67「二人の会話」
夜のギルドは昼間とは打って変わって静まり返っている。
冒険者達もちらほらしかおらず貸切状態だった。
私とプリシアはガルド達と別れてギルドへ報酬を受け取りにやって来た。
「ポイズントードと紅蓮サソリよね。いくらになるのかな?」
「ポイズントード30と紅蓮サソリ30で90万ゴールドだ」
「そんなに!」
プリシアはニヤニヤしながらお金の使い道を考えている。
まあ、無駄遣いしてもお釣りがくる金額だから心配ないが。
それよりもプリシアの服を新調しないとな。
ポイズントード戦ですっかりボロボロだ。
私は報酬を受け取るとプリシアに言った。
「プリシア、新しい服を新調しに行くぞ」
「えっ、私の服を新しくしてくれるの?」
「そんな格好じゃ目立って仕方ない。女の子なんだしもっと身なりに気を使え」
プリシアはニヤニヤしながら私にすり寄って来る。
「何だ、タクト。私のことを女の子として見ていたのね。ムフフ」
「何だよその笑いは」
「こっちのこと」
プリシアは終始ニヤニヤしながら私に纏わりついていた。
ヴェズベルト王都の服飾店も立派なもので豪華な服飾が並んでいた。
しかも女性服の割合が男性服を圧倒している。
さすがは女性が活躍している国だけのことはある。
「プリシア、決まったか?」
「これもいいし、こっちのもカワイイな」
「おい、プリシア。洋服を買いに来たんじゃないぞ。戦闘用の服を選べ」
「わかってるって」
プリシアは着せ替え人形のように鏡の前で服をあてがっている。
たまのショッピングだから気持ちが上がるのも無理はないけど。
プリシアの戦闘服選びが小一時間続き、私はすっかり疲弊していた。
「タクト、これにする」
「やっと決まったのかよ……って!何だその服。ほとんど布がないじゃないか!」
「驚いた?」
「驚いたじゃない。そんなのは認めないぞ」
「タクトってば、冗談が通じないんだから」
ひとり狼狽している私を見やってプリシアはしめしめと笑う。
はじめから私のリアクションを期待してやってことのようだ。
いくらプリシアが幼児体系だからと言って、露出度の高い服を着れば男共は興奮してしまう。
何より戦闘向きじゃない。
そんなものは却下だ。
結局、プリシアが選んだ服は今の服と変わらないデザインの服だった。
オーダーメイド品ではないので価格は破格。
とりあえずの服として落ち着いた。
その帰り道、
「ねぇ、タクト。プリムは聖女になったほうが幸せかな?」
プリシアが急にそんな質問をして来た。
「聖女としての素質はあるようだが、それが幸せに通じるかと言えば別問題だ」
「なら、私達と冒険を続けた方がいいのかな?」
それを決めるのは結局のところプリムしかいない。
幸せを感じる度合いもきっかけも人それぞれだ。
プリムにとっての幸せはプリムにしかわからないだろう。
「それよりプリシアはサラーニャ地方出身だったよな。故郷は近いのか?」
「タクト、覚えていてくれたんだ!ムフフ。私の故郷はダルタウロ鉱山の近くよ」
「なら、魔水晶を採掘し終わったら寄ってみよう」
「いいの?」
「プリシアの両親にも会ってみたいしな」
「タクト、それって……」
私の何気ないひとことにムフフと笑うプリシア。
私の周りで鼻歌を歌いながら軽快な足取りに変わる。
何を期待しているのだか。
プリシアが何を考えているのは気になったが、そのままで城へ戻った。
私達の様子を眺めていたカイザルがしめしめと笑みを浮かべる。
運気は俺に向いて来たと。
城に戻るとガルドはすっかり出来上がっていた。
女王が用意した上級の酒をたらふく飲んだからだ。
床には空の酒瓶が3本転がっていた。
「もう、飲めねえぜ……ムニャムニャ」
「おい、ガルド、しっかりしろ。明日は魔水晶を採掘に行くんだぞ」
「大丈夫……ムニャムニャ」
ガルドは床の上に大の字になりながら寝息を立てている。
これじゃあベッドに運ぶのはダメだ。
そのままにしておこう。
エリザとルーンは先に休んだらしい。
プリシアが部屋に戻ると明かりが消えて暗かったと言う。
しかし、その中にプリムの姿はなかった。
エリザが言うには夜風にあたって来ると言って部屋を出たそうだ。
「こんな高い所から空を見るなんて久しぶり」
「レイチェルも、ここから見る空が好きだったわ」
テラスで夜空を見上げているプリムの隣にアンナ女王がやって来る。
昼間とは打って変わってパジャマを身に着けている。
その姿は女王と言うよりもひとりのお婆さんだった。
「見て、この手。いつの間にかしわしわになってしまったわ。昔はもっと張りがあったのよ」
「……」
アンナ女王は優しく手を摩りながら目を細める。
「レイチェルがこの城を去ってから私は苦悩したわ。何せはじめて女王だから苦労も多くてね。周りの大臣達はみんな敵だったわ。私を陥落させようと策略を練っていたの。私はいつ狙われるかわからない恐怖に怯えながら女王として務めて来たの。プリムにはわかるかしら?」
「私にはわかりません。女王になってことなんてないし。けど、おばあちゃんの気持ちなら何となくわかる気がします。きっと女王様を苦しめたくなかったんだと思います」
プリムの的確な答えに静かに拍手をするアンナ女王。
アンナ女王自体、その答えを待っていたかのような反応だ。
プリムにはわからなかったが、アンナ女王はこの先のことも見通しているかのような素振りをする。
それは経験に裏付けられたアンナ女王の熟考なのだ。
「あなたはレイチェルに似ているわ。容姿もそうだし何より魔力の波長がそっくり」
「女王様は私の魔力がわかるんですか?」
「わかるわ。長い間、レイチェルと一緒にいたから、魔力を感じる方法も教えてもらったわ」
アンナ女王はプリムの手を取るともう片方の手を重ねる。
「こうして念じるとあなたの魔力の波動を感じられるの。ドクドクって心臓の鼓動のように波動が伝わって来るわ」
プリムはアンナ女王の柔らかな手に懐かしさを覚えた。
それは幼い頃、祖母に抱きしめられたような感覚。
プリムが生まれた時は既にレイチェルは亡くなっていたけれど、そんな感じがしたのだ。
それはきっとアンナ女王の温もりが祖母と似ていたからだろう。
「私は……」
「少し冷えて来たわね。さあ、部屋に戻って眠りなさい。明日は早いのですから」
プリムが言葉を発しようとした時、アンナ女王が遮るように告げる。
きっとアンナ女王はプリムが何を言おうとしていたのかわかっていたのだろう。
それを遮ったのはアンナ女王ならではの考えがあったからだ。
この時、アンナ女王は確信していた。
プリムが聖女として自分に仕えてくれることを。




