリムが人質に取られているんだぞ。下手に刺激したら何をされるかわからない」


マリアーヌはすぐにでも突入しようとしていたが、私はそれを止める。

カイザルにとってプリムは人質であり大事な要人だ。

しかし、身の危険が迫ればプリムに危害を加えないとも限らない。

所詮、人は自分の命が一番大切なのだ。


「ここは一旦、騎士達を下がらせて様子を見るんだ。交渉は私がする」

「騎士を下がらせるだと!お前は何を考えているんだ。カイザルは目の前にいるんだぞ」

「なら、プリムは見殺しにするってのか?」

「くぅ……それは」


私の指摘にぐうの手もでないマリアーヌは悔しそうに唇を噛み締める。

騎士は堅物が多いってのは本当のことらしい。

君主に忠誠を誓っているだけに思考回路も直線的なのだ。

それはもとい。

まずはプリムの身の安全の確保が第一優先だ。

カイザルのことは二の次でいい。


「私が交渉に行って来る」

「お前に任せておけるか。私も行く」

「敵との交渉事ってのはひとりの方がうまく行くんだ。武装している者が近づいただけでうまく運ぶ交渉事もうまく行かない。マリアーヌはここで待機していろ」


こんなにいきり立っているマリアーヌを連れて行ったら交渉どころではない。

カイザルを見つけるなり切りかかりそうな勢いだ。

まずは私ひとりで洞窟に入り中の様子を伺う。

カイザルとの交渉だけでなく周りの情報収集も大切だ。

隙が伺えるかもしれない。

その後でカイザルと交渉を進める。

この手順で行おう。


「よし、私が行って来る。一時間しても戻らなかったら突入してくれ」


万が一、私が殺されてしまうこともあり得る。

突入の指示は、そのための保険だ。

私はランプを持ちながら洞窟の中に入って行った。



洞窟は自然で出来たもので所々に鍾乳石が垂れ下がっている。

道も複雑に分かれていてどの道が正解かわからない。

私は広い道を優先的に選びながら奥へと進む。


「思っていた以上に深いな。カイザルはここにいるんだろうか」


この洞窟の出口がひとつならばカイザルはこの奥にいるはず。

地図で見た限りでは出口はひとつだったのだが、ここら辺は未開拓地なので正確なことはわからない。

出口が他にあるとしたらカイザル達は出口に近づいているだろう。

もしかしたら、もう、この洞窟にはいないのかもしれない。

その可能性も捨てきれないが、今はプリムのことだけを考えて前に進んだ。



しばらく進むと道は二手に分かれた。

ひとつは緩やかな登り道。

もうひとつは緩やかな下り道。

普通に考えれば登り道の方が出口に近づける可能性が高まるように思える。

しかし、道が急に変わるなんてことは洞窟では当たり前だ。

私は緩やかな下り道を進むことにした。

それはプリムが残したであろう印が壁に刻まれたいたからだ。

さすがはシーフと言ったところだ。

所々に印を残して足取りを示している。


「ここで行き止まりか」


10メートルほど進むと地下水に埋もれて道がなくなっていた。

ランプを翳しても道の影は見えない。

行き止まりと見た方が正解か。

すると、洞窟の奥から吹くかすかな風を感じた。


「この奥はまだ道が続いているな。よし、ここを進もう」


私は顔を上に向けて呼吸をしながら地下水に埋もれた道を進んで行った。





その頃、カイザルはプリムと洞窟の出口にいた。


「ふー。何とか抜けたぜ。これで自由だ」

「私をどこへ連れて行くつもり?」

「あの男のところにだよ。お前は大事な聖女だからな。魔水晶と一緒に引き渡す」


カイザルは魔水晶の袋を見やりながらニヤリと笑う。


「見返りはお金?」

「そうだ。がっつりいただける。見たこともない大金をな」


カイザルにとってプリムは金づるだ。

さっさとあの男に引き渡して、この国からおさらばするつもり。

追っての手の届かない所へ移住して豪勢に暮らすのだ。

カイザルはもともとサンドリア王都で調査部隊に所属していた。

調査部隊にはいたが不真面目で金品をせしめてばかりいた。

ある時、あの男の調査に出掛けた時にあの男と出会う。

狡猾なカイザルはすぐにあの男に取り入って仲間になる。

そしてあの男に情報を提供していたのだ。


