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66「謁見」

サラーニャ地方最大の街、ヴェズベルト。

西側に広がるウルネス湖から引かれている豊富な水が街を潤している。

街の中に張り巡らせてある水路は草木を育み空気を浄化している。

ヴェズベルト王都は別名、緑の軍艦とも呼ばれているほど緑に溢れているのだ。


「ヴェズベルトに着いたぞ。それじゃあ降りてくれ」

「つれないことを言うなよ。俺達の仲じゃないか」


カイザルは慣れ慣れしく私の肩に手を回す。

私はその手をを払いのけるとカイザルに詰め寄る。


「お前とはこれまでだ。お前は私達に罠をかけただろう?違うか?」

「俺がそんなことをすると思っているのか?」


会話を聞いていた誰もが大きく頷く。


「おいおい。冗談はよしてくれよ。俺は……まあ、いいや。それじゃあな」


バツが悪くなったのだろうか、カイザルは諦めて、その場から立ち去る。

反論できるだけの正当な理由もない証拠だろう。

これで目の上のたんこぶは取り払うことが出来た。

素性のわからない人物を身近に置いておくほど私は出来た人間じゃない。

何かあってからでは遅いのだ。


「それよりタクト。女王に謁見するの?」

「もちろんだ。女性の立場で王位を継承したなんて凄いことだからな」

「いきなり行って私達に会ってくれるでしょうか?」


それが一番の問題だ。

グラハム地方ならばダゼル国王からもらったメダルが役に立つが、サラーニャ地方でも役立つのかはわからない。

いちおうグルンベルグ王国の紋章は入ってはいるが。


「俺達はいっかいの冒険者だぞ。そうそう女王が謁見してくれるものなのか?」

「ガルドの心配は最もだ。しかし、ここまで来て手ぶらで帰る訳には行かないだろう」


議論は膠着状態に陥る。

女王から見たら私達は異国から来たよそ者だ。

多忙な女王が見ず知らずの冒険者に時間を作るとも思えない。

献上物でもあれば、それを口実に使えるのだが。

すると、話を聞いていたプリムが白銀の十字架を差し出して言った。


「この聖女の十字架を見せれば大丈夫かも」

「それはいい考えだ!」


私は手をポンと叩いて十字架を見やった。

ヴェズベルト王国は聖女の力を借りて来た歴史がある。

たしか今の女王の代まで聖女がいたのだが、それ以降はいなくなったと言う。

理由はわからないが、聖女の十字架を見せればきっと謁見してくれるだろう。


「よし、みんな。ヴェズベルト城へ行こう」


ヴェズベルト城の門の前には騎士が立っている。

重厚な鎧を身に着けていて厳つい感じを覚えるが、よく見ると女騎士だ。

私達が城に入ろうとすると槍を翳して止められた。


「お前達、ここへ何の用だ?」

「女王に謁見したい」

「謁見だと!?お前達のような者達に女王様が会う訳ない。そうそうに立ち去れ」


いきなり門前払いなんて、最もな対応だ。

まあ、それも仕方がない。

私達はどこぞの国から派遣された使者でもなければ、この国の騎士でもないのだ。

初見の相手に女王が謁見するなんて普通はしない。

大抵は使者を派遣して事前会談を行ってからだ。

しかし、私達には切り札がある。

私はプリムに目配せをして白銀の十字架を差し出させる。


「これが何かわかるよな?」

「それは聖女の十字架。何でお前達がそれを持っている?」

「これは私のおばあちゃん形見なの」

「おばあちゃん?」


女騎士達はお互いに顔を見合わせて困惑する。

すると、城の中から白銀の鎧を身に着けた女騎士団長がやって来た。


「何を騒いでいる」

「マリアーヌ様。こいつらが聖女の十字架を持っていまして」

「そうか。お待ちしておりました」


マリアーヌは私達に向き直ると深々と頭を下げる。

その礼儀正しい対応に私達は動揺しながらお互いの顔を見合わせる。

”待っていた”とはどういうことなのか。

私達がこの城へ来ることをはじめから知っていたと見た方が正解かもしれない。

アンナ女王は情報収集に徹すると言う話を聞いたことがある。

もしかしたら、シグの港へ入港した時から監視されていたのかもしれない。

私がそんなことを考えているとマリアーヌは告げた。


「アンナ女王様がお待ちです。こちらへ」


私達はマリアーヌに案内されながら城内へ入る。

白を基調とした石造りの壁にヴェズベルトの紋章が刻まれている。

大広間を抜けると歴代の国王の彫像が出迎える。

歴史の長さを象徴させるかのような数だ。


「アンナ女王様はこちらです」


私達が通されたのは玉座の間ではなく応接室だった。

マリアーヌは扉をノックして部屋の中に入って行く。

そしてアンナ女王の前へ行くと敬礼をしながら報告をする。


「女王様。策士タクトとその仲間をお連れしました」


こちらの名前も職業も承知済みか。

さすがはヴェズベルトの女騎士団長。

情報に抜かりはないようだ。


「お待ちしてましたよ。あなたが策士タクトですね」

「そうです」


アンナ女王は優しい顔をしながら私達を見やる。

そしてプリムに目を止めるとじっと見つめた。

プリムは慌てて自己紹介をする。


「わ、私はプリム・グラッセ。シーフをしています」

