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68「マリアーヌ」

翌朝、城の前にマリアーヌの用意した馬車が停車していた。

騎士御用達の馬車とあって造りが堅牢。

幌は鬼蜘蛛の糸で造られていて矢を通さない。

馬も兜を被っていて対戦闘用に改良されている。


「こんな豪勢な馬車で出掛けるのか?」

「不服か?」

「不服も何も、こんなのははじめてだぜ」


ガルドは興奮しながら荷台に登る。

はしゃぎようは子供のようだ。

荷台をバンバンと叩きながら強度を確かめている。

今まで乗って来た馬車とは比べ物にならない。

私も呆気にとられながら馬車を眺めていた。


「それでは出発するぞ」

「お、おう」


馬車は全部で3台。

一両目は騎士団長と騎士達が数名乗っている。

二両は目は食料や備品。

三両目に私達が乗っている。

騎士達を連れて行くなんて何かの襲撃に備えてのことだろうか。

それとも聖女を護衛するためのものだろうか。

どちらともとれる。


「しかし、魔水晶を採掘に出掛けるだけで、この警備か?物々しすぎやしないか?」

「魔水晶は希少な鉱石だ。他の誰かが狙っていてもおかしくない」


情報収集に徹している女王だから何かしら動きを掴んでいるのかもしれない。

私達意外にも魔水晶を狙っている奴らがいると見た方が正解だ。

今回の旅は思っている他、厳しくなりそうな気配が漂っていた。


「で、目的のダルタウロ鉱山まではどのくらいかかるの?」

「鉱山までは3日かかるわ」

「何でプリシアが知っているんだよ?」

「私、鉱山の近くのミグ街の出身だから」

「そうなのか?」


プリシアの故郷は鉱山の近くと言っても鉱山から馬車で1日かかるそうだ。

まあ、地理に詳しい人物がいてくれて心強いが。


「3日もかかるんじゃ暇を持て余すな。俺はしばらく眠るとするよ」

「ガルドはいつでも寝ているじゃない」


ガルドは荷台で大の字になり寝ころぶ。

エリザのツッコミも届かない早さで眠りに落ちた。

昨夜の酒がまだ残っているのだろう。

顔は少し赤ら顔だ。


「それでプリムは聖女になることを決めたの?」

「な、何よ。唐突に」

「私はプリムが聖女になった方が幸せになれると思ってさ」

「そ、そんなこと……」


プリシアはプリムを見やりながら思ったことを口にする。

あからさまにプリムは動揺しながらうろたえていた。

プリムにも何か思うことがあるのだろう。

しきりに私達を気にしながらモジモジしていた。


「プリシアさん、そんなに無理強いしてはいけませんわ。プリムさんが困っているじゃないですか」

「私は無理強いなんかしてないもん」

「私は……」


プリムが口を開きかけた時、馬車が急停止した。


「どうした?」


私達は馬車を降りて前の馬車へ足を向ける。

すると、先頭の馬車の前で何やら騒いでいた。

見ると物乞いをしている民衆だった。

服はボロボロで痩せこけている。

どこかの街から逃げて来たのだろうか。


「お前達、ヴェズベルト騎士団をしっての愚弄か?ならば容赦はしないぞ」

「何でもいい。食べ物をください」

「俺達、ここ何日も何も食べていません。だから食料をわけてください」


マリアーヌは縋り寄る民衆を払いのける。


「ええい。止めんか。お前達に食わせる飯はない。そうそうに立ち去れ!」

「おい、ちょっと待てよ。食料ならあるだろ?」

「それは私達とお前達の分だ。こいつらにやる分はない」

「ちょっとぐらい分けてやればいいじゃないの」


エリザが突っかかるようにマリアーヌに詰め寄る。

これがヴェズベルト騎士団のやることなのか。

民衆を救ってこその国だろうに。

ヴェズベルトもうまく行っているように見えて現実は逆なのかもしれない。

マリアーヌはエリザを突き放すと冷ややかな目で睨んだ。


「お前達は何もわかっていない。ここで食料を渡すのは簡単だ。しかし、それではこいつらを救ったことにはならない。こいつらは食料を食い尽くしたらまた食料をねだる。それを永遠と繰り返すだけなのだ」

