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69「魔水晶」

ダルタウロ鉱山は大きく抉られ山の半分が掘り尽くされている。

もともと鉄鉱石を採掘するために掘られた鉱山なのだが、数十年前に魔水晶の欠片が発見されてからは魔水晶の採掘が行われるようになった。

しかし、魔水晶は見た目では他の鉱石と見分けがつかない。

その為、魔水晶の採掘は難航していた。


今は300名ほどの工夫が鉱山で働いている。

鉱山の近くに村を造り、そこで生活しながら鉱山に勤めている。

出稼ぎの男が多いが、中には家族と一緒に移住して来た者もいる。

ヴェズベルト王国が手厚く支援しているから安心して暮らせるのだと言う。

現場監督の男が詳しく説明してくれた。


「魔水晶の原石がある場所はどこだ?」

「最下層の奥です」

「案内しろ」


マリアーヌが指図すると現場監督の男は鉱山の中に入って行く。


「おい、ちょっと待てよ。お前達も行くのか?」

「あたり前だ。護衛なのだからな」

「護衛って言ったって鉱山の中なら大丈夫だろ」

「万が一のためのものだ。気にするな」


マリアーヌは女王に命じられたまま自分の仕事を淡々とこなす。

ガルドの言葉など眼中にないようだ。


「まあ、いっぱいいた方がいいじゃない」

「足手まといにだけはなるなよ」


どの口がそう言うことを言っているのか。

ガルドも鉱山は初めてだろう。

私達は現場監督に案内されながら鉱山の最深部へ向かった。

最深部へは手動の昇降機に乗って行く。

ドラムに巻かれたロープを撒き取ると上昇し、緩めると下降する仕組み。

ロープの巻き取りは数名の工夫が担当している。

全員で乗れるほど大きなものではないので何回かに分けて最下層へ向かった。


最下層は光が届かず薄暗い。

壁のくぼみに灯っている明かりが唯一の光だ。

現場監督の男はランプに火をつけると鉱山の奥へと進んで行く。

私達もその後に続いた。


「ヒャッ!」

「どうした、エリザ?」

「なんか冷たいものが背中を伝って」

「水だ」


現場監督の男は天井にを照らすと説明する。

鉱山の近くに地下水脈があるらしい。

下手に鉱山を拡張すると大参事になりかねない。

なので鉱山の拡張は慎重に行われているそうだ。

しかし、地下水脈から流れ落ちて来る水で足元が滑りやすい。


「ここからは足元が滑りやすいから気をつてください」

「うわっと!」


言っているそばからガルドがこける。

尻もちをついてズボンがぐちょぐちょに。

ガルドは不機嫌な顔をしながら立ち上がる。

太陽の光の届かない最下層は自然乾燥も遠い。

後でエリザの魔法で乾かしてもらうのがいいだろう。


「ここです」

「ほう。何かありそうな雰囲気だな。プリム様、聖女の十字架を」


マリアーヌに言われるまま聖女の十字架を取り出すプリム。

両手で持って前に差し出した。

しかし、魔水晶は何の反応も見せない。


「プリム様、聖女の十字架に魔力を込めてください」

「魔力を込めるって言われても、どうしたらいいか」

「祈ればいいのです」


プリムは一呼吸を置いて聖女の十字架を握りしめる。

そして、魔力を込めるように十字架に祈った。

すると、聖女の十字架が光を発し白く輝く。

それに応えるかのように魔水晶の原石が共鳴をはじめた。


「これは魔水晶。さすがは聖女様だ」


現場監督は尻もちをついて驚きの声を上げる。

それを尻目にマリアーヌは魔水晶の原石に手を伸ばす。


「これが魔水晶……。原石で魔力は半減されているが、確かに強い魔力を感じる」


魔水晶は辺り一面に散らばり夜空の星のように輝いている。

まるで宇宙に投げ出されたような光景だ。


「きれい」

「本当。どんな宝石よりも輝いていますわ」

「何だか不思議な気分」


エリザ達は目の前の光景に見とれている。

ふわっとした感覚がするのも魔水晶の効果なのだろうか。


「これを売ったらいくらぐらいになるんだ?」

「そんなことはさせぬぞ」

「冗談だって」


そうは言っていたがガルドは本気のようだ。

なんて言ったって影で魔水晶の欠片を剣の先でほじくり出している。

それをマリアーヌに見つかり咎められていた。


「それでこれをどうやって取り出すかが問題だな」

「それならプリシアの爆弾が使える」

「こんな所で爆弾なんか使ったら鉱山が崩れてしまうぞ」

「安心しろ。腕のあるプリシアは爆弾使いだ。爆薬の扱いには慣れている。だよな、プリシア?」


プリシアは親指を上げてニコリと笑う。

そして魔水晶に近づくと目ぼしい魔水晶を探す。