「あなたがレイチェルの」

「は、はい。レイチェルは私のおばあちゃんです」

「よく知っているわ。親友でしたからね」


恐縮するプリムにクスクス笑いながらアンナ女王は顔をほころばせる。


「お、おばあちゃんはどんな聖女だったんですか?」

「腕の立つ聖女でしたわ。レイチェルの右に出る者はいないくらい強い魔力を持っていたの。今の私があるのもレイチェルがいてくれたおかげね」


アンナ女王の言葉にプリムは嬉しそうな顔を浮かべる。

その目は好奇心と感動に溢れていた。

自分が褒められたような感じを持っているのだろう。

アンナ女王が話すレイチェルのことにプリムは頻りに感動していた。


「それで本題に入りたいのですが」

「それよりお掛けになって。お茶をしながら話しましょう」


アンナ女王が手を叩くと側室達がやって来てお茶の準備をはじめる。

私達は女王に促されるままテーブルに就く。

そして差し出された紅茶を一口飲んで香りを楽しんだ。


「この紅茶美味しい」

「スッキリした味わいですね。ミントですか?」

「よくご存じね。ウルネス湖の水で育てたミントを使っていますわ」


エリザとルーンは紅茶に満足しながらアンナ女王と言葉を交わす。

威厳をさらけ出すのではなく、慎ましやかな態度。

一国の女王とも思えない応対だ。

国政では冷徹に徹し、交流では人情味を見せる。

これがアンナ女王の女王たる所以なのか。

私は関心するしかなかった。


「あら、おしゃべりが過ぎましたわね。それでは本題に入りましょう」

「アンナ女王様は何で私達が来るのを待っていたのですか?」


アンナ女王は顔を曇らせて静かに告げる。


「あなた達に魔水晶を採りに行ってもらうためよ」

「またクロス城の地下へ行くんですか?」

「違うわ。北部にあるダルタウロ鉱山に行ってもらおうかと考えていてね」


アンナ女王の言葉を受けてエリザはほっと胸を撫で下ろす。

またあの強敵と戦うのは私も避けたい。


「ダルタウロ鉱山は魔水晶の原石が豊富に採れるのよ」

「原石ですか」

「精製しないと強い魔力は発生しないけど、魔獣対策には必要不可欠なものだわ」


しかし、魔水晶を手に入れても聖女がいなければ意味がない。

聖女はプリムの祖母レイチェルの代で尽きてしまっている。

まさか、アンナ女王はプリムを聖女に祀り立てるつもりか。


「あなたの心配は最もね。こんなに小さいプリムに聖女として立ってもらうのだから」

「私が聖女?」

「そうよ。あなたはレイチェルの血を引いた立派な聖女よ」

「でも……」


アンナ女王の発言に自信をなくすプリム。

俯いたまま口を噤んだ。


「プリムにまだ戦いは早いのでは?」

「そちらのお嬢さんも戦っているのでしょう?」

「えっ、私?」


アンナ女王の突然の振りにきょとんとするプリシア。

自分のことを言われているのかわからないようだ。

確かにプリシアは前線で戦って来た。

プリムと同い年だけど戦力としては申し分ない。

しかし、それはこれまでの戦いの経験があってのことだ。

残念ながらプリムには戦闘の経験がない。

果たしてそれで聖女の役割を果たせるのか。


「プリム様の安全は私が命に代えてでも守ります」

「マリアーヌもこう申しています。プリムを私達に預けてください」

「……」


今後、プリムをどうするのかは私が決めることではない。

プリムの母親からはお願いされているが、プリム自信が決断するべきだ。

聖女としてアンナ女王に仕えるのか、それとも私達と冒険を続けるのか。


「その判断はプリムに任せます。私達は魔獣討伐へ向けた戦力アップをしなければなりません。これからも危険は伴うでしょう。私達と一緒にいれば安全だと言う保障もありません。この先、プリムに危険が及ぶこともあるでしょう。決めるのはプリムです」

「急にそんなこと言われたって……」


私の突然の言葉にプリムは動揺しながら口を噤む。

プリムの可能性を考えるならば聖女としてアンナ女王に仕えるのがいいだろう。

せっかく正当な血を受け継いでいるのだ。


「プリムも迷っているようだし、魔水晶を採掘するまで時間を与えます。それまでに答えを聞かせてちょうだい」

「……わかりました」


プリムは覇気なく返事をする。

プリムの動揺が空気を伝って届いていた。


「では、私がダルタウロ鉱山まで案内します」

「そうしてちょうだい」

「今から行くんですか?」


アンナ女王は窓の外を見やりながら答える。

すっかり陽が傾き西の空が茜色に染まっていた。


「出発は明日にしましょう。今夜はここに泊まってちょうだい」

「城に泊まるのかよ。俺は宿屋がいいぜ」

「あなたはお酒が飲みたいのでしょう。この城にも上級のお酒はありますわ」

「マジかよ。なら、城に泊まる」


ガルドはニヤニヤしながあっさりと上級の酒に釣られる。

ガルドには重要なことは言わないようにしておこう。

あっさり口を割られても困る。


「なら、皆さんをお部屋に案内して」


アンナ女王が手を叩くと側室達が応接室に入って来る。

そして私達を連れて寝室まで案内した。


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