「なら、どうすればいいって言うの?」

「後発隊に任せる。私達は先を急ぐぞ」


マリアーヌが言うように後から後発隊がやって来る保証はない。

それに後発隊がやって来るまで、この人たちは持たないだろう。

私はそっと荷台に登ると少しのパンと干し肉を掠め取った。

そして馬車が出立する時に、民衆のところへ放り投げた。

民衆は砂糖にたかるアリの様に食料に貪りついたのだった。


「この国も一見うまく行っているように見えて実はうまく行っていないのですね」

「国とはそう言うものさ。光ある所に影がある。光と影は切っても切り離せないからな」


この国もサンドリア王国と同じで独裁国家なのかもしれない。

アンナ女王の手腕で女性が多く起用されたようだが、国家としての基盤は何も変わっていないのだろう。

王位継承による王だから独裁色が強くなる。

それはどんな王が立っても変わらない仕組みだ。

たとえ民衆から選ばれた王だとしても権力を握れば同じように変わってしまう。

このシステム自体が独裁を生み出す温床なのだ。


馬車は順調に進み道半ばまでやって来た。

私達がいつもの要領で温泉を造ると、マリア―ヌたちは度肝を抜かれていた。

魔法をこんな使い方をするのは私達ぐらいだろう。

しかし、長旅の経験の中で生まれた貴重な技術なのだ。


「何で俺達の温泉だけ、こんなに狭いんだよ」

「仕方ないだろう。男は私とガルドだけなんだからな」

「それにしたってよ」


2畳ほどの広さの温泉にガルドと体をくっつけて浸かる。

確かにガルドの言うように狭すぎる。

エリザ達が手を抜いたようだ。

すぐにお湯は冷めて温くなる。


「こんなんじゃ風邪を引いちまう。女湯に浸からせてもらうぞ」

「おい、止めておけガルド!」


ガルドは私の忠告を無視して女湯に駆け込んで行く。

そして次の瞬間、天から神の雷がガルドを襲った。

エリザのサンダーボルトで焼かれ黒焦げになっている。

その姿はまるで焼き過ぎた秋刀魚。

恐るべし、女性パワー。

私は温い湯に浸かりながらひとり温泉を楽しんだ。


「まだ、クラクラする。エリザ、ちょっとやり過ぎじゃないか?」

「自業自得よ。いきなり女湯に飛び込んで来るんだから」

「しかたないだろう。お湯が温かったんだから」


ガルドの言い分はこのメンバー構成じゃ効かない。

周りは女性、女性ばかりなのだ。

それにしても裸のガルドが入って来ても意外に女騎士団はノーリアクションだ。

騎士としていついかなる時も冷静にいることを叩き込まれているからなのだろうか。

何もリアクションがないと、それはそれで悲しい。

それは置いておいて。


「ダルタウロ鉱山には工夫が働いているんだよな?」

「もちろんだ。私達は護衛のためお前達に同行している」

「それならよかった。魔水晶も私達が掘り当てるのだったら何日かかるかわからないからな」


マリアーヌは苦笑いを浮かべながら焚火に薪をくべる。

鎧を身に着けていなかったら、端正な顔立ちの美人だ。

言い寄って来る男共も絶えないだろうに。

まあ、こんな性格じゃ男共の方がお手上げだろうが。


「何だ?何か言ったか?」

「べ、別に何も言っていない。ただ、騎士なんて商売をやらなくてもよかったんじゃないかと思ってな」

「それは私の容姿のことを言っているのか?」

「そうとってくれても構わない」

「フッ、正直な奴だ」


マリアーヌは口元を緩ませて昔話をはじめる。


「私がアンナ女王に仕えたのは恩義があるからだ。私の両親は仲が悪くて毎日喧嘩ばかりしていた。子供のことを忘れるくらい争いばかりしていて、私は傷跡が絶えない毎日を過ごしていた。そんな折、前国王がお亡くなりになられた。国は大混乱に陥ったが王位を継承したアンナ女王が立て直した。その後、アンナ女王が女騎士団を結成することになり、私はアンナ女王に引き取られた。両親はいくらかの金を手にして満足していたようだったが」

「それで」

「その後、私は女騎士団になるための訓練を受けた。くだらない毎日から解放されて充実した毎日だった。そして私は騎士団長の座に登りつめ、今に至る。アンナ女王には感謝の気持ちしかない。後に両親は病気でなくなったようだが、ぜんぜん悲しくなかった。私の主君はアンナ女王ただひとりだからな」

「アンナ女王が人情味ある人物だってことはわかったよ」

「少しおしゃべりが過ぎたようだな。私は眠る。見張りを任せたぞ」


マリアーヌは毛布にくるまりながら体を横にした。

戦いの道に進まなければまた違う人生を歩んでいたはずだ。

しかし、マリア―ヌにとっては今の道が正解だったのかもしれない。

アンナ女王と言う主君を持って、揺るがない決意を得たのだろう。

それはマリアーヌにとってもアンナ女王にとっても心強いものだ。


「みんないろいろあるのね」

「何だ、エリザ。起きていたのか?」

「話し声が聞こえて来たから」


エリザは体を起こして毛布をくるませる。

今夜はほんのり空気が冷たい。


「私ね。後悔していないの。父さんが亡くなって悲しかったけど、今はタクト達がいてくれるから。ありがとうね、タクト」

「なっ!」


エリザは身を寄せて私の頬にキスをした。

それはLOVEと言うよりLIKEの気持ちからだ。

私達は冒険をはじめてからいろいろな困難を乗り越えてきた。

その時間の積み重ねが私達の友情をはぐくみ強さへと変わっている。

私はエリザ達に出会えたことを心から喜んだ。


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