「どれがいいかな?」

「なるべく大きいものだ」

「なら、その足元のやつなんかがいいんじゃない?」

「これね」


プリシアはバッグから爆弾を取り出して火薬を魔水晶の周りにかけて行く。

魔水晶をぐるりと取り囲むようにかけるとエリザに火を点けるように言った。

エリザは魔力を指先に集中させて炎を灯す。

そして、プリシアの指示通りに火薬に火を点けた。

ボムっと爆薬が弾けると灰色の煙が立ち上る。


「どうだ?」

「もう一回やれば採れるかも」


そう言ってプリシアは同じことを繰り返した。

今度はヒットしたらしく魔水晶の原石がゴロリと外れる。


「採れたよ」

「ほう。これが魔水晶の原石か。立派なものだ」


マリアーヌは両手で魔水晶の原石を持ち上げるとじっくりと眺める。

その輝きは他に類を見ないほど美しい。

紫紺色の光を放つ魔水晶はまるで深い宇宙のようだ。


「お見事さん」

「誰だ?」

「おっと、動くんじゃねえ。こいつがどうなってもいいのか?」


私達の隙をついてカイザルは現場監督の男の喉元にナイフをあてがいながら脅しをかける。


「お前はカイザル」

「おっ、やっぱり知っていたか。さすがはヴェズベルト王国騎士団長だ」

「カイザル、何しに来た?」

「それはもちろん魔水晶を頂きに来たのさ」

「やっぱりそうだったのか」


気づくのが遅いんだよと言わんばかりにカイザルは私を下目に見やる。

しかし、魔水晶は聖女でもないカイザルが持っていても何ら価値のないものだ。

魔水晶は聖女にしか扱えない。

ガルドと同じでどこかに売り飛ばすつもりなのか。


「俺が魔水晶を欲しがる理由を知りたそうだな?教えてやってもいいが高くつくぜ」


カイザルはナイフを横に滑らせる。

現場監督の男は悲鳴を上げながら命乞いをする。


「ま、待て。交換条件と行こうじゃないか」

「交換条件?今のお前に何が出来るって言うんだ」

「交換条件などする必要もない。この場で成敗してくれる」


マリアーヌは剣を抜いてカイザルに向ける。


「おおっと。こいつの命がなくなるぜ」

「そんなこと私には関係ない。魔水晶を守るためならば、そいつの命はくれてやろう」

「ひぃー。お助けを」

「さすがはヴェズベルトの女騎士団長だ。腰が据わってる。こいつはもう用なしだな」


カイザルは現場監督の男を解放すると尻を蹴とばす。

マリアーヌは切っ先をカイザルに向けながら隙を見やる。

カイザルも対抗するようにナイフを構えた。


「そんなちっぽけなナイフで私を倒せると思っているのか?」

「それはやってみなければわからない。こうやってな!」


カイザルが足元の水たまりを蹴飛ばし水しぶきをかける。

その瞬間、プリムの背後に回り込み喉元にナイフをあてた。


「プリム!」

「動くんじゃねえ。こいつは見殺しに出来ないだろう」

「貴様!プリム様を離せ!」

「タクト、助けて!」


プリムを人質に取られてたら手も足も出せない。

カイザルを取り囲むように女騎士達が構えているが。

今の状況では悔しいが何もできない。


「おい、お前。魔水晶を持って来い。下手な真似だけはするなよ」


プリシアは魔水晶を持ちあげるとカイザルのところへ運んで行く。

カイザルの隙を伺いながら慎重に足を運ぶ。

しかし、カイザルのところへ着くまでに隙は見いだせなかった。

プリシアは言われるがままカイザルに魔水晶の原石を渡す。

カイザルは魔水晶を確かめるとプリムに袋へ仕舞わせた。


「よし、最後にいいことを教えてやるよ。俺の依頼者はお前達が知っている男だ」

「誰だ?」


私達がこれまでに出会って来た男は数知れずいる。

その中でも魔水晶を狙わせることを考える奴と言えば。

ブレックス国王か。

力の保有に固執しているからあり合えない線ではない。

聖女と魔水晶を手に入れて軍事力を強化させるつもりか。

しかし、ヴェズベルトとは対立している国だ。

そう簡単に手を出せないだろう。

ならば誰だ。

アンナ女王の監視下を逃れて自由に行動できる人物……。


「まあ、縁があればまた会えるさ」


カイザルはプリムを人質に取りながら後ろに下がって行く。

そしてある程度距離をとるとプリムを連れて出口に走り出した。


「あいつ。プリムも連れて行く気よ」

「逃がすな!」

「お前達、プリム様の身の安全を最優先しろ!魔水晶は奪われても構わない!」


マリアーヌは女騎士達に指示を出すとカイザルの後を追う。

私達もその後に続いた。


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