「お金が欲しいならいくらでも上げるわ。だから見逃してよ」

「お前が俺に金だと。ガハハハ。笑わせる」

「嘘じゃないもん。私はアンナ女王と知り合いなんだから」

「知り合いか。お前は女王のことを信じているようだが、それは間違いだぞ。お前は女王に利用されているだけだ」


カイザルが言うにはアンナ女王は聖女を祀り立てて軍事力の強化を企んでいるらしい。

聖女の魔力は魔水晶によっていくらでも増大させることができる。

一部隊を一瞬で消滅させることができるほどの魔力があるのだ。

それを片手に交渉を行えば有利に進められる。

それは銃口を突きつけて交渉を進めているようなもの。

アンナ女王の思うがままになるのだ。


「アンナ女王はそんな人じゃないわ。あなたは知らないだけよ」

「知らないのはお前だ。まあ、お前がどうなろうが俺には関係ないがな」


カイザルは嫌がるプリムの手を引きながら連れて行く。

プリムは岩にしがみつき抵抗した。


「大人しくしろ!」

「キャッ!」


カイザルはプリムの頬に平手打ちを食らわせる。

プリムは弾き飛ばされて地面に伏した。


「だからガキは嫌なんだ」


カイザルの目を盗んでプリムは地面に印を残す。


「おい、行くぞ」


プリムは引き起こされて強引に連れて行かれた。





「遅い!奴は何をしているんだ!」


マリアーヌは苛々しながらテーブルを叩く。

タクトが洞窟に入ってから、そろそろ一時間が経過する。

なのに何の音沙汰もない。

交渉が決裂したのか、既に殺されたのかさえも分からない。

マリアーヌは焦っていた。

この交渉が失敗したら自分の地位も危うくなるだろう。

作戦の失敗の責任は自分がとらなければならない。

ましてや聖女を奪われたとならば前代未聞の事態となる。

マリアーヌの経歴に傷がついてしまう。

マリアーヌはアンナ女王に笑ってもらいたくて今まで尽して来た。

アンナ女王に救われてから、それは変わらない誓いだ。

しかし、今の事態はアンナ女王を落胆させてしまう。

だからこそプリムの救出は成功させなければならない。


「そろそろ一時間ね」

「タクトさん、大丈夫でしょうか?」

「タクトなら大丈夫だよ。今頃、プリムといっしょかも」

「かもじゃダメなんだ!確実にプリム様を救出していなければならないんだ!」


マリアーヌはやり場のない怒りを辺りにまき散らす。


「その辺でよしておけ。もう時間なんだ。洞窟に行くぞ」

「私に命令をするな!」


ガルドがマリアーヌ抑えるとマリアーヌはガルドの手を弾き飛ばした。

こうまで取り乱していると一国の騎士団長なのかさえ疑ってしまう。

それだけこの事態がマリアーヌにとって深刻だと言うことだけは伝わって来た。


「よし、お前達。進軍だ!」


マリアーヌを先頭に騎士達が次々と洞窟へ入って行った。





タクトは洞窟の出口でプリムの残した印を見ていた。


「いたぞ!おい、プリム様はどこだ?」

「残念だが、プリムは連れて行かれた」

「何だと!」


マリアーヌは私の胸ぐらを掴みあげて詰め寄る。


「お前に交渉は任せたのだぞ!」

「私がここへ着いた時にはカイザル達はもういなかった。代わりにプリムが印を残して行った」


私は地面に残された印を指さす。

マリアーヌは地面に残された印をなぞる。


「これはどういう意味だ?」

「プリムが連れて行かれた方角を表わしている。おそらく、既にアルタイル王国に入国しているだろう」

「くぅ……ここまで来て」


マリアーヌは悔しそうに地面を殴りつけた。

最悪の事態だ。

アルタイル王国に入国されたら、これ以上捜索はできない。

ここから先はマクミニエル国王とアンナ女王の交渉ごとになる。

カイザルを指名手配してマクミニエル国王にカイザルの身柄を拘束してもらわないといけない。

しかし、マクミニエル国王にとって何らメリットがないことだ。

積極的に取り組んでくれる保証はない。

それに聖女の存在がばれればマクミニエル国王も黙っていないだろう。

隣国が新たな力を持つことには敏感になるものだ。

私達は先が見えない課題を抱えることになった